第8話 あたいん2秒はニューヨークん2秒より早か!!
「遊園地のお化け屋敷より上質ね」
カレンが屋敷を見上げて言った。目の前の屋敷はかなり古くカルフォルニアに白人が押し寄せてきた時期に作られたと思われた。イングランドのような建築デザインで、作り主が開拓地に故郷の空気を生み出すために建てたと思われる。周囲は荒野で元は牧場なのか柵や牛小屋のなれの果てがぽつんぽつんと見えていた。
「ここはバーベラ家が建てたものよ。ファインディングミラクル『以下FM』に憑りつかれたご先祖様は、その力で財産を得たわ。初代ウィリアム・バーベラはそれに嫌気を刺して漫画家として財産を得たけど、FMとは関係ないわね」
エリザベスが説明した。実際に住んだことはないが、バーベラ家の当主に連れてこられ、家訓を教えられたのだろう。
「ないごて、こん家を潰さんとな? アメリカ政府にしてん意味不明な存在に振り回されっとを、許容すっとは思えもはん」
「その通りだよ。実際に歴代大統領は潰そうとしてたね。具体的には奴隷解放した人と、ダラスで暗殺された人だね。こいつらはミラクルを政治的に利用しようとしたけど、FMにやられちゃったんだよね」
マリアの疑問をゾフィーが答えた。歴代大統領でもFMは禁忌の存在であった。先住民を殺すのはいいけど、ミラクルに関わってはならない不文律があった。
「さあ、入るよ。みんな油断しないで!!」
「「「おう!!!」」」
カレンが活を入れると、三人も応じた。さっそく屋敷にある玄関の扉を蹴り飛ばす。
大きな音が響き、屋敷の中に溜まっていた埃が霧のように舞い上がる。かびとネズミの糞の匂いが充満しており、屋敷の中も薄暗かった。かつては贅沢を極めたのだろうが、人が住まなくなれば、墓場と同じ、いや墓地は定期的に掃除されるからそれよりも最悪だった。
ここはミラクルの巣窟だとカレンは感じていた。4人とも油断せず屋敷の中に入っていく。
だが突如床に穴が開いた。カレンとゾフィー、エリザベスが落下していった。残ったのはマリアのみ。
仕掛けと言うよりも、突如床が腐り、穴が開いたように思えた。
「初めまして。うちはリバーサルエコーと申します」
マリアの前に一人の女が現れた。黒人女性でドレッドヘアにサングラスをかけている。顔は男のように大きく鼻が大きく唇が分厚い。両袖が破けたジャケットにTシャツ、膝が破けたジーンズを穿いており、スニーカーを履いていた。
「あたがカイを誘拐したしじゃなあ。一体あたはないをしよごたっとな?」
マリアが質問した。目の前に立つ女がミラクルであることは知っている。だが自分と敵対したインフェルノとは雰囲気が真逆だからだ。あの女は自分の不幸を理由に他人を不幸にしていいという自己中心的な性格であった。リバーサルエコーは落ち着いており、邪悪なものを感じなかった。
「うちは故郷からブラジルに連れてこられたもんや。農園で働かされ、腹を立てたき白人を殴ったら銃で撃ち殺された。その後ミラクルとして復活し、今に至る」
「あたは復讐んために手を貸したとな?」
「違う。あの男を誘拐したがはFMの指示ですけんど、おまさんのように強い人と戦うがが望みや」
リバーサルエコーは指をパチンと鳴らした。すると屋敷の奥から巨大なネズミ人間が現れた。ネズミのミラクルだ。
「うちは奥の部屋に行く。おまさんが彼らと戦い、勝ち抜いてきたら相手になる」
「……日本には宮本武蔵ちゅう剣豪がおった。彼は自分が勝利をすっために策略を練ってから挑んじょったそうじゃ」
「もちろん知っちゅー。五輪の書じゃのぉ。うちも日本からの翻訳を読んだ」
リバーサルエコーの言葉にマリアはヘルメットの奥で冷や汗をかく。自分も愛読していたからだ。シチリア人だが武蔵の生きざまに惚れているのだ。
リバーサルエコーは背中を向けると、屋敷の奥へ消えていった。同時にネズミのミラクルが襲い掛かってくる。
マリアは仕込み杖を手に刃を抜いた。
「あたいはブレードクノイチ!! あたいん2秒はニューヨークん2秒より早か!!」
ネズミはマリアを素通りした。すると上顎と下顎がぺりっと切り裂かれていく。すると体は爆発して消えた。
マリアは屋敷の奥へ走る。長い廊下を走っていると、天井から、床からネズミがとびだしてくる。
マリアは片っ端から切り裂いていった。抜いた瞬間、刃が光ると、ネズミたちは切り裂かれていく。
さらに廊下を走り抜き、木製でボロボロの扉を切り裂いた。
そこには豚のミラクルが待ち構えていた。普通の豚と違い、プロレスラー並みの巨体であった。だが顔は髭を生やしており、目から涙を流し、口からよだれを垂らしていた。
「うぅぅ、なぜだぁ、なんで私がこんな目にぃぃぃ……。先住民を殺して、何が悪いんだぁぁぁ……」
マリアはその顔に見覚えがあった。エリザベスがミラクルを説明するために、サンドクリークの虐殺事件の本を読ませてもらったのだ。その指揮を執ったのがジョン・チヴィントン大佐であった。豚の顔はチヴィントンそっくりなのだ。
