番外編 (本編に入らなかった話)長旅で姉弟喧嘩!?
これはミザリーを探しに二人が旅に出た時のある一夜です。ベタなネタです。
とくに落ちもなく、続きもありませんが、よろしかったらどうぞ(。•ㅅ•。)
リーンハルトが宿屋の受付で、年配の太りじしの女将と何やら難しい顔をして話しこんでいる。
ここは外国の辺境でレティシアにはさっぱり地元民の言葉がわからない。そのうえ、長期に及ぶ慣れない異国の旅の疲れも出て、レティシアはリーンハルトと女将とのやり取りをぼうっと見守っていた。
するとリーンハルトが珍しくレティシアを受付に手招きする。何か一人で解決出来ない問題でも起きたのだろうか。
「レティシア、一部屋しか空いてないそうだ。ここにはお前が泊れ、俺は野宿する。明日の朝ここの食堂で落ちあおう」
「え? なんでそんな話になるのよ。一部屋空いているんでしょ? なら一緒に寝ればいいじゃない」
レティシアがきょとんとして言う。
「は? な、なにを言っているんだ。お前」
リーンハルトが驚いたように目を見開き、さっと頬をそめ後じさりする。この反応は、弟に嫌がられているのだろうか?
「いいじゃない。姉弟なんだし」
レティシアは彼の反応に少々むきになる。
「いや、そんなわけないだろ!」
意外に強く言い返された。自然とレティシアの語調も強くなる。
「そんなわけあるよ! ここら辺は物騒だよ。リーンハルトが夜盗にでも襲われたらどうするの! 私、お父様とお母様に合わせる顔ないじゃない!」
レティシアは一歩前に出て義弟に詰め寄った。何としても姉としての威厳を見せたいところだが、背の高い彼を見上げる格好になってしまい様にならない。
「大丈夫だ。俺は」
ぼそりと言って、リーンハルトがそっぽを向く。どうやら義弟の機嫌を損ねてしまったようだ。
レティシアが思うに……、彼は自分が強いことを過信しているのかもしれない。ときおり無謀な行動に出ることがある。討伐隊でもレティシアはひやひやさせられることが多かった。品行方正に見えて割とやんちゃなのかも。ここは姉として、なんとしても弟を説得せねばなるまい。それも穏便に。
レティシアは使命感に燃えていた。
「リーンハルトが強いことくらいわかっている。でもね。どんなに強い人も隙を突かれたり寝込みを襲われたりしたら、やられちゃうんだからね。油断や過信は禁物だって、自分で言ってたじゃない!」
勢い込んでいった割には彼の話の受け売りでなおかつ直球だったが、リーンハルトにはそれなりに伝わったようで、あごに手を当て少し思案している。
すると宿屋の女将が二人のやり取りにじれていたのか、異国の言葉で何かを怒鳴りながら、リーンハルトに毛布を一組投げつける。見ると後ろに客がいた。
比較的小さな宿屋は満室で、女将は忙しく、カリカリしているようだ。リーンハルトはあきらめたように毛布を肩にかけため息をつく。
「二階奥、右端の部屋だ」
「わかった!」
頑固な彼を説得できたことにレティシアは気をよくして、疲れも忘れて元気に階段のほうへ向かう。
宿屋の受付の前は飲み屋兼食堂になっていて、今夜は近くで祭りがあったようで賑わっている。そのせいか酔客であふれていた。喧騒に包まれるなかを二人は足早に通り過ぎる。
上り階段の手前まで来たとき、レティシアはガシリと腕を掴まれた。
見ると酔っ払いの労働者ふうの若い男だ。何かを早口で訴えているようだが、レティシアにはあいにくこの国の言葉は通じない。問うように首を傾げた。
するとリーンハルトが男の腕をいきなりねじり上げた。
「ちょっとリーン……」
酔っ払いとのけんかはよくないと止めようとしたが、なんだかいつものリーンハルトと違い、とても冷たい空気を漂わせている。レティシアは気圧されたように言葉を飲み込んだ。
そのうちリーンハルトが男に何か早口でこの国の言葉で告げると男は慌てて去っていった。呆然としていると義弟がレティシアを見て安心させるように微笑んだ。いつもの彼でほっとした。
そして、レティシアの肩に手をかけ引き寄せる。
「へ? ちょ、ちょっとリーンハルト、どうしちゃったの?」
突然のことで、頬に朱がのぼる。
「別にどうもしない。レティシア、ふらふらと自国にいるつもりで歩いていると危ないよ」
「うん、わかった」
いつもより、ずっと近い距離にちょっと驚いたが、彼の言う通りだと思いうなずいた。
そして二人は並んで宿屋の古くて狭い階段を上る。一段上がることにぎしりと軋む。白漆喰の壁にはところどころにシミが浮いていた。
「それにしてもリーンハルトすごいね、何か国語できるの?」
「隣り合った国と主要な取引のある国の言葉は話せるようにしている」
「なんだって、また、そんなに勉強しているのよ。勉強好きなの?」
勉強が得意な人は、勉強が好きなのだろうか。レティシアはいまだに苦手なのでよくわからない。
「別に勉強しているわけじゃない。ちょっと興味があってね。それに一時期外交の仕事に興味があったから」
レティシアはドキリとする。彼は一度目の人生で外交の仕事を選んでいた。自分のループが彼の人生をゆがめてしまったのだろうかと心配になる。
二階の薄暗く狭い廊下を抜け、一番端の部屋でリーンハルトが足を止め、かちゃりとドアの鍵を開けた。
部屋に入ると窓際に粗末なベッドが一つあり、木製のひび割れたテーブルにはポットと水差し、壁際には洗面台がついていた。
「ねえ、リーンハルト。本当は外交の仕事がしたいんじゃないの? 外国を見て歩きたいんじゃないの?」
と言うとリーンハルトがきょとんとした顔をする。
「まあ旅は好きだし、行きたいとは思うが、どちらかというと自領を富ませるための勉強というか参考のために視察ができればいいという程度だよ」
彼は床に荷を置いた。
「そうなの?」
「領地持ちの貴族はみんなそんなものさ。職を持ったとしてもいずれは家を継ぐ。父は若い時分に他国の領で学んでいるしね」
リーンハルトは話しながらも手早くベッドを点検しながら、「シーツは清潔なようだな」とつぶやいている。
妙に旅慣れていて、貴族の子息の行動とは思えない。
「ふーん、リーンハルトは真面目なんだね」
レティシアは荷解きして、タオルを探す。
「逆に不真面目な領主がいたら、どんなのか聞いてみたいよ。遊んでいたら、領の経営など立ち行かなくなる。それにうちは古くから商会も持っているし、慈善事業もしているから学ぶことが多くてね。俺も父を手伝わないと」
「宮仕えして、今まで以上に家の手伝いもするの?」
「普通だろ」
「……」
やはり義弟はすごい。年を取ればとるほど優秀な彼とは差が開き、どんどん遠くへ行ってしまう。姉弟仲良く出かけるのもこれで最後かもしれない。
結局レティシアがどれだけ努力しようとも、おいて行かれてしまうのだ。少し寂しく思い、ちょっとした感傷に浸る。その間にリーンハルトは毛布をかぶって、床にごろりと横になった。
「え? リーンハルト、何やっているの? まさか床で寝る気、ベッド使いなよ」
「ベッドは、お前が使え」
「なんで、そんなわけにいかないよ。私小さいし、何とか二人で眠れるよ」
ぎくりとするかのように身じろぎしたリーンハルトはさっとレティシアに背を向けた。
「……お休み」
「え! ちょっと待って、私、弟を床で寝かせられない!」
リーンハルトはシュミット家の大切な跡取りだ。それに、レティシアはこの旅で今のところ何の役にも立っていない。勝手について来て、むしろ足を引っ張っている。
彼一人なら、床に寝る羽目になど陥らなかったはずだ。
「ごちゃごちゃうるさいな。明日も早いんだ、さっさと寝ろよ」
レティシアは思い切って毛布を持って床に転がる。思った以上に冷たくて固い。ますますこんなところにリーンハルトを寝かせられない。
「お前、何しているんだよ」
慌てたようにリーンハルトが固い床から起き上がる。
「リーンハルトがベッドで寝ようが、床で寝ようが関係ない! 私、今日はここで寝るから。あのベッドは嫌なの。気に入らないの。虫がいるの。だから、あなたが使って。ああ、床ってひんやりしていて気持ちがいい。私は孤児院で慣れてるから平気」
こんな稚拙な言い方しかできない自分が歯がゆい。なんでこんなに頭が悪いんだろう。
「……勝手にしろ」
言い捨てて、またレティシアに背を向ける。あきれられてしまったようだ。せっかくの旅なのに、兄弟げんかになってしまった。そして、残念なことに彼は言い出したら聞かない。
こんな冷たい床では眠れっこないと思っていたのに、慣れない旅の疲れも手伝ってレティシアはいつしか眠りに落ちていた。
翌朝、レティシアは温かい布団の中で明るい日差しを浴びて目覚めた。
「え?」
目をぱちくりと瞬いて飛び起きる。リーンハルトは備え付けの洗面台で顔を洗っていた。
「ちょっと、リーンハルト、どういうことよ! 私ベッドで寝ているんだけれど。なんで?」
「ああ? 寝ぼけて自分で上がったんだろ」
「そんなわけないじゃない!」
レティシアはベッドから起き上がって、リーンハルトのもとへ行く。
一晩中、床で寝ていたであろうリーンハルトが心配になり、レティシアは彼の顔を覗き込む。
「いいから、さっさと顔洗えよ。俺は腹がすいた」
そう言って彼は部屋を出ていった。先に食堂に行ったのだろう。レティシアは慌てて身づくろいを始め、少ない荷物をまとめた。
ドアを開けるとリーンハルトが立っていた。気を使って先に部屋を出て、待っていてくれたのだ。
こういうところがものすごく紳士的で、一生懸命に彼は弟だと自分に言い聞かせているのにドキドキしてしまう。
「忘れ物はないか確認したか?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ、行くぞ」
そう言って彼が先を歩き出す。レティシアの手を引いて。まるで保護者だ。
「手をつないで歩くなんて子供のころ以来だね」
レティシアがしみじみというが、返事がない。聞こえなかったのだろうか? 見上げると金糸の髪から除く彼の耳が赤く染まっている。
無理もない。リーンハルトの年齢からしたら、姉と手をつなぐなど恥ずかしいのだろう。だが、レティシアが昨日のように絡まれるのを心配してくれているのがわかる。
彼の手はレティシアよりずっと大きくて剣で鍛えているせいか少しごつごつしていて、温かい。
白く柔らかく滑らかだった義弟の手が、すっかり男性のものになっている。
「私、いつになったら、姉らしい行動が取れるんだろう」
ぽつりと思いがこぼれた。
「無理だろ」
「聞こえているじゃない」
「レティシアはそのままがいい」
ふいに振り返った彼の青い瞳がまっすぐにレティシアを見る。ドキリと心臓が跳ねた。
「そ、そう? そうかな」
ちょっとうれしい。照れ隠しに自分の髪に手を触れる。
「扱いやすくて助かるよ」
「は? 貴方ねえ」
そして二人の旅はまだまだ続くのであった。
また番外書くと思います。
ほんとは幾つか案(おそらく3万字から5万字)がありましたが、データが消えてしまいました。
思いついたり、思い出したりしたら、時々更新する予定です(´;ω;`)




