第11話〜命賭け⑤〜
殺人ロボットの製造に関わってると思われる玩具会社『スレイトイズ』。
その社長、都園懸悟はカナリアの会幹部の超能力者だった。
正体を現した都園の罠でまずは赤井萌に異変が起こる……。
「あうっ.......、ああぁぁぁっ!!」
(呻く赤井の口から、薄い赤井がフワフワと飛び出していくっ!? もしや、これが赤井の魂!)
赤井の魂が衣装棚に吸い込まれていく。
そして、赤井の体は糸の切れたタコのように、倒れ込む。
「モエちゃんっ!」
それを、内木さんが受け止めた。
「もう遅い、内木遊。お前が抱えているのはただの抜け殻。ヤツの主体は既にこの衣装棚の中だ」
「..............」
……どうやらマジらしいな。
内木さんが抱えてる赤井の体は、もうピクリとも動かない.......!
「そんなっ.......」
「返してっ! モエちゃんを返してよ!」
(無駄だメグ。返せって言って返すようなヤツなら、こんなことはそもそもしない......!)
「.......水野恵。俺の誕生日は何月何日だと思う?」
「え、えぇっ!? そんなの分かるわけないじゃん! 意味不明です!」
「3秒以内に当てたら赤井萌を返してやる。3、2……」
(突然なんだ!? この問答に、何の意味が............。............っ! まさか!)
「はぁ!? 分かりました約束してくださいねっ!? それじゃあ、12月.......」
「やめろメグ! 答えるなっ」
「21! ......って、え? ヒカリちゃん何.......」
最悪だ!
間に合わなかった!
「バカ。ハズレだ。水野恵、お前の負けだな」
社長……改め都園がそう言うと同時に……。
「うぐっ.......! うぁぁっ!!」
「メグ!」
「お前のような単細胞を欺くことなど実に容易い」
「ああぁぁぁっっ…………!!」
メグの魂も赤井同様に口から飛び出していく……!
「さて、これでA級もあと2人だな」
(よくも2人を.......っ!)
「このヤローッ! 2人を元に戻せ!」
私はヤツに思いきり殴り掛かる。
きっとコイツは戦闘力がないタイプの超能力者!
半殺しにして力尽くで戻させてやる!
「おっと。ストップだ、輝木光」
「うるせえ! 見苦しく命乞いするんじゃない!」
「待って、ヒカリちゃん! ダメ!」
しかし、それを突然内木さんに制止された。
「う、内木さん.......? どうして.......? 黙って引き下がれって言うんですか!?」
「ほう。気がついたようだな、内木遊」
「落ち着いてヒカリちゃん.......。もしアイツをぶっ飛ばしたとしても、2人はきっと返ってこない.......! アイツを殺しでもしたら、永遠に2人は衣装棚の中......」
「そう。その通りだ。だが、2人の命を諦める覚悟があるのなら、俺をぶちのめせばいい」
「まるで人質か.......! 卑劣な手を.......!」
(クソ.......! 無理だ! 2人の命を諦めるなんてこと、私にはできない.......!)
「できないだろうな。輝木、お前は悪辣ぶっているが、心根から非情になることが出来ない人間だ」
アイツの言う通りだ。
私は仲間を……友達を見捨てられない。
「.......でも、ヒカリちゃん。私には分かるわ。2人を取り戻す方法が。そしてきっとアイツもそれを望んでいる.......」
「察しがいいな、内木遊。では今から、赤井萌と水野恵......この2人の命を賭けて勝負をしよう」
都園がそう言った。
(命を賭けて、勝負.......!)
「俺の超能力の正体はもう分かっただろう」
「何かを賭けて勝負をする.......。負ければ、魂を吸い取られる.......」
「ご名答だ。1度目は『真実を話すことを賭け、野球の勝敗を当てる勝負』、2度目は『赤井萌の魂を賭け、俺の誕生日を当てる勝負』.......。
そして、今から3度目の勝負をするというわけだ。俺はもちろん、この勝負に『赤井萌と水野恵の魂を返すこと』を賭ける」
そうくるわけか。
2人の魂をダシに、さらに私たちの魂を奪うつもりだ。
アイツの狙いは、私たちA級の全滅!
