ヤバイ話と虹とお別れ
翌日俺はスッキリ目覚めた。
朝は焼きたてサクサクのクロワッサンと玉ねぎが溶ける程煮込んだ鶏肉のスープ、
そして、熱いミルクティーを飲んだ。
クロワッサン、と言ってるが、この名前も前前世の正志の言葉からだ。
こちらでは、巻きパンという名前でお馴染みだ。
このパンは美味いのだが、食べてるうちに、ポロポロとパンが砕けて零れるのが玉に傷だ。
『クリーン』
生活魔法のクリーンで掃除をしておく。
クリーンは便利な魔法でもある。
どうしても風呂に入れない時は、これを掛けておけば、最低限清潔が保たれるという、物ぐさが歓喜しそうな魔法でもある。
俺は物ぐさだが、風呂には毎日入りたい派なので、使うのは主に清掃関連にだ。
さて、メイチェの街を迂回してから、元々の馬車コースに無事合流し、更に進んで行く。
森を拓いたそのコースは、辛うじて馬車道と言える道になっている。
邪魔な木を伐採し、地面を均し、切り株などを除去してある。
そして、あちこちに集団で野営が出来るような平地を設けてあった。
そもそも、王都はもう近いのだ。
その近隣に俳諧する魔物、魔獣を討伐する為に、騎士団の定期巡回コースとしても有名だ。
故に、乗り合い馬車の安全が謳われるコースとしても、知られていた。
そんな噂話を思い出していたら、本当に途中で王国騎士団と鉢合うことになった。
なんとアンナさんは、その場で団長に話を付け、我ら一行に騎士団が同行することになり、守られながら進むことになったのだ
「アロイス、あの団長の傍に居る副団長がエスリック殿だよ」
アンナさんが小声で囁く。
見ると、巌のような雰囲気の、表情の全く無い大男が見える。
腕は立つけど小心で感情的なジーンとは似てないね。
話すか?と、聞かれたけど断った。
ジーンのあのアホな要求を伝える気なんて元からなかったし、あの無表情な人と会話出来る気がしないので。
ここまで来ると王都は後2~3日程。
騎士団と合流したことで、街の入口からではなく、騎士団の門から入る予定になったらしい。
従者ということで、毎日シャルロッテ様の傍に引っ付いてるが、暇だ。
そう思ってたら、シャルロッテ様も暇だったようだ。
「退屈じゃのう。
何か面白い魔法を見せてくれぬか」
無茶振りキターーーーーーーーー
「アロイス、お嬢様に何か面白い魔法を見せなさい」
更に無茶振りキターーーーーーーー
仕方ない。
今日は晴れて天気も良い、アレ出来るかも。
俺はお日様を背にして魔法を唱える。
『ミスティックシャワー』
霧状の水を空に吹きかける。
これは俺の創作魔法モドキである。
水を色々変化させる工夫をしてた時に作った一つだ。
こうすると、
「虹だ、アンナ、虹が出た」
紫の瞳を輝かせ、大喜びのシャルロッテ様に引き換え、アンナさんはギョッとした表情になる。
これ、前前世の正志の中学の時の記憶で、虹を作る実験でやったやつだ。
霧魔法を作った時、面白半分にやったら上手くいったんだけど、どうもみんなの目が痛い。
どうしようと思ってたら、前世の大賢者たるユリウスが、古代の遺跡からの資料書の中で、公開しても問題ない部分の書き写し集があり、魔法の面白い実験の中の一つとして載っている。
それを、伝聞として知ってる人間もいる、と、教えてくれた。
そのまま詳細と、伝聞は師匠から教わったと話して、事なきを得た。
ユリウス大先生、ありがとうごぜいやす~
だがその後、日が暮れるまで虹を作り続ける羽目になった俺だった。
そうなんだよ、俺はシャルロッテ様の暇つぶし要員として雇われたんだった。
そんなこんなで、シャルロッテ様の相手をしつつ、日々を過ごし、明日はやっと王都の門に辿り着けるという晩に、正確には真夜中に、襲撃があった…
今更か!
舟の時といい、変な話だ。
襲撃するなら、船中に居た時にすればいいのに、わざわざ降りてからだし。
今回も、襲撃するなら騎士団と合流する前にすればいいのに、戦力が増えてから。
面倒くさいな。
なんか本気が感じられない。
俺のテントは物理の結界も貼ってあるから、このままバックレようかな。
うん、寝た振りしようと思ってたら、結界をドンドン叩く音がする。
「アロイス開けろー」
怒鳴るアンナさんは更に面倒くさいので、渋々開けた。
「なんですか?
今寝てたのに」
「襲撃だ!