チヴィントンはマリアに襲い掛かる。目は虚ろで正気ではない。マリアは仕込み杖で腕を切り落とした。だがすぐに再生する。次に腹を切り裂いたが、すぐに再生した。こちらはただのミラクルではなさそうだ。
「なんだ貴様はぁぁぁ!! アメリカを奇麗にする私に対して何たる侮辱だぁぁぁ!!」
チヴィントンはますます激高し、体中に血管が浮き出る。豚のような脂肪の塊から筋肉が目立つようになった。チヴィントンの拳がマリアの腹に決まった。彼女は壁に叩きつけられ、やもりのようにへばりついた。
彼女の着ているライダースーツはデダラスの作品で、自動車による衝撃も吸収できる素材でできていた。
とはいえ腹を殴られた衝撃は大きく、骨は折れていないが、げほげほと咳をする。
だがマリアの心は折れない。チヴィントンにとって女は殴ればすぐに泣きだして終わると思っている。
しかし彼女の剣はチヴィントンの体を真っ二つにした。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!! なぜだぁぁぁ、俺は男なんだぞぉぉぉ!!」
チヴィントンの体は紫色の煙を出して消えた。パチパチと拍手の音がした。リバーサルエコーだ。さらに囚われのドラゴンクノイチもいた。
「さすがじゃのぉ。あの程度の人間では話にもならんね」
「あん男はチヴィントン大佐じゃなあ。あたたちは過去ん人間も蘇らすっとな」
「はい、そうや。彼はミラクルを生み出いた元凶であり、死後はミラクルに生まれ変わって、生き地獄を味おうちゅー。おまさんは彼を殺いたけんど、すんぐに復活する。ただし家畜の豚となり、コヨーテたちにかじられる運命ですけんど」
それを聞いてマリアは戦慄が走った。チヴィントン大佐だけでなく、先住民を殺害した者はミラクルになって生まれ変わり、家畜となって永遠に殺される運命を背負わされたのだろう。そう思うとチヴィントン大佐だけでなく、過去の人間もなんらかの形でミラクルとして地獄を味わっていると考えた。
「……あたいはアメリカに対して思い入れはあいもはん。生れた時からギャングんボスん愛人の子として育ちもした。じゃっどんあたいは自分の生まれを恨んだことはあいもはん。ミヨシ先生と出会い、こん技を教わっこっがでけたとじゃで」
「そりゃ幸せなことや。うちもおんなじ奴隷仲間から喧嘩を教わった。剣と拳、どちらが勝つか勝負しましょう」
「武器を持っちょってん、あたいが有利とは限りもはん。こんた命を懸けた勝負じゃ」
マリアが言った。リバーサルエコーは何らかの能力を持っている。以前ドラゴンクノイチことカイ・ウォンの試合を見たことがある。接近戦なら彼の方が上だ。武器を持っていても、すぐに懐に踏み込まれ、一瞬で体を吹き飛ばされてしまう。
マリアも竹刀を持ってカイと試合をしたが、彼の動きについていけるのがやっとだった。中国4000年の技術は伊達ではないということだ。
恐らくリバーサルエコーはミラクルとして生まれ変わった後、自分の技術を磨き続けたのだろう。カイとは比べ物にならない修練の時間を過ごしたと思われる。彼が勝てる通はなかったのだ。
かといってマリアも負けるつもりはなかった。負けた言い訳など無意味だ。死ねはそれで終わりである。
マリアはザラと名乗っていた時分から常に自分が死ぬ覚悟を決めていた。復讐を重んじるシチリア人の血が流れているのだ。
別にアメリカの平和などどうでもいい。アメリカが荒れたら自分は降りかかる火の粉を払うだけだ。だが師匠の孫娘であるカレンを守ることは、師匠への恩返しだと思っている。忘恩になりたくないのだ。
「行くぜよ」「行っど」
マリアが動く。徒手空拳のカイが負けるとしたら、何カトリックがあるのだろう。リバーサルエコーはまっすぐ自分を見据えている。
ならば自分はその後ろに回り込み、切り裂くだけだ。
まるで颶風のように後ろに回り込むと、マリアはリバーサルエコーを切り裂いた。
彼女は全く動かない。ばったりと彼女は倒れた。
「やるね。うちは0・3秒後の未来を見ることができる。おまさんはそれをわかっちょったのじゃのぉ」
「そげんわけじゃなかじゃ。ただん直感ど」
「命のやり取りにそりゃ大切なことや。おまさんの勝ちぜよ」
リバーサルエコーの体は爆発した。勝利したがマリアは何とも言えない気持ちになった。
マリアは縛られたカイを助けた。腕を縛られ、股も縄で縛られていたのだ。
「助かりました。あいつったら僕のお尻をなでなでして困っていたんです」
「あたんお尻はなでやしとやろう。あたいは興味があいもはんが」
「撫でるより、男たちにめちゃくちゃにされたかったです」
仮面越しでカイは不満を言った。彼は性同一性障害で、自分は女だと思っている。カレンと違い、マゾヒストだけが突飛していた。




