39 カウントダウン1
二十歳の誕生日の前日、レティシアはいま学園にいる。実はもう二か月前に卒業して、教会で働くべく研修を受けていた。トレバーとの結婚まではまだ半年ある。
ひと月前バートンに頼み込み、夜だけ特別に作業棟四階を使う許可を得た。アミュレットを作るためだ。もちろん、それは教会でも売られている。
だが、レティシアは自分の価値に気付いていた。彼女の光魔法は強力だし、魔法師学園の卒業生だ。それならば、より強力なアミュレットが作れるはず。これが呪いだとしたら、何とかそこから逃れたいと一縷の望みをかけた。
彼女なりに古語を調べ、魔術に関する専門書を読んだ。しかし、結局その解釈は難しく、理解はできなかった。
だからと言って手をこまねいているわけにはいかない。試行錯誤をくり返しアミュレットの制作を続けた。
最初は誕生日の前日に処刑された。その後はやはり誕生日の数日前から、数か月前で……。
だから、今日が誕生日の前日だからと言って油断は出来ない。
義父母とは上手く行っている。ミザリーとはほとんど没交渉で、向こうもレティシアに関わってこようとしない。だが、彼女は未だ婚約していなくて不気味だ。今度もトレバーを奪うつもりなのだろうか。
レティシアは首を振ってそんな考えを払う。今は死なないことに意識を集中させるべきだ。
気休めかも知れないが、アミュレットが完成すれば、これに守られて殺されるループから抜け出せるかもしれない。試作品はいくつもできているが、満足していない。思うように上手く光魔法をアミュレットに閉じ込められないのだ。
夜もだいぶ更けてきた。作業棟に残っているのはレティシア一人だけ。何度作っても納得がいかないというより、ただ恐怖心を拭うために作っている。二十歳の誕生日が来るその瞬間まで作り続けようと決めた。
作業に集中していると、コンコンコンコンとせわしなくドアをノックする音がしてレティシアは驚いて飛び上がった。
「姉さん、俺だよ」
ガチャリとドアが開き、現れたのはリーンハルトだ。一瞬彼に殺されるのかと思ったが、そんなわけはない。丁度心細かったので嬉しい。
「リーンハルト! いらっしゃい。珍しいわね。作業棟に来るなんて」
レティシアが大喜びで駆け寄ると彼が不機嫌そうに目を眇める。
「なに、能天気なこといっているんだよ。もうすぐ花嫁になるっていうのに。婚約者をほっぽり出してなにしてるのさ」
最近リーンハルトは婚約者にもっと会えと煩いが、ちゃんと一週間に一度は一緒にすごしているし、式の準備も進めている。
「なんだ。お説教にきたの?」
途端にがっくり来た。しかし、彼がいるのは心強くて。
「もう帰れ。十二時になる。夜中だぞ」
ハッとしてレティシアは、窓から見える時計塔を確認する。作業に集中していて気付かなかった。
後二十分もすれば、二十歳の誕生日を迎えることができる。それもこの世界で一番安全で安心な義弟と一緒だ。
「ねえ、リーンハルト。私もうすぐ、二十歳の誕生日なの。あなたが一番に祝って」
レティシアは嬉しくて義弟に抱きついた。
「そんなこと、婚約者にやらせろ。さっさと馬車に乗れよ。俺が送るから、全く父上も母上も甘いんだから」
リーンハルトが不機嫌な声を出しながらレティシアを無造作に引き剥がす。しかし、彼女は嬉しくてお構いなしだった。
彼は研究棟で毎日遅い時間まで勉強している。レティシアはそれに便乗して義父母に許してもらっていた。今世の彼らは勉強に熱心なレティシアを応援してくれている。
そしてなぜかは分からないが、このループはもうすぐ終わりを告げるようだ。リーンハルトと仲良くなったのが良かったのかもしれない。
「リーンハルト、じゃあ、十二時過ぎまで私にお説教していいわよ」
「ばっかじゃないの。酒飲んでいるわけではないよな?」
呆れたように言う。怒るのは諦めたようだ。
今世で彼に馬鹿と言われたのは初めてだ。でも嬉しい、彼と二十歳の誕生日が迎えられる。レティシアは浮かれていた。
そんな時、水を差すように、コンコンコンコンと再びノックの音が響く。さすがにびくりとした。時計塔を見るとまだ十五分はある。
思わずリーンハルトの上着の袖をつかんだ。
「なんだよ。一人でいるのが怖かったのか。ならなおさら早く帰れ」
呆れたように彼がレティシアの手を振り払い。
「どなたですか?」
とリーンハルトがドアに向かう。嫌な予感がした。
「待って、リーンハルト!」
次回以降また少し更新空きます。お付き合い頂けると嬉しいです。




