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22 姉と弟


「ねえ、リーン、今日は一緒に街中のカフェに行かない?」


 ミザリーがリーンハルトに声をかけると、書庫にいた彼は驚いたように目を瞬く。

彼は学校が休みになり、家に帰って来たものの、ずっと書庫に閉じこもって勉強をしている。


「え、どうして俺と? 友達といけばいいじゃないか」

「あなたはいつも家にいないのだから、こんな時くらい姉弟で一緒にでかけてもいいでしょう」

「うん、まあ……。家のサロンや庭ではだめなの?」


 リーンハルトは勉強時間が減るのが嫌なのだ。ミザリーは淡く微笑む。



 結局、ミザリーが押し切り、二人は連れ立って、家から近いカフェに来た。

 メニューを注文するも、前に座ったリーンハルトは落ち着かない様子。二つ年下の弟は子供だと思っていたのに、いつの間に顔も大人びて、ミザリーより背が高くなっている。


「どうしたの? リーン落ちつかないようだけれど」

 

 注文したカフェオレとケーキが運ばれてきた。


「いや、あいつがいないと思って」


 そう言ってリーンハルトはカフェオレに口をつける。


「あいつって? 誰のこと」


 己の微笑が引きつって来るのがわかる。


「レティシアだよ」

「どうして?」


 ミザリーは金糸の髪をサラリと揺らし、心底不思議そうに首を傾げた。


「姉弟でって、いってたろ? あいつも来るのかと」

「呼んだ方がよかったかしら」

「いや、別に」


 リーンハルトはそっけない。この年頃の子はたいていそうだ。いつも伯爵家嫡男としてしっかりしているが、時折こうして年相応の一面を見せる。


「最近、レティシアと仲がいいのね。もしかして、好きになっちゃった?」


 リーンハルトが弾かれたようにミザリーを見る。それから、少し迷惑そうな顔をした。


「そういうことじゃない。ただ、あいつも、家族だろう」


 ミザリーは、弟のこういうところを残念に思うし、苦手だと思う。面と向かって、レティシアに文句をつけるのに、陰で悪口は言わない。


 彼は父オスカーに少し似ている。厳しいようでいて、博愛主義。潔癖な面があって、どんな嫌いな相手のことであっても陰口を好まない。そして相手が本当に困っていれば、手を差し伸べる。


「ねえ、こうやって二人で向かい合って座っていると、周りの人達に、私達ってどう見えるのかしら?」


 ミザリーは蠱惑的に弟に笑いかける。


「そりゃ、姉弟でしょ?」


 リーンハルトが淡白に答える。


「ふふふ、なんだか恋人同士みたいじゃない」


 すると彼は呆れたような顔をした。


「なにそれ、姉上は友達が多いのだから、男友達でも誘えば良かったじゃないか。皆喜んで来てくれるだろ」


 美しい姉弟は腹の底で通じ合うことなく、微笑み合う。


 リーンハルトはきっとレティシアが暴言を吐いたとしても心のそこから憎んだり、恨んだりはしない。彼女を助けることはあっても……。

 レティシアの事を怒っているようでいて、それはただ彼のプライドの問題であって。リーンハルトは公平でとても寛容。


「ねえ、どうして、レティシアに学園に行くことを勧めたの? あの子、勉強が嫌いなのに」


 するとリーンハルト小さくため息をつく。


「勧めたわけではないよ。本人が行きたいと言いだしたんだ。俺はバートン先生と父上に話を通しただけだ。そういうことはレティシアに直接聞いたら。俺にはレティシアの考えは分からない」


 そういって、彼は口を引き結ぶ。やはりそうなのだ。レティシアのために人に話しを通し、お膳立てする手間を厭わない。

 彼はただ面子あるから、怒っているふりをしているだけ、本当はとっくに彼女を許している。 



「わかった、そうする。でも私もそこまで興味があるわけではないのよ。ただ不思議に思っただけ」


 それから、話題はレティシアから逸れていった。


 

 ――リーンは私の味方にはなってはくれないの?

  

 あなたは知らない。博愛主義者は偽善者でもあることを。 










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