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〈完結〉愛は契約範囲外  作者: 結塚 まつり


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番外編 かつての皇子

見渡す限り、砂の大地が広がっている。かつて大きなオアシスの傍で繁栄を築いたある街は、オアシスの縮小に伴って寂れ、人の行き来が途絶えていた。王朝交代の動乱の最中にあっても注目されることのない、滅びを待つだけの土地である。

その街に通じる道に、ひとりの青年が現れた。青年は小さなザックを背負い、砂を吸い込まないようにと目元以外を布で覆っている。灼熱の太陽が照りつける中、額からは絶え間なく汗が滴り落ちていた。やがて街に辿り着いた彼は、金貨と引き換えに僅かばかりの食料と水を手にした。


「――お前さん、どこに行くんだね。この先の道沿いの街は、どこももう寂れているよ」


瞳から光を失った老人の言葉に、知っています、と穏やかな声が返る。


「では、どこに」

「東へ」


目元から覗いた鮮やかな翡翠の瞳は、どこまでも澄んでいた。


「王朝交代は成った。もはやこの地に留まる必要はありません」


バニー・クトバ朝が倒れて、数十日が経っていた。



***



最初で最後のバニー・クトバ朝の皇帝・ザインが暗殺されてから二年。皇太子と第三皇子の戦いが激化する中、シルハーン朝(前王朝)と関わり深かった複数の部族が一斉に蜂起し、都は陥落。その最中に皇太子とその子息三名が命を落とした。バニー・クトバ族は第三皇子を旗頭として抗戦したが、呆気なく破れた。皇族は投降し、命こそ奪われなかったものの奴隷に落とされ鎖に繋がれた。脱走を試みた者は容赦なく殺され、今は主力となった部族が新たな都を築いているという。


バニー・クトバ朝第十三皇子アーキルは、それらの報を東の田舎街で受け取っていた。


父帝暗殺後、審問に引き摺り出されたアーキルであるが、武芸が不得手なふりをしていたことに加え、暗殺者が皇宮をかき乱していたために――なんと皇帝の他にも重臣を複数殺害していたらしい――呆気なく縄を解かれた。皇太子にしてみればようやく皇帝の位が回ってきたのが嬉しく、皇帝暗殺の件を有耶無耶にしてでも即位したかったのであろう。

これを阻んだのが第三皇子であった。

第三皇子は恐らくはでっちあげた証拠で皇帝暗殺の犯人を皇太子の手の者と断じ、武器を取って争い始めた。互いに力をすり減らした時に他部族からの襲撃を受けた為に、両者共に都を守る力は残されていなかったのであろう。

アーキルは皇太子に解放されて早々、大学に戻る振りをして逃亡した。既に第三皇子との争いが始まった頃であり、皇位継承順位がみそっかすである皇子の行方は誰からも気にされることなく、上手く逃げおおせたのであった。植物学を学んで得た知識で作った薬もかなり売れてきていたので、滞在していた街に留まっても良かったが、国に留まっているとまた面倒なことに巻き込まれる可能性も否めなかったので、早々に出立した。


東西に三千キロ離れた砂漠の東と西、そこに交易路はない。険しい気候条件を乗り越えてまで貿易をしようという強者(つわもの)はごく少数だったためだ。砂漠の西方から中央を統べる皇族でさえも、そのすべてを把握してはいない。伝聞と東の国から海を経由して、或いは砂の大地を越えてきた旅人だけがその情報を伝える。

砂漠の皇国の西には三つの国が林立している。南の王国、北の帝国、西の共和国。これに大陸のごく近くに存在する島々を統べる海の王国が加わって四国と数えられる。

その一方で、東には大きな国がひとつあるばかりだという。

砂によって隔てられたその土地は、西とは随分違った文明を持っているそうだ。吟遊詩人の歌によると、奇怪な形状の服を着て、見知らぬ言語を話し、髪を隠さず結い上げるらしい。それだけ聞くと南の王国などと変わらないのではないかと思うが、距離から考えるに、もっと色々なことが違うのだろう。当たり前と思っていることが当たり前でないということも、あるかもしれない。


「――暑いな」


アーキルは照りつける太陽を見上げ呟く。熱気だけで、体力が奪われる。太陽の位置を逐一確認し、地図を頼りに歩いても、次の街が残っているのか分からない。こんな道を歩き続けることに意味があるのか、とも思う。かたき討ちを果たし、何の為に息をしているのかさえも、もはや定かでない。

――けれどこの生を投げ出しては、母と妹に合わせる顔がないと思った。

アーキルは荷を背負い直し、再び歩き始める。


辿り着いた国で彼は高貴な姫君に見初められ、再び国の騒動に巻き込まれることになるのだが、それはまた別のお話である。



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