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統一神書 バルギニア版 結び

 編纂には、八年かかった。はじめの見積もりは三年であった。それが五年に延び、八年になった。訳は簡単で、写本が集まりすぎたのである。諸国に触れを出したとき、我らは百巻も届けば上々と考えていた。届いたのは数百巻である。荷車で運ばれてきたものもあれば、名も告げぬ者が夜のうちに門前へ置いていったものもある。家宝の神書を手放すまいとする老いた蔵書家のもとへは、会議の者が三年通いつづけた。老人は死の床でようやく、これを預ける、と言うた。あの一巻がなければ、第一の巻のいくつかの行は、いまの形になっていない。


 集まった写本は、一巻ごとに違うていた。同じ神の名が三通りに綴られ、同じ御業が二通りに語られる。そのたびに会議は割れた。学者というものは、温厚な者ほど一字のことで頑固になるものである。創世の一句をめぐって評定が七日動かず、席を蹴って出ていった者が二人、戻ってきた者も二人あった。より古き写本を尋ね、より多くの伝えの一致するところを採る。この決まりは、はじめから定まっていたわけではない。七日の膠着に疲れ果てた我らがようやく呑んだ、いわば休戦の作法である。以後の八年、これに幾度も救われた。


 最も長い評定は、第三の巻であった。かの神の巻を置くか、削るか。名を載せることは種を蒔くことにならぬかと削る側は言い、何を畏れるべきか教えられなかった者こそ、いつか畏れるべきものに近づくと置く側は言うた。どちらの言い分も重く、評定は夜を徹した。明け方、置くと決したときの議場の静けさを、わたしは生涯忘れまい。勝った顔をした者は、一人もいなかった。


 写字生たちのことも記しておかねばならぬ。校合の写しは書いては直り、直っては書き直しで、同じ頁を五度写した者もいる。冬の写字室は火の気を絞るから、夜には墨が凍る。それを膝で温めながら書いた者たちの指を、わたしは何度も見た。最も年かさの写字生は、第十の巻の清書の半ばで倒れて、そのまま帰らなかった。残された最後の頁には、書き損じが一つもなかった。会議はその頁をそのまま用いた。本書のどこか一頁は、あの老人の絶筆である。どの頁かは記さぬ。すべての頁と思うて読んでもらえばよい。


 この後記を書こうと思い立った一番の訳は、採らなかった話のことである。出所の確かめられぬ話は採らぬ。その定めのままに、我らは幾百の話を退けた。定めは、いまも正しいと思うている。されど、退けた話の山は、採った話の山より高い。あの山には、確かめる術がないというだけの、美しい話がいくつもあった。焼きはしなかった。校合に用いた写本もろとも、機構の書庫に納めてある。いつか埋もれた傍証が見出されて、あの山のいくつかが確かめられる日の来ることを、編んだ当人が願うていた。それだけは、ここに残しておきたい。


 本書を写す者には、一つだけ命じる。一字も欠かすな。一字も足すな。おのれの賢しらを書に混ぜるな。第十一の巻に伝を収めた、書護りの聖女の誡めである。写し違いは、百年ののちに教えの違いになる。我らの八年は、いわばその百年分の写し違いを正す八年であった。同じ労を、後の世に繰り返させてはならぬ。


 読む者には、こう願う。本書は学者の書架のためではなく、人の暮らしのために編まれた。家の灯の下で、声に出して読むがよい。子にはまず第一の巻を語り、教えの条々は、意味の分かる齢になってから一つずつ与えるがよい。第三の巻の警告だけは、家の者みなが、そらんじるほどに読むがよい。


 編み終えて、思わぬ授かりものが一つあった。八年のあいだ、わたしは第一の巻を幾百度も読んだ。異同を数え、綴りを検めるために読んだ。されど、すべてが終わった夜、灯の下でひとり頁を開いたら、異同のことなど一つも思い出さなかった。天もなく地もなかったころの話を、はじめて聞く子供のように読んでいた。八年で得たもののうち、これが最も大きい。本書が読む者に与えうる最上のものも、たぶん、これである。


 終わりに、あらためて記す。本書は人の手になる書であり、神々は、いかなる書物よりも大きい。本書は太陽ではない。太陽のあることを指し示す、一つの灯にすぎぬ。灯を見つめるな。灯の照らすほうを見るがよい。


 神々は、いまもそれぞれの務めを負うておられる。人もまた、おのれの務めを負うて生きるべきである。本書が、その道の末永き道標とならんことを。


 王国歴1612年 聖燭の月 40の日

 本書の成りし年の、終わりの日にこれを記す

 聖典編纂会議の名において

 議長 オルデン・ロ・カンデル


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