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23 レティシアは友達を作りたい

 いよいよ新学期が始まった。今日から寮生活が始まる。

 レティシアは学校の受付で書類を受け取った。それにクラスと寮の部屋の鍵と今後の授業のスケジュールが入っているという。


 早速広いカフェテラスに行ってカフェオレを注文し、大きく張り出した窓のそばに座った。

 なんだかワクワクする。


 書類を開けてみると「F」という文字がでかでかと書いてあるのを見た。「F」って何? 要綱のページをめくって行くと飛んでもないことが書いてあった。


「嘘でしょ」


 彼女のテスト結果はダントツ最下位で光魔法の適性とバートンの推薦がなかったら、入学直後に退学になっているところだった。


 レティシアは恐怖に震える。


(私って、何度ループしても馬鹿なんだ)


 妙に納得しつつも、冷や汗をだらだらとかく。


 そして、自分にあてがわれた部屋を見て驚いた。辛うじて一人部屋ではあるが、粗末なベッドが一つに、文机が一つ。それに作り付けのクローゼットがあり、ティーテーブルすらなく、狭い。


 しかも、一階西側の西日しか差さない物置のような部屋で風呂もない。この部屋を割り当てられた者は共同浴場に入るらしい。

「なんでーーっ!」


 

 まさかお義父様が寮費をけちったの? 一瞬、心に疑いが芽生えるが、慌てて打ち消した。オスカーはそのような狭量な人物ではない。自分の浅ましさに怖気が走る。こんなだから、殺されるほど憎まれるのだ。


 もう一度要綱を、目を皿のようにして読む。それによると、部屋は入学テストの成績順でここは一番悪い部屋。掃除や洗濯も自分でやり、食事だけはカフェテラスで食べられる。


 ちなみに最もいい部屋は掃除洗濯風呂付だそうだ。二間続きで、寝室と勉強部屋は分かれているという。別に下町の孤児院で育ったので、苦でもないが。


「何この格差。そう言えば、リーンハルトはどの部屋をあてがわれたのかしら」


 ぎりぎりと要綱を握り締め、独り言ちた。彼の待遇が気になるが、本当にちらと家で見かけたくらいで、彼とは最近、話もしていない。適性検査の時に面倒を見てくれただけ。学園の事をいろいろと聞きたかったのに、うるさがられて相手にしてもらえなかった。

 

 別にいいけれど……。元々、犬猿の仲だし。



 魔法学校で、レティシアは一番下のクラスから始めた。この学校は庶民も貴族と一緒に通っている。レティシアのここでの目的は、ミザリーから逃れるばかりではなく、友達も作るつもりだった。

前回も前々回もいなかった同性の友人をこの三巡目で作る。


 意気揚々とクラスに入った。


 ところが、そうは上手くいかなくて、レティシアが入った「F」クラスは庶民がばかり。そんな中で伯爵令嬢レティシアは目立った。その特徴的な髪色と、瞳の色ともに。そのうえ、庶民は一般的に髪も瞳の色も濃く。白銀の髪を持つレティシアはさらに浮いた雰囲気となった。


 教室では女生徒も男子生徒も遠巻きに見ている。レティシアはここでも孤独を味わうことになった。貴族の子弟は皆きちんと教育を受けてこの学校に入るので、ほとんどが「C」クラス以上なのだそうだ。ちなみにこの学校で「F」クラスに入れられた貴族はレティシアひとりで。学園始まって以来の珍事。

 

 だが、そのことに関してリーンハルトが、「いい晒し者だ」とか文句をつけてきたり、怒ってきたりすることはなく。カフェテラスでときおり遭遇すると気の毒そうな心配そうな何とも複雑な視線を送ってくる。

 


 しかし、「F」クラスといえど授業は家庭教師のようにレティシアに合わせてくれるわけではないから、進みが早くて苦労した。

 教養の成績は三回目の時を過ごしているのにも拘わらずひどい成績だったが、辛うじて実習の成績は良く、放校にはならずに済んでいる状態だ。



 ♢


 暖かな日のあたるカフェテラスでレティシアがランチを食べているとリーンハルトが現れた。いつもは友達に囲まれていて声をかけにくいけれど今日は一人だ。

 レティシアはすかさず彼に近づく。


「リーンハルト、お話があります」

「俺にはないけれど」


 また、このやりとり、彼は無駄だと思わないのだろうか? レティシアは構わず義弟の向かい側に腰を下ろす。


「あのね。全然、勉強がわからないの。教えてくれない?」

「俺の勉強時間を削って?」」

「そう、ほんの少しだけ削って、勉強を教えてくれないかしら」

「断る」


 それで会話は終了した。彼は今上級生だ。他の子供よりも優秀だった彼は入学が一年早く、そのうえ、スキップしているので二学年上だ。もしかしたらと思ったけれど、けんもほろろに断られた。


 仕方がない、自分で頑張るしかないのだ。


 そんなある日実習でペアを組むことになった。当然Fクラスなので相手は平民だ。これは友達になるチャンスかもしれない。

 しり込みする彼女を学園のサロンに誘う。しかし、返って来た言葉は……


「私、サロンでお茶をのむお金なんてないんです」

「どうして? お金なんてかからないじゃない?」


 レティシアと一緒にいたくないから、こんなことを言うのかと思うと少し悲しくなる。


「それは、あなたの家が貴族でお金持ちだから」

「どういうこと?」


 意味が分からなくて首を傾げた。


「貴族はそれなりの税を納めているし、シュミット様のお父様も多額の寄付をしているのよ。そういう生徒だけがタダなんです。だから、私達庶民は自分達で食事を用意します。ここのものは高くてとても手が出ないから」


「……そ、それならば、私が何かごちそうするわ」

「結構です。私は、施しは受けませんし、あなたとは身分が違い過ぎて、お友達だなんて無理です」


 初めて知った事実に打ちのめされ、今更彼らとの壁に気付く。みな、レティシアに気を遣うし、

「シュミット様」と呼ぶ。貴族である彼女は「F」クラスの皆にとても気を遣わせている。

 

 今まで、貴族の家に引き取られて自分がどれほど幸せだったのかなどと考えたこともなかった。それ以来、レティシアのお友達を作る作戦はとん挫した。


 ただひたすら、大人しく勉強に専念した。





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