「勝負の内容はなんだ? 1981年6月24日生まれ京都府出身兄弟なしの血液型A型、株式会社スレイトイズ代表取締役社長の都園懸悟さんよ」
「なるほど。調べたからもうさっきの手は使えないと……輝木、そう言いたいのだな?」
これだけ『お前のことは調べたぞ』とアピールすれば、もう誕生日当てといった理不尽は仕掛けられないだろう。
「安心するがいい。俺しか答えの知らないクイズなど面白くない。そもそもお前たちには、『降りる』という選択肢だってある」
「降りるだと.......? 人質を取っておきながら白々しいぞ都園懸悟!」
「俺の能力は徹底的に平等だ。相手が了承しなければ勝負は発生しないし、仮に俺が負ければ魂を吸い取られる。では、競技を決めようか」
了承しなければ勝負は発生しない.......。
ならば、無茶苦茶なものは、透かさず突っぱね続けるんだ。
アイツだって、ここで私たちを全員始末したいと考えているなら、私たちが受け得る妥協点を探ってくるはず。
「そうだな.......。ここはオモチャ会社だ。それらしく、『ゲームで勝負』というのはどうだ?」
都園懸悟の提案してきた勝負は、私たちの想像とは大きく違った。
「げ、ゲームだって.......? ふざけているのか? この局面で.......」
「ふざけている? いたって真剣だ。 勝負事に貴賎などない。価値を決めるのは、賭けるものの重さだ」
「はぁ?」
「大きい代償が伴うのならば、誰だって真剣に向き合うものだ。たとえどんな些細な事でもな。
そして、今から賭けるのは命そのもの。どうだ? これでも俺がふざけているように見えるか?」
「.......ゲームの種類はなんだ。まさかノベルゲームとか、1人用のRPGを選ぶわけじゃないだろ」
(しめた。これはラッキーかもしれない。ゲームなら、こっちには内木さんがいる)
「そうだな……。パケットモンスター.......でどうだ」
(やったぞ! パケモンだ! 内木さんのパケモン強さは尋常じゃない!
私は実際に何度も戦って、9割は負けた。彼女の腕は、私が保証できる!)
「当然不正なデータは使用しない。飽くまでも公正な勝負だ」
「............分かった。じゃあまず私からだ」
覚悟を決めろ。
大丈夫、信じるんだ。
そう念じて私は前に出る。
「ヒ、ヒカリちゃん.......」
勝てる可能性が高い内木さんをあとに残す!
そして、私が都園の戦術、プレイスタイル、思考形態.......それらを可能な限り引きずり出す。
内木さんの勝率を少しでも上げるため、私は捨て駒になった方がいい……!
「輝木。何言ってるんだ? お前一人では、賭け金が足りん」
「はぁっ.......!? なんでだよ!」
「考えてもみろ。まずプレイヤーである俺とお前。これで1対1、平等だ。
だが、それに加えこちらは更に『赤井萌から奪った魂を返すこと』と、『水野恵から奪った魂を返すこと』を賭けている。
俺の勝負の条件として、1人分賭けるのはまだいいが、2人分は釣り合わないだろう? 」
「はぁ?」
「今からの勝負に2人分賭けろ。『2人』を取り戻したいなら、お前らが賭けるのも『2人』だ」
「なっ! バカ言うな!」
「当然だろう。公正でなければ勝負ではない」
(ふざけるなっ。今までのだって公正でもなんでもない! 騙し討ちで人質を取っておきながら.......!)
