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26 大会を終えて


「さすが乙女だよ!」


 制服に着替えて会場に戻ったおうぎは、試合を終えた乙女に対して目を輝かせた。


「いやー、最初はどうなることかと思ったけど、ちゃんと集中できたみたいでよかった!」


 乙女のほうも、心底嬉しそうに笑顔を返す。


「二人のチア服のおかげだよー」


 楽しそうな二人の姿に、葵が声を張り上げる。


「ちょっと! 負けたってわかってる!?」


 そう。一回戦の結果は、敗退だった。


 百点もの点差があったのだ。そこからの大逆転など、乙女に起こせるはずもない。


 集中してからの残り五投は、すべて花散里だった。


 十投の合計は五点。


 乙女にとっては、いつもとそう変わらない結果だ。


 チームとしては、ただ点差を広げるだけに終わった。


 けれども、乙女は嬉しそうに笑う。


「負けちゃったけど、楽しかったから」


「うんうん、やっぱり投扇興は楽しんでやらないと!」


 おうぎも満足そうに頷いている。


 これに葵が呆れたようにため息をつく。


「楽しむのもいいけど、部活はどうするのよ?」


「……え? 部活って?」


「忘れてたの!? 部活作るために、実績作ろうって話だったでしょ!?」


「はっ! そうだった!」


「ほんとに忘れてたのね……」


 半眼になる葵に、おうぎは乾いた笑いを漏らした。


「し、仕方ないって。部活作りは、他の方法を考えよう!」


「はぁ……まぁいいわ。私も、どうせ優勝なんてできないって思ってたし」


 苦笑しながら言うと、葵は気を取り直すように咳払いをひとつ。


「で、この後はどうするの?」


「せっかくだから決勝まで見ていこうか? 乙女も、それでいい?」


「うん! 上手い人が投げるところ、もっと見たい」


 笑顔で答えてから、それに、と付け足す。


「私たちに勝った子たち、かわいかったからもっと見てたい……」


「帰ったほうが良さそうね」


「うん、警察のお世話になる前に」


「待って! 見るだけっ! 見るだけだから、お腹いっぱいだから!」


「その発言がすでにアウトっぽいから、やっぱ帰るか」


「うわーーーん!!」


 などと騒いでいた時だった。


 会場の中央に、老齢の男性が進み出る。その腕には、スタッフの腕章が。


「一回戦がすべて終わりましたので、お昼休憩をはさんでから二回戦を始めます」


 スケジュールの説明をしてから、その表情がわずかに和らぐ。


「では、ここで恒例の夕月会による日本舞踊を披露してもらいましょう」


 紹介を受けて、入口から数人の女性が入ってきた。


 全員が十代か二十代くらいの若さで。絢爛豪華な着物姿に、煌びやかな髪飾りをしている。


 美しい女性たちの姿に、乙女は自然と頬を染めていた。


「きれい……はぁはぁ」


「よし! 力づくでもいいから、連れ帰ろう」


「そうね。乙女を野放しにしないほうがいい気がしてきたわ……」


「そこまで!?」


 仲間たちからの冷たい反応に、乙女が嘆く。


 その声を聞いて、反応する人物がいた。


「あれ、乙女ちゃん?」


 それは聞きなれた声。


「薫子お姉ちゃん……?」


 いとこの薫子。


 彼女は、日本舞踊をしに来た女性たちの中にいた。


 いつもとは違う和服姿に、さきほどは気づかなかった。


「乙女ちゃんが、どうしてここに……」


 驚いた様子の薫子は、乙女とその隣にいる二人の女の子を見て、


「……む」


 不機嫌そうに眉をひそめたのだった。


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