第11話~命賭け④~
国井守から頼まれた護衛任務を完遂し、
次は殺人ロボットの調査に赴く女子A級たち
久々の全員集合となったが、無事に事件を解決できるのか?
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「やっぱ分かんないって.......。こんなところに手がかりなんて残すはずないでしょ.......」
私たちは今、最初に総理たちがいた建物に戻り、壊れた殺人ロボットを調査してした。
「素材は鉄.......、左手部分についている刃物だけ、チタンを使用してますわね」
「チタンって.......ちょっと高い包丁かよ」
「左には刃、右手には銃って、殺意マシマシ悪意多めなロボットねぇ。頭には何がついているのかしら?」
内木さんが変な言い回しをしつつ、頭部を調べる。
「.......ひゃあっ!? は、離れて! こ、これ、毒よ! 猛毒!」
内木さんは焦って後ろへ飛び退いて言った。
「このロボットは人型だから、人間は『無意識に人体の急所である頭を狙ってしまう』.......。そこにつけ込んで、頭から毒を、という計算なのでしょうか。
ヒカリ、良かったですわね。毒をくらわなくて」
「本当本当。毒だと私も簡単には治せないもん! 死ななくするのが精一杯だから、ヒカリちゃんはしばらく病院送りだったよ!」
(あ、危ねぇ......)
「な、なんで内木さんはそんなこと知ってるんですか.......」
「警察官だからよ。少し前に、北の偉かった人が暗殺されたでしょう? その時、警察全体で毒物への警戒を.......みたいな講習があったのよ」
(あぁ、あの事件……)
「あ、でしたらこの右手から何か分かったりしませんの? ほら、警察の方は銃に詳しそうじゃないですの」
「こ、これぇ? 多分分からないわよ.......? 確かに私、銃とかは割と好きだけど、種類がわかったところで.......って気もするし.......」
「やっぱこんなところに手がかりはないんですよ.......。私がロボット側なら絶対残さないですもん。わーい、楽しいー」
赤井と内木さんが熱心に調べていて、私は手持ち無沙汰なので、銃弾をお手玉にして遊ぶ。
「ヒカリ、少しはやる気出してくださいまし.......。ほら、ロボットのCPUに製造元のデータが残ってたりしませんの?」
「そんなのもう見たよ。ダメだった。ズタボロの状態だったもん。アレから読み取れる情報なんて皆無だよ、皆無」
「電圧で焼き切れてしまったのね.......」
「だからって次は電気流さないで拘束しろとか言わないでよ? 実は毒もあったみたいだし、さすがに死ぬわ。あー、お手玉楽しい楽しい」
「何してるんですの……」
「お手玉だけど? おおっと.......」
銃弾を落としてしまった。
「そういうことじゃなくて、少しは手伝って......」
赤井が呆れ顔で言いかけた、その時だった。
「ちょっと待って!! その銃弾、よく見せて!」
内木さんに銃弾を取りあげられた。
「分かり辛いけどこれは、エクスパンディング弾.......。人体に当たった直後に、弾の先端部分が拡張し、体内を引き裂くという弾ね。
貫通しないことで、衝撃を100パーセント対象に伝えるの」
「こわーい! 最悪じゃないのさそれ!」
メグの言う通り、本当怖いな。
私の知らない銃弾テクノロジーがいっぱいあるんだな。
「このタイプの弾の大抵が、ホローポイント弾と言う区分で、先端部分に空洞があるの。だけど、この弾には.......」
「空洞がないんですの?」
「ないとは言わないけど、小さすぎるとは思うわ。これじゃあ、的に当たっても開かないんじゃあ.......。でも、どうやって広がるのかなって.......。
代わりにあるのが、この星型の溝.......」
そう言いながら、内木さんは銃弾を1つ手に取る。
「うーん.......、例えば、こうしてぶつかると.......ほっ!」
そして、近くにあった木の板に、思い切り弾丸を打ち付けた!
