第14話:図書館で驚く
「うーん、やっぱりゲームとは微妙に違ってるんだな」
匠は椅子に座って手に持った書物をめくりながらそう呟いた。
匠がいるのは、帝国の上級役職の者しか入ることのできない帝宮内にある書庫であった。
書庫は、帝国が建国されてから造られたという歴史の浅さにしては、それなりのスペースと、なかなかの蔵書量を誇っており、匠はかなりの頻度で書庫に入り浸っていた。
匠は、自分が持っているゲームとしてのアスサガの知識と、実際にラウラ達が生きてきた世界の現実とでは、ゲームの知識と同じところもあれば違うところがあると考え、書庫にある書物を読むことで、そうした齟齬を埋めようとしていたのだ。
幸いなことに、書物に書かれたアスサガの世界の文字については、明らかに日本語ではない形状をしているにも関わらず、書かれている内容をなぜか匠は理解することができた。
理由はわからないが、文字を理解することができたことについて、この世界で一から文字を習う必要がなくなり匠はほっとしたという一幕もあった。
結果としてやはりいくつか違いがあることがわかったが、その中でも特に匠の興味を引いたのは、霊器の呼び方であった。
ゲームのアスサガでは、霊器はSSR、SR、R、HN、Nというレアリティで呼ばれていたが、こちらの世界では、SSRを1級霊器と呼び、以下SRを2級霊器、Rを3級霊器、HNを4級霊器、Nを5級霊器というように、級でその位を表していることであった。
また、ある書物には、レアリティがRの霊器、つまり3級霊器までであれば、極まれに古代遺跡や古代迷宮において発見された事例があるも、SR、つまり2級霊器以上はこれまで現存が確認されていなかったということも記載されており、霊祇官による召喚以外にも低レアの霊器であれば入手可能な手段が極まれであっても存在したというところもゲームにはない点であった。
もっとも、そのような状況下で、SR以上の霊器を召喚することができる霊祇官という存在がいかに規格外かという点においては、ゲームもこの世界も変わりないのであったが・・・
そして、書物によれば、霊祇官が召喚した霊器については、3級以上については、霊祇官が授与の儀を行った者にした装備できないとも書かれており、つまりR以上のレアリティの霊器については、霊祇官の裁量に任されているということになっていた。
ちなみに、霊祇官は、歴史上では、霊器を召喚する「召喚の儀」という秘術を行うことが主たる役目なのであるが、「召喚の儀」を実際に行えるのは、古代の知識と血を受け継いだ古代人の末裔である者しか行うことができないこととなっており、ゲーム内では、古代人の末裔たる主人公しか行うことができない設定となっていた。
そのため、帝国が建国されるまで、帝国以外の国においては、そもそも霊祇官という役職がなかったり、あっても、授与の儀を行うことは古代人の末裔でなくともできる者がおり、そのような技術をもつ者が、国家が保有している霊器を家臣に渡すための儀式を行うため存在でしかなかった。
そのような中で召喚の儀を行うことのできる主人公がラウラ達ゲームのキャラクターたちに手を貸すこととなり、帝国建国という流れに結びついていくというのが、アストラル・サーガのメインストーリーの展開なのであった。
匠は読んでいた本を閉じて机の上に置き、次の本を読もうと、机の右端に積まれた本の方に目をやると、すっと匠の目の前に、匠が読もうとしていた本が差し出される。
「あ、ありがと・・・え?」
差し出された本を受け取ろうとした匠は、今この書庫にいるのは自分しかいないはずなのを思い出し、受け取ろうとした手をピタリと止まる。
匠は、ギギギっと音がしそうな動作で、差し出された手から辿るように、差し出した者を見る。
本を差し出したのは、忍び装束を身にまとい、口元を布で隠し、長い黒髪を後ろで結んで流している高校生ぐらいの少年であった。
「うわっ」
予測もしていないいきなりの登場に、匠は驚いた声を出してのけぞり、その反動で椅子から転げ落ちそうになる。
しかし、匠の身体は地面に落ちることはなかった。
匠が態勢を崩して転げ落ちそうになった瞬間に、忍び装束の少年が、素早く本を持った手とは反対側の手で匠の身体を支えたからだ。
それに気づいた匠は、動揺をしながらもお礼の言葉を口にした。
「あ、ありがとう」
その匠の言葉に、少年は照れたような表情を浮かべながら頷く。
そして、そんな二人に書庫の入口の方から声がかかる。
「シウンさん、お兄さんの前で気配遮断するのは、お兄さんがびっくりするからやめた方がいいとなんども言ってるじゃないですか」
書庫の入口には、ティーポットとティーグラスが乗ったトレーを持った全身を白銀の鎧で身を包んだ黒髪の中学生ぐらいの少女が立っていた。
少女は、ミズハという名のパラディンの職業につく神将であり、もう一人の神将である双子の姉であるロイヤルガードのサクラとともに、建帝であるラウラの近衛的な役割を務めるのが本来の任務なのであるが、匠のことを心配したラウラが、ミズハにしばらくの間、匠の傍にいるように命じたため、あの円卓の間での会議の後、何かと匠の世話をやいているのであった。
匠は、会って早々に「お兄さん」と呼ばれ大いに動揺するという一幕もあったが。
そして、ミズハが口にしたシウンという名を聞き、匠はアスサガにおけるシウンという名のキャラを思い出した。シウンはアサシンの職業についている、明らかに忍びをモチーフにしたと思われる少年であり、匠はシウンを影司と呼ばれる高位役職の中でも特殊な役職に付けていた。
アストラル・サーガのゲーム内において敵対勢力と戦争状態になる際、影司の能力が高いか低いかで、戦争開始当初の状態がまったく違うのだ。
影司は、帝国における諜報組織「影」の責任者であり、影司の能力が低いと、敵対勢力と戦闘に入った際、索敵行動をしないと、敵キャラの配置がほとんどわからなかったり、敵キャラのアイコンをクリックしても、敵の兵力が不明だったりと、手探りの戦闘を強いられるのであるが、逆に能力が高いと、マップ上の敵キャラの配置が一目瞭然であったり、敵の兵力や、敵勢力の将軍の能力もわかったりするようになる。
しかも、影司の役職に付けたキャラがSR以上の霊器を装備していた場合、情報面において戦争を有利にするだけでなく、戦争状態に入った時点で敵勢力の兵力が減少していたり、戦闘中に敵部隊が混乱状態になったりと、敵勢力に対する破壊工作も可能となるなど、戦争フェーズをかなり有利にすることが可能となるのだ。
ネット上では、影司の役職に就くことのできる適性のあるキャラのSSR霊器をガチャで手に入れたプレイヤーが、
「防衛戦イベントこれで勝つる!」
「きた!勝ち組確定ww」
と書き込むこともあるほど影司は重要な役職であった。
そして、匠もまた、ネット上におけるアスサガプレイヤーの書き込み同様、ガチャでシウンが装備可能なSSR霊器をゲットした際には、「うおお、やったーー!きた!」と喜びの声を上げたことのあるプレイヤーの一人であった。




