成長
「浮気したとしても僕のところに戻って来てくれればいいから」
「もうそれ、私が浮気なんてしないって確信してるよね。じゃなきゃそんなこと言えない」
「おかしな思い込みで離れて婚約までしてたけど、戻ってきた。もしまた離れるようなことがあっても、また戻ってくればいい」
「・・テオ・・」きっとこれがテオの愛のかたち。
「ん?」
「大好き」愛しくて少し泣きそうになる。誤魔化したくてテオに抱きつくと、腕の中に優しく閉じ込められた。
「合格」
私の耳元で囁かれて体の力が抜ける。ほんとずるい。
□ □ □
抜けるような青空、冷たく凛とした空気の朝、ざわざわと会場へと続く道を歩く生徒たち。テオからは「見ていて」としか言われていない。特等席を用意したからと言われ、最前列の観客席にシャーロットと座る。
「緊張してる?」私の顔を確認するようにじっと見てくシャーロットに「全然」と答えた。
この大会の意味も何も知らない。それでいい。
ジュードとディランが順当に勝ち上がる。ジュードとは全然話せていない。
「なんか今日のジュード、すごいわね」
「うん。すごく集中してる。しばらく顔を合わせてない間にまた大人っぽくなったね」
「ファンがまた増えてるらしいわよ」
「これだけかっこよくて強ければ当然よね」
「惹かれない?」
「惹かれるわよ?」
「惹かれるの!?」
「かっこいい人を見て惹かれるのって当たり前じゃないの?」
「そういうところ・・」
「ウイリアムだってお兄様だって惹かれるわよ?」
「ん?」
「惹かれるって、見惚れたり素敵って思ったり、ドキッとしたりすることじゃないの?」
「そうだけど」
「なら私は皆に惹かれてる。シャーロットにもリジーにも」
「ん?なんかズレてるわ。じゃあお兄様のことは?」
「テオは特別」
「ああ」シャーロットがテオによく似た顔でふわりと笑顔になる。
「そういうことね」口元を緩ませたまま、コートの方を見つめたシャーロットは満足そう。
「いよいよね」
コートにジュードとディランが入ってきた。勝ったほうがテオと対戦することになる。予想以上に実力が拮抗していて会場が盛り上がる。ディランが少し体勢を崩したところに打ち込むかと思ったけれど、剣を下げて待つジュードに驚く。
「ジュードらしいね」
「不器用ともいうけどね」
剣が交差してぶつかった直後、ふっと体の力を抜いたジュードの一撃がディランの胴に入り、ディランが膝をつく。ジュードの勝利だ。歓声に包まれたジュードが真っ直ぐ私を見る。拍手を送ると、喜んでいるようには見えないジュードが軽く頷いた。
「もう次を見据えているのね」
「お兄様はどうするのかしら」
「そういえばアーサー兄様は?」
「テオ兄様のサポートに入ってる」
少し休憩を挟んでからテオとジュードが出てきた。ジュードの顔がかたい。テオはいつも通りに見える。位置につく前に私を見て何か口をパクパク動かしているけれど、何を言っているのかさっぱりわからない。
始めの合図で軽く剣を合わせたと思ったらジュードが膝をついた。
「え?」
「お兄様の本気、久しぶりに見たわ」
「ええ?!」
会場がざわつく中、審判がテオの勝ちを宣言し、歓声が上がった。
「容赦なかったな」後ろからアーサー兄様の声が聞こえてびっくりして振り返る。
「ねえ、テオってなんであんなに強いの?」
「元々の才能が大きいだろうが、お前とシャーロットのせいじゃないか?」
「はい?」
「犬だけじゃなかったからな、お前とシャーロットが危ない目に遭うの」
「ああ・・」
「二人ともお転婆すぎた」
「ねえ、そんな記憶ある?」
「ないわ」
「お前ら・・・」
「それならお兄様だって強くなったのよね?」
「そこそこ戦えるけど、俺は頭使ってお前らを制御したんだよ」
「・・・」シャーロットと目を合わせる。
「お兄様って意外とバカじゃなかったのね」
「いつか制御されるのかしら・・」
「シャーロットの仰せのままに」
「やだ・・お兄様が最高のナイトに見えてきた」
「アリスのナイトは僕だけど?」
「さすがテオ、なかなかのセリフを涼し気な顔で・・」
「アリス、ジュードのところに行きたい?」
「・・え」
「去年は寄り添ってただろ」
「・・・行かない。でも・・落ち着いた頃、二人で話す」
「わかった」
乗馬大会ではテオとウイリアムとジュードがそれぞれの出場部門で優勝し、この幼なじみたちの優秀さを痛感したけれど、お兄様はなにも出場していないのでなぜだと問うと「真のヒーローは裏で活躍するもんなんだよ」と、バカみたいで愛らしい答えが返ってきた。
すべての秋のイベントが終わった。そして外遊と同行するメンバーが発表される。
テオ、ディラン、アーサーだった。