「うわっ」
(びっくりしたぁ)
「.......やっぱり! やっぱりこういう作りだったのよ! ほら、見て! 強い衝撃を与えると、エクスパンディング弾と同じで、先端部分が開くの。そして中には針が仕込まれてるわ」
本当だ。
パッと見た感じは、小さいパラボラアンテナみたいなマヌケな構図になっている。
「この針には、触らない方がいいわね。きっとさっきの毒が入ってるもの。
でもこの程度の衝撃で開くなんて……かすったり、急所を外した時の致死率も上げる.......ということなのねきっと」
「怖いねー。あの人たちは人を殺すことしか考えてないのかなぁ」
「毒針もアレだけど、私が気になるのは開く側の方ね。かなり変わった手法なのよ。
普通は、銃弾が対象に当たった時の衝撃で、先端が潰れて開くみたいになってるんだけど.......これは、毒を仕込むためなのか、さらに精密な作りね。でも、これは..............」
内木さんがなんか猛烈に語り出している。
酔ってもいない彼女がここまで饒舌なのは、そうそうお目にかかれない。
「なんかオモチャみたいな形してますわね。でも、こんなマヌケな形でも人の命を簡単に奪えると思うと.......」
「あー、アレか? ボールからフリスビーに変形するみたいな。ガキの頃、もってたヤツいたなー」
私は赤井の言葉に適当に合わせる。
「..............オモチャ?」
(…………! この空気! まずい、内木さんが……)
実は内木さん、意外と短気で『好きなものを貶されると超怒る』!
そして怒ると怖い!
「あ、あのすみません.......別に銃をバカにしたとか、そういう意味ではなく.......」
「それよ! オモチャよ! ありがとう! 思い出したわ!」
「.......はい?」
「ということで、1つ行ってみたいところがあるの!」
内木さんに連れられ、私たちは『ある場所』へと向かうことになった。
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「ここよ。『株式会社スレイトイズ』」
着いた先は大手玩具メーカーの本社だった。
「イヤな名前してますわね」
「死ぬほど面白い商品を作るってことらしいわよ。創業は2、30年くらい前」
タクシーで30分ほど移動して、ビルディングと工場が一体化したこの建物へとたどり着いた。
内木さん曰く、この会社が例の殺人ロボット製造に関わってる可能性が高いらしいのだ。
「えーっと、エクスパンド式スピナー......でしたっけ?」
「そうよ。アレの作りと、例の銃弾の作り......これが酷似してるのよ」
内木さん曰く、18年ほど前に流行った『物にぶつかると大きく開くヨーヨー』と、あの銃弾の作りが同じとのこと。
しかもそのヨーヨー、この会社が特許を取っていて、他での製造は不可能なんだとか。
「モエちゃんもヒカリちゃんも、あのヨーヨーを知らないなんて.......。これがジェネレーションギャップなのね.......」
「3歳しか変わらないじゃないですか」
「その3歳は大きいのよ! あなた達は22歳.......、私は25歳.......。四捨五入したら.......!」
「そ、そんな無茶苦茶な.......」
「その話はここで打ち切りにして、中に入りましょうか.......。ヒカリ、鍵を開けてもらえます?」
赤井に促されて扉に手をかける。
テレビ局に侵入する時は『勝手に入るのは.......』とか言ってたのに。
赤井もついにこの生活に毒されたようだ。
「了解了解、隊長さん」
扉を開けて、無事に侵入できた。
「それでは、どうやって殺人ロボットの情報を得るか考えましょう」
ビルの入口付近を歩きながら話す。
「偉い人に教えてもらう!」
「偉い人って?」
「社長!」
「どうやって教えてもらうの?」
「脅す!」
「オーケー! さあ、行こう」
なんとも雑な方針が決定した。
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「.......来たか。どうやってここを特定したかは知らないが、いいだろう。
ロボットたちで太刀打ち出来ないA級は、俺が直接始末する。
もとよりその手筈だ。さて、準備をしておこう.......」
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最近の会社は私服勤務が多い。
それに、この会社は社員数も多いので、知らない人がいても疑問に思われないのだろう。
おかげで、私たちはそれほど怪しまれず奥までたどり着くことが出来た。
