弱音
「ねえ、知ってる?」
「何を?」
「ルーカス王子が外遊するって噂」
「知らないわ」
「ディラン様が近衛に選ばれそうなの」
「え。リジーはどうするの?」
「どうするも何も、婚約してるわけでもないし、夏休みに3回デートしただけだもの」
「そのデートで仲良くなれたんでしょう?」
「そうね、お互いの話をたくさんできたけど、私のことを好きになってくれたわけではないし、私も前ほど憧れの目で見ているわけでないわ」
「んん?もう好きではないの?」
「好きよ。ただ、こう・・憧れてひたすら英雄みたいにフィルターかけて見なくなったというか」
「それってどんな感じなの?」
「ディラン様って結構ドジなのよ」
「あら」
「集中すると周りが見えなくなるみたいで、服とかよく汚すの」
「子供みたいね」
「そう!まさに子供みたいなときがあって、でもそれが可愛く見えちゃうのだけど」
「へえ」
「なによ」
「なんにも」
「ニヤニヤするのやめて」
「リジーが可愛くて」
「は、話を戻すわ!その近衛に選ばれると長期間会えなくなるかもしれないの」
「学園あるし選ばれないんじゃないの?」
「腕があってルーカス王子に気に入られていれば可能性はあるわ。同行すれば留学も一緒にすることになるから卒業資格もあるみたいだし」
「・・・」
「どうしたの?」
「それ、もしかして何人か選ばれる?」
「3人ぐらいって聞いたけど」
「どうやら私にとっても他人事じゃなさそう」
□ □ □
気になるけれど、テオが私に話さないのなら、まだ何も決まっていないのだろう。だとしたらできることって何かしら。きっといつも通りでいることよね。テオと会えなくなるかもしれないとか考えると気持ちが落ち込んできてしまう。だから考えない。そうよ、テオに何か新しいイタズラを考えてみよう。テオが困って、でも笑ってくれるような楽しいイタズラを。
□ □ □
「アーリス」美術室へ向かっているとテオが後ろから追いついてきた。
「なあに」
「優勝したらご褒美くれる?」
「お願いをきき続けている私にさらなる要求を・・」
「ダメ?」
「・・いいわ」
「・・なんか悪巧みしてるな」
「してないしてない」
「悪巧みでも可愛いから」
「可愛いなんて二度と思えないようなことをするかもよ」
「ありえないね。何をしてもアリスは可愛いから」
「言ってて口がむず痒くなったりしないの?」
「本心だから。社交辞令なら痒くなるけどね」
「ふうん。じゃあ負けたら私の頬を触るの禁止にしよう」
「負けないから意味ない」
「じゃあ本番まで頬を触るの禁止ってことにしましょう」
「ダメ。無理。大会までに干からびる」
「ふふ。決定」
「アリス!」
「守るなんて約束してないから」テオがすごい怖い顔になった。
「頬ぐらいでそんなに怒るなんて・・」
「アリスの頬を触れないなんて考えただけで辛い」
「中毒みたいに言わないで。それに・・大丈夫よ、きっと。練習も兼ねて禁止」
「・・・練習ってなに」テオが立ち止まる。
「あー・・ほら、もうすぐ大会でしょ。集中する練習、うん」
「・・・」
「もう!わかったわ、頬に触ってもいいから」
「頬は触る」
「・・・」
「アリスは優勝してほしい?」
「うーん・・テオに勝てる人なんていない気がする」
「そうじゃなくて。アリスが僕に優勝して欲しいかどうかを訊いてるんだ」
「テオらしくない質問ね」
「一度だけ。ちゃんと答えてほしい」
どうやら真剣に話さなくてはならないようなので、授業はサボって木陰に移動する。
「そうね・・テオが優勝を嬉しいと思うなら、私も優勝してほしいと思うわ。テオが優勝なんてしたくないって心から思うなら優勝しなくても私はなんとも思わない。テオがわざと負けて後で後悔しないならそれも良いと思う。私のために勝ってとも思わないし・・テオが喜んでいる姿を見たい。テオが悲しんでる姿は心が痛い。それだけ」
「・・・」
「行かないでなんて言わないわ。ちゃんと待てるから。自分で生活できる収入を得てる侯爵令嬢は強いんだから。帰って来たときにテオが心変わりをしていても、私には新しい恋をする強さも、一人で生きていく強さもあるの。あなたがいないと生きていけない・・なんていう弱さを持ってないのよ、ごめんあそばせ?」
「僕は・・アリスがいないと生きていけない」
「あら・・ありがとう」
「アリス以外となんて考えられない」
「・・じゃあお互い大丈夫ね、きっと」
「寂しくない?」
「寂しいに決まってるじゃない。時々・・泣くかも」
「そんなときに側にいることができない」
「・・夜に寂しくて泣いたとしても、朝がくれば泣き止んでると思う。いつまでも泣いてたら目が腐るかもしれないもの」
「僕がもし会いたくて泣いたら?」
「ふふっ・・想像できないけど。でも・・毎晩寝る前にたくさんテオのことを考えるから、テオは私が何を考えているのかを想像してみて」
「それだけで耐えられるかな」
「その時はそのとき。私、テオが思っている以上にテオのことが好きよ」
「もっと」
「これ以上?」
「もっと」
「これ以上好きになったら・・孤独に耐えやすくなるのかな。それとももっと寂しさを感じるようになってしまうのかな」
「浮気したいなんて思わなくなるんじゃないか」
「浮気者みたいに言わないで」
「浮気をしたとしても、好きだから」
「浮気をする前提で話すのやめて。そんなの、私が私を好きじゃなくなる」