シャっきりしろ。
ん?広いな、
結界も貼ってるようだし丁度いい、お嬢様を中で守るんだ」
ええええ
見るとシャルロッテ様も寝巻にガウンで、寝ぼけてる。
無理やり押し付けていき、立ち去った。
ちょ、
どうしよう。
仕方ないのでソファに座らせ、温かいミルクティーを持たせる。
だが飲み終わると、舟を漕ぎ出したので、そのままソファに寝かして毛布も掛けといた。
俺は革鎧を身に付け、ローブを羽織った。
ちなみに、衣服の汚れはクリーンですませている。
俺も眠いんだが、このままシャルロッテ様と一緒にいたら、あらぬ疑いを掛けられそうな予感がヒシヒシなので、回復ポーションを飲んでから、テントの外に出た。
いたるところで斬り合いが始まっている。
取り合えず、自分もなんかしてる感を出す為に、アンナさんの元に駆け付けた。
俺の姿を見止めると、斬り合いながらも器用に問い質してきた。
「お嬢様は?」
「中です。
外からは絶対開かないので大丈夫」
アンナさんに俺の姿をしっかり確認させた後、周りの戦況を把握していく。
一応味方のフォローをして歩く。
月明りだけだと暗いので、魔道具でライトをあちこち飛ばしていった。
光魔法なので、持ってることがバレないようにわざわざ魔道具を使った。
敵は冒険者のようなラフな格好をしていて、魔法師ではなく魔術師が陣を用いて魔術を繰り出している。
あたりの木々にところ構わず火を放っていたので、シャワーの様に上から水を掛けていった。
そうして夜明けまで戦闘が行われていたのだが、日の出の頃、潮が引くように消えていってしまった。
どこかに転移陣が置いてあったのだろう。
眠い、だが非情にも、このまま王都へと強行となった。
一行と騎士団員らと共に、王都の騎士団の門から入り、宿舎を借り休養する。
俺は風呂は諦め、クリーンを掛けると、泥のように眠った。
ああ、まったく酷い目にあった。
翌朝、風呂を借りてさっぱりすると、隠微を掛けて舎内を回り、アンナさんの姿を探した。
アンナさんは居なかったのだが、シャルロッテ様が護衛の騎士の一人と居るのが見つかった。
「え、
アロイスはもう旅立ってしまったのか?」
「はい、
何やら急ぎとのことで、お嬢様に暇の挨拶もせず申し訳ないと申してました」
なんだってえ?
俺そんなこと言ってないだろう。
「そうか、
今回のこと、私からも礼を言いたかったのに、残念だ」
「お嬢様がそのようなことする必要はありません」
うわ、腹立つな。
「此度のことアマラ聖王国の嫌がらせに間違いないか?」
「は、間違いありません。
お嬢様とアマラの第二王子殿下との婚約が流れたことによる腹いせかと。
向こうも本気で殺害の意図はなく、ただしお嬢様をあわよくば連れ去れればとは考えていたやもしれません」
「辺境侯爵家が一子として、友好の懸け橋になることは吝かではないが、条約を守らぬ相手との婚約など、我が国の王家が認める訳もないと、分かるだろうに…」
っ、
思いっきり、ヤバイ事情だったのか。
直接聞かないでよかった…
このまま出るか。
関わらないのが一番だ。
宿舎を出ると、整えられた芝に、キラリと光る銀のメダルが落ちていた。
〔エスリック・ポーリーヌ・ジーン〕
そう文字が彫り込まれていた。
これってエスリック副隊長の名前と奥さんの名前と息子のジーンの名前ってこと?
落し物が分かるように、見え辛い芝から地面の上に置き換えておいた。
よかったなジーン、親父さんちゃんとお前のことも忘れてないじゃん。
そのまま王都の街に向かった。
ここからは、隠微ではなく、認識障害アイテムの指輪を嵌めた。
菓子店に行きクッキーを購入。
異空間収納に入れておけば、時間停止なので、そのままの賞味で渡せるのでゲットしておく。
そして宿で大部屋を借りて、快適な空間テントの中で、しばらく引きこもった。
うん、お家が一番なんだよ。
風呂にゆったり入って、美味いもん食って、ダラダラとソファでお茶を飲む。
お茶を飲みながら王都で買った本を読んだりして、十分休養を取った俺は、今度こそ、温泉を探そうと決意する。
う~ん、誰に聞いたら分かるんだ?
ま、いいや、ちょっと王都を散策だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「アロイスが消えた?」
「は、不審なことに、あの魔法師の姿を見た者が誰もおりません」
「ぬかったな…」
「捜索しますか? アンナ隊長」
「…まあ、いい。
こちらに引き込んで諜報として仕込んでやろうと思ってたのだが、
中々言うことを聞かんし、無理そうだからな」
アロイス、お前の秘密は暴けなかったが、また何処かで会うこともあろう。
首を洗って待ってるがいい。
「アロイス、旅の間ありがとう。
強行軍で辛かったけど、アロイスと話したり、魔法を見せて貰ったり楽しかった。
もしまた会ったら、また虹を作ってほしいぞ…」
俺は認識障害アイテムを付けたまま、
買い物以外は更に隠微も掛けて姿を消し、
誰にも知られず気ままに街で過ごしている。
あれ、
シャルロッテ様とアンナさんだ。
もう、関わらないけど、お元気で!
さあ、今日は南区の露店だ!