『バタン!』
「着いたぞ! ここが社長室で間違いないはずだ」
私はドアを勢いよく開ける。
「な、なんだ君たちは!?」
社長らしき人物が狼狽える。
「アポなし訪問失礼します、社長さん。突然ですが、これはなんでしょう?」
「.......じ、銃弾? おい、やめてくれよ。そんな物騒なものを近づけるのは」
私は単刀直入に社長へ尋ねた。
「申し訳ないですが、そういう訳にもいきませんわ。この弾に使われている機構は、御社の特許技術ですもの」
「銃弾の製造に、この会社が直接関与してるならアウトだし、仮に違ったとしても社内の機密事項が漏洩していることになるんですよ。内部に裏切り者がいるってことさ」
「お、俺を脅して揺する気か.......」
「脅すなんてとんでもありません。機密事項が漏れてるのは、御社にとっても由々しき事態。もしも私たちが来なければ、今後も情報を垂れ流し続けることになっておりましたわ」
「だけど.......今の反応はミスだな、社長さんよ。『脅す』だの『揺する』だの思いつくのは、自分が疚しい行為を働いていた証拠」
この社長はクロだ。
今のやり取りだけで充分わかった。
「くっ.......」
「全てを話していただけませんか。もし、アナタにのっぴきならない事情があるのであれば、必ずや更生の機会は与えられるはずですわ」
「..............。分かった.......。全てを話そう.......。アレは2年ほど前のことだったかな.......」
社長が観念して諦めたようだ。
武力行使することにならず、私も含めてみんな安心したようだ。
「.......はぁ。気が重いな.......。やはり俺は小心者だよ.......。済まないが、少しだけ俺の話にも付き合ってくれないか.......?」
(面倒くさいヤツだな。早く話せよ)
「小心者だなんてことありませんわ。アナタは自分の犯した過ちから逃げ出さずに向き合おうとしている。立派ですの。アナタの勇気を奮い立たせるお手伝いが出来るなら、喜んでお話に乗りますわ」
私と違って赤井は優しく社長へと声をかけている。
「ありがとう.......。では、これを見てくれ」
......社長が差し出すスマホ画面に写っているのは、プロ野球の速報アプリだった。
(どういうことだ?)
「俺は野球が好きでね.......。少し気持ちを落ち着かせたいんだ.......。ねえ、君。この試合、どっちが勝つと思う?
君が当てたら全てを正直に話すよ。.......当てなくても話すつもりだが」
試合は福岡フォックス対富売リリパッツ。
9回裏のワンナウト一塁。
3点差でフォックスのリード。
リリパッツは最後の攻撃。
あとツーアウトで敗戦だ。
(こんなの結果は決まってる。勝つのはフォッ............)
「リリパッツですわ。次世代の主砲、岡林のツーランホームランから反撃開始ですわ!」
「.......そうか」
赤井は完全に夢物語の予想を答えた。
(そんなアホな。頭の中はお子様セットかよ)
「ではせっかくだから.......テレビもつけるかね」
テレビではオープン戦が中継されていた。
『岡林打った! 鋭い当たり!
......ショート今田取った! ファインプレーでショートライナー!
おおっと、一塁ランナー真田飛び出している! 強肩今田は一塁送球!
アウトです!ダブルプレー、試合終了!
5対2でフォックスの勝利です』
(ほら、言わんこっちゃない)
「.......この賭けは君の……負けだな」
「え? えぇ。でもファンとしてはやはり、リリパッツ勝利を予想しなくてはなりませんもの。それに今のはオープン戦ですから。
別に負けても..............ッ! うぅっ! あうっ.......!」
「あ、赤井? どうしたんだ赤井!」
突然赤井が顔を真っ青にして口元を抑えている.......!
まさか、またインフルエンザか.......!
「おい、しっかりしろ赤井!」
「うあっ..............っ!」
いや、インフルエンザじゃない.......!
明らかに、常軌を逸した苦しみ方だ!
「勝負に敗れた赤井萌は、今から魂を吸い取られ、この『衣装棚』の中に封印されるのだ」
(なっ.......! 今の声は、あの社長!)
「お前! 何言って.......!」
「俺の名は都園懸悟。カナリアの会幹部の超能力者だ」
この社長がカナリアの会の幹部だと……!?
殺人ロボットに関わる会社を特定して向かう女子A級。
しかし、そこではカナリアの会幹部の都園懸悟が待ち構えていて、赤井萌が奇襲を受けてしまう……。
次回、激闘!