「た、確かにアイツの……都園の言うことも、一理あるわ.......」
「内木さん! 何言ってるんですか!」
「流石は内木遊。物わかりがいい。生粋のゲーマーなだけはあるな」
「それだと、私たちに許されるチャンスは1度きりになる.......! 負ければ皆殺しなんですよ!?」
「そんなこと、負けなければ何の問題もないはずだ。勝つ自信がないのか? さあ、やるかやらないか。どっちなんだ?」
「か、勝つ自信は.......」
私は黙り込んでしまう。
そもそも私は捨て駒になる気だった。
「.......。俺からのアドバイスだ。ここで言い淀む人間に、大きな賭けを制することは出来ない。しっぽを巻いて逃げることをオススメする」
悔しいがヤツの言う通りだ。
確かに私は今、怖気付いて1歩引いた.......!
初めから負け犬気分で挑む勝負に、勝算はない.......!
「......やらせて」
(! この声は……)
「私がやる。勝つ自信はあるわ。みんなの未来も、私の未来もこの手で勝ち取ってみせる」
「内木さん.......」
内木さんが私の前にせり出し、そう言った。
「ヒカリちゃん.......お願い、どうか私を信じて。絶対誰も死なせない」
そう言った内木さんの目を見る。
私に迷いはなかった。
「......当たり前です。勝負がゲームなら、私がやるより内木さんがやった方がいい......。
その内木さんが勝つというのなら、信じます。魂でも命でも何だって賭けますとも! 元よりそのつもりです!」
「.......。ありがとう、ヒカリちゃん」
「いい返事だ。では宣言しろ。この勝負に......」
「私、内木遊と」
「輝木光の.......」
『命を賭ける!』
『ズオオォッ..............!』
「な、なんだ! この摩訶不思議な空間は!?」
勝負了承の宣言直後……禍々しいとも、神々しいとも形容しがたい謎の薄紅色の靄が、内木さんと都園懸悟の周りにたちのぼった!
「安心しろ。その靄は無害だ。何もしなければな」
困惑する私に都園懸悟が言う。
「何もしなければ......?」
「そうだ。それは公正さを守るためのもの。だから、お前たちがルールを破ったり、不正を働いた際には.......」
「ど、どうなるっていうんだ.......」
「いや、伏せておくことにするよ。なに、気にする必要はない。それとも、『不正をするつもり』だったのか?」
「そんなことしないわ。私は正々堂々と、あなたに勝つ」
(内木さん……)
「良い心がけだ。それでは、ゲーム機に電源を入れろ、内木遊」
「分かったわ......」
『――――♪』
たかがゲームに電源を入れるだけで、この威圧感.......。
今から始まるのは間違いなく、大勝負.......いや、殺し合いなのだ!
(......殺し合い? ちょっと待て)
「都園。お前も魂を吸い取られたら死ぬのか.......? 奪った魂はお前が管理してるんだろ? どうなるんだ?」
もしこれで『自分の超能力だからすぐ戻せます、はいもう1回』とかだったら、私たちが命を賭けたのはバカみたいじゃないか。
それに、こいつは死なすわけにはいかない。
カナリアの会の情報を引き出すために――
「さあな。やはり死ぬんじゃないか? 負けたことがないから分からない」
「!」
負けたことがない.......?
そんなのおかしい!
真に公正であれば、とんでもない不運に見舞われて敗北することだってある。
それがないということは、絶対に勝つための何かがあるってことだ......!
「内木さん、気をつけてください! 勝負事に絶対なんてない。アイツ.......きっとなにか仕掛けてきます」
平等だなんて口だけだ。
間違いなく何かある!
「準備はできたか?」
「えぇ」
内木さんと都園懸悟のバトルが始まる!
--------(side:内木遊) ---------
『キーンコーンカーンコーン.......』
校内に響くベルの音。
これは、11年前。
私が中学生だった頃の話だ……。
都園懸悟の罠により、赤井萌と水野恵の2人は衣装棚へと魂を封じられてしまう。
そして2人の命を賭けて、内木遊はパケットモンスターで都園懸悟と戦うことになった。
その時、内木遊は彼女の忘れられない過去を思い出す……




