表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/69

53 復学、そして日常へ

 新学期が始まった。新鮮な気持ちで最終学年のBクラスに入る。


 レティシアとエレインを遠巻きにする者もいれば、討伐について矢継ぎ早に質問してくる者もいる。


 そのうえ、二人は戦場にいたせいか大声でしゃべる習慣ができてしばらくクラスで浮いていた。言葉遣いがすっかり悪くなり、戻すのに苦労した。


 しかし、ひと月もすると慣れ、遅れた勉強は大変だったけれどそれなりに充実した日々が始まる。

そんな時、レティシアはエレインに呼び出された。


「レティシア、聞いてくれる?」


 学園の人気のないサロンでエレインが珍しく思いつめたように言う。


「どうしたの? あらたまって」


 レティシアが心配そうにのぞき込む。


「実はね……。アラン様とお出かけすることになったの」

「え? ほんとう、おめでとう!」

 

 喜んで拍手するレティシアをエレインが慌てて止める。


「まだ、気が早いわよ。それより、レティシアがリーンハルト様を通してアラン様に何か言ってくれたんじゃないの?」


「まさか、私は何も話していないわ」

「レティシアって口が硬いのよね」


 エレインが感心したように言うが、レティシアは首を振った。


「そうじゃないわ。リーンハルトはあまり噂話とか好きではないのよ」

「ああ、なんとなくわかる。潔癖そう。でもレティシアの言うことならなんでも聞いてくれるんじゃないの?」


「そんなことないよ。営舎で見てたでしょ?」

 

 喧嘩と言うほどではないが、二人はよく言い合いをしていた。


「営舎で見ていてそう思ったんだけれど? それにこの間も素敵な羽ペンをリーンハルト様からもらっていたじゃない」


「ああ、違うわ。あれはリーンハルトが『使いやすい』って言ったから、『いいな』って言ったら同じものを買って来てくれたのよ」


 リーンハルトは親切なのだ。どこの店で買ったのか聞いただけなのに、次の日プレゼントしてくれた。


「ほらね。お揃いじゃない」


とエレインがくすくす笑う。

 レティシアはぶんぶんと首を横にふり、話題を戻した。


「それで、どこに行くの?」


 するとエレインが嬉しそうに頬を染める。彼女にしては珍しい事だ。いつもは頼もしく見える友人が今日は可愛らしい。


「公園にしようかと思って、それでね。サンドウィッチを持って行こうかと」

 何のことはないエレインの相談とはサンドウィッチの具は何かがいいかということだった。営舎では逞しく過ごしたエレインもすっかり恋する乙女になってしまった。




 その晩レティシアは忙しいリーンハルトを捕まえた。


「リーンハルト、教えてもらいたいことがあるの」


 サロンで休む義弟に突撃する。


「なに? 俺これから論文書くから忙しいのだけれど」


と迷惑そうに言われた。


「アラン様の好物って何?」

「は?」


 リーンハルトが不快そうに眉根を寄せる。


「サンドウィッチの具でアラン様が好きなのって何?」

「なんで、俺がそんなこと教えなきゃならないんだよ」

「いいじゃない。マスタードが苦手だとか逆に多い方が好きだとかそういう情報が欲しいのよ」

「だから、なんでだよ」


 本当に忙しいようで、義弟は機嫌が悪い。なんだか怒っているようだ。


「細かいことは言えないけれど、友人の頼みなのよ」


 するとそれまで怒っていたリーンハルトが気が抜けたような顔をする。


「なんだ。

 アランはベーコンが好きだよ。それからマスタード多め。別に彼は嫌いなものはないから大丈夫だよ。なんでも美味いと言って食べる」

「贅沢なあなたとは違うのね」


 レティシアが感心したように言う。アランはきっと恋人としても夫としても理想的だろう。


「俺が贅沢?」


 リーンハルトが心外だと言う顔をする。


「そうよ。サンドウィッチはローストビーフが好きだし。アスパラガスの穂先は嫌いじゃない」

 

 営舎で出された時、一瞬彼の眉間にしわが寄るのをレティシアは見逃さなかった。 


「お前、なんで知ってるんだよ」

「え? 見てれば分かるもの」


 レティシアがそういうとリーンハルトは顔を赤くして、そそくさと部屋を出て行ってしまった。

 


♢♢♢



 そして平和な学園が続き、卒業することになった。レティシアは教会に勤めることに決めた。よりよいアミュレットを作れたらと思っている。


 実は魔道具士もいいなと思ったが、生憎レティシアは光魔法しか使えない。作るとしたらアミュレット専門だ。


 そしてリーンハルトはというと専科で研究しつつ王宮でも職を持ち、忙しくしている。この一年仲違いしていたわけではないが、お互い忙しくて特別話す機会もなかった。


 きっと彼はこのまま順調に出世して、素敵な女性に出会い、良い結婚をするのだろうと思った。


 

 レティシアはもちろん学園生活での最後の一年、呪いについても調べた。しかし、繰り返しの人生でそれはやりつくした感がある。まだ知らないこともあるし、いくら勉強をしても難しくて読めない本もたくさんある。


 だが、家族の仲が良くてリーンハルトが無事ならばもうそれ以上はいらないと思うようになっていた。


 いまは自分が死ぬことよりもループを止めたいと言うのが本音だ。なんだかんだと皆が無事に生きていて幸せだ。


 思えば、孤独な戦いで人を巻き込んだり傷つけたりの繰り返しで、レティシアは疲れを覚えていた。


 だから、アミュレットを作ることはあってもことさら身に着けるようなこともしなかった。心が不思議と凪いでいた。



 ただ、母の形見の銀の指輪は肌身離さず持っていた。しかし、それはなぜかループを繰り返すたびに黒ずんできているようで気になる。


 まさか、この指輪が関係しているのかとも思ったが、特別高価なものには見えない。鈍い銀色で、孤児院でも取り上げられなかったものだから、多分何の力も価値もないのだと思う。


 ただ母の形見だから大事にしているだけ。そしてそれは母が父から貰ったもの。レティシアは父の顔を覚えていない。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