12.「閑話・大木司家の事情」
あたしのうちは、代々医者をやっている。家も無駄に広くて、家政婦もいる。
家政婦を雇って掃除させるぐらいなら、そんな広い家を最初から建てなければいいと思うのは、あたしだけかしら?
専属のコックや、あたし達子供の家庭教師もいる。家庭教師は、1人につき1人。つまり、マンツーマン。
あたしは3人兄弟の末っ子で、兄はすでに成人済み。医者をやっている。姉は大学の医学部。
2人とも小さい頃から優秀で、よく比べられてきた。
あたしは、小さい頃はあまり勉強ができるほうではなかったから。
あたしが自分の性別に違和感を持ったのは、小学生の時。その頃から女の子に憧れるようになって、女の子のような口調で話すようになった。
それが原因で、いじめられることは多々あった。
両親からは、家の恥だと叩かれた。
ここに引っ越してきたのは、あたしが小学5年の時。ここでもやっぱり、オカマだと馬鹿にされ、いじめられた。
でも、男の子みたいに振る舞うのはどうしても許せなくて、あたしはあたしを貫き通した。
そんなあたしを助けてくれたのが、朝野美都子こと、みっちゃんだった。
初めて見た感想は、「太ってる」。でも、何が楽しいのかいつもニコニコ笑顔で、男女関係なく友達がいる、人気者。
あたしを助けたことなんて、もうとっくに忘れているだろう。
でも、あたしはあの日以来、一度たりとも忘れたことなんてない。
みっちゃんのおかげで、あたしは小学校、中学校といじめを受けることなく平和に過ごし、無事みっちゃんと同じ高校に進学した。
自分のレベルからしたら、もう少し上の高校も狙えたと思う。でも、みっちゃんと一緒にいたくて、同じ高校を選んだ。
進学校でもない、レベルの低い学校に進むなんて、と両親からは叱咤され、兄弟からは蔑まれた。
あたしは、高校に入ると同時に家を出た。
今は、一人暮らしをしている。煩わしい家族のいない生活は、中々快適。
ただ、最近気にかかることがある。
みっちゃんが、ダイエットを始めたこと。初対面で抱いた感想は「太ってる女の子」だったけど、年々変わっていった。
今は、可愛いみっちゃんが痩せてもっと可愛くなったら、男にとられたりしないか、不安でたまらない。
この感情を、なんと言うのか。あたしはまだ、知らない。
これから知っていくことになる。
みっちゃんが懸命に頑張る姿や、友達のために怒る姿。
あたしのこの想いの名前に気が付いた時、あたしは苦しむことになる。
苦しくて、つらくて、それでもーーあたしはやっぱり、みっちゃんから離れられない。
その時がくるまで、あたしはみっちゃんの隣で、ただの友達として笑っている。
忘れない、みっちゃんは、あたしの恩人だもの。




