ドライアイ
なんか目にゴミでも入った?右目から粒のような涙が落ちる。一滴だけ。綺麗・・涙も綺麗だし、テオは泣いても美しいのね。思わず見入ってしまう。
とりあえず涙を拭わなきゃと思い、ハンカチを取り出してテオの頬をポンポンと拭った。されるがままで何も言わないから、私も黙る。感動して泣いてるようにも見えないし、気持ち悪くて泣いてたら・・触られるのも嫌よね、きっと。
テオをやり込めるためになんて、大事な言葉を使わなければ良かった。下唇を噛んでうつむいてしまう。自分勝手に振る舞っておいて、また勝手に落ち込んで慰めてもらうなんて、そんな女性でいたくない。強くそう思ったから、気合を入れて顔をあげた。
テオが何か言うまで待とうと思い、お茶を飲む。時計がカチコチ音を立てて、屋敷の中で人が動く音がする。どのくらいそうしていたのだろう。きっと5分も経っていない。
ふいにテオが動いた。
立ち上がっているから帰るのかも。そう思ったのに、私の近くに座りなおす。なんだろうと顔を見ると、いつもより怖い顔をしていた。
「お、怒って・・る?」
「ああ」
「・・・」やっぱりあんな伝え方をしちゃダメだったのか。
「ごめんなさ・・」
「許せないな」かぶせるように言われ驚く。
「僕のことを本当に好きならあんな伝え方じゃ満足できない」
「ええ?」
「僕をやり込めるために言っただろう?」
「う」
「逃げ道作って言ったよね」
「うう」全てバレていた。
「その程度の愛情じゃ満足できないんだよね」
「・・はい?」
「その程度だと、ジュードやウイリアムを切り捨てるのが可哀想だからって、また迷うだろう?」
「・・んん?」
「迷いも同情も全て捨てて、僕だけを欲しいと思ってくれないと」
なんか今、ハードなことを言われた・・ような
「なんで泣いてたの?」
「集中して考えてたから瞬き忘れてた」
「ええっ、そんな理由なの!?」
「またなんか勝手に僕の感情を推測してた?」
「だって、何も言わず涙流してたら色々考えちゃうじゃない!」
「好きって言われて感動して泣いてるとでも思った?」
「それは思ってない。気持ち悪かったのかしらって不安になってはいたけど」
「アリスの言ってくれた好きが軽くて満足できなくて困ってはいたけど、気持ち悪いなんて思うわけない」
「いったいどう伝えれば満足するっていうの?」
「まずは僕のお願いを全部きいてみるとか」
「はい?」
「そっかあ、アリスはその程度の好きしかくれないのか」
「・・・その程度って」
「僕の好きを体感してみる?」
「う、遠慮しておいたほうが良い気がする」
「ほうら、やっぱりアリスはその程度なんだ」
「・・・」
「・・・」なんかちょっと寂しそうに見てくるのやめて
「わかったわ」
「ほんとに?」
「やります」
「じゃあ、キスして」
「ええ?!」
「僕の顔中にしてもらおうかな」
「はいぃ?」
「あー・・・できないんだ・・」
「できません。なんでそんな意地悪するの?」
「これ、意地悪じゃないよ」
「できないことをやれって言うのは意地悪だわ」
「なんでできないと思うの?」
「だって・・」
「変な限界作らないで」
「変な限界って」
「アリスは僕に触れたくないの?」
「ええ?!」
「好きなら抱きしめたいとも抱きしめられたいとも思わない?」
「それは・・思うわ」
「キスはされるもので、するものではないと言うの?」
「う」
なんでテオはこんなことを言うのだろう。テオの意図がわかるようでわからない。
「僕の言うことを聞くのも楽しそうだと思わない?」
「・・・」やりこめられるのは好きじゃないのよ。だけど、そんな意地を張っていると可愛げがないこともわかってる。
「やるわ」
「ほんとに?」
「でも、私がテオのお願いを全部きいたら、テオも私のお願いをきいてくれる?」
「アリスらしいね。もちろんきくよ」
「約束ね」
この短時間で何度覚悟を決めなきゃいけないんだろうと思いながら、テオの肩に手をかける。




