推しの令嬢、守護します! 2-2
「師匠の指南ですか??」
ガウスマンの質問に、エドガーは呆けた様子で聞き返す。
「ああ、意地の悪いアイツの事だ、条件も厳しかったのでは?」
ガウスマンは、エドガーに真実を話させる為か、逃げ道を一つずつ潰しながら話す。
(――レベルタから聞いて全部知ってるだろうに……。
どうしても俺の口から言わせたいらしいな、この爺さん。
さて……、どうしたもんか……。
もう、俺の目的は諦めるべきだろうな)
エドガーはずっと、今後の展開の為にも、レアリーの情報を引き出すつもりであったが、探られるばかりで、全く望んだ物が手に入らない状況に嫌気が差してきていた。
「まぁ、もういいか……」
エドガーは小さく呟いた後、考えを決め、行動に移す。
「師匠の条件……、確かに厳しい条件でしたよ??
でも、僕の口から言えないです。
トレブ・ジェイス子爵の不利益になるからです」
エドガーの物言いに、ガウスマンは目を丸くした。
今までのエドガーは、のらりくらりと問答を交わすだけで、重要な事は何もガウスマンに、答えていなかった。
「ふ、不利益……?」
エドガーの纏う雰囲気も少し変わった事で、ガウスマンは慎重になる。
「はい。 不利益です。
ジェイス子爵はある組織を運用し始めています。
――私は、その試作の一端です」
「――何の話だ??」
「オルレッド・ガウスマン様……、あまり知れば、ガウスマン様の事もジェイス様に、報告しなければなりません」
エドガーは、しっかりとガウスマンを両目に見つめ、「俺もお前を知っているぞ」と言わんばかりに、堂々と発言した。
エドガーの話は、レベルタから来ていた話とはまるで違い、ガウスマンは戸惑った。
まだまだ、エドガーの本性、ジェイスや周りの有力者との繋がりを、明確化出来ていないガウスマンは、これ以上の踏み込みは危険だと、そう感じた。
「ジェイス子爵の策略なのか……?」
「あまり多くは語れませんが、ジェイス様が上であって、断じてその逆ではありません。
この酒場の権利もカリスではなく、ジェイス子爵が持っている物です。
――でなくては、このような珍妙な料理ばかりが並び、それが好評を得ている店……、とっくに他の貴族に目を付けられ、買われてしまいます。
ジェイス子爵の持ち物だからこそ、ここは手が出せない」
エドガーの物言いに、ガウスマンは難しい表情を浮かべ、レアリーはエドガーを不満げに見つめていた。
「酒場の子供。
貴方を探る事は、ガルバニア王国の貴族、トレブ・ジェイス子爵を探る事と同義だと言いたいの?
――別に、そんな理由が抑止にはならないわよ」
オルレッド・ガウスマンの名前が出た事で、レアリーは、エドガーが自分達の身分を知っているという事を認識し、更に強気に発言する。
「抑止にしようとは考えておりません、レアリー様。
ジェイス様も、オルレッド家に何かをしようとは、考えておりません。
――ただ、おんかたにも成し遂げたい野望があるのです、オルレッド家が邪魔になれば……。
という事にもなりかねません」
「今度は脅し?
成金の子爵上がりの下働きは、躾がなってないわね」
「申し訳ございません。
不躾な忠告しかする事が出来ません」
レアリーは素性が割れてからの方が、活き活きとし、エドガーに厳しい物言いをするが、エドガーは気にも留めず、丁寧にジェイス様の小間使いを演じる。
(ジェイスのおっさんには、悪いけど今回は盾にさせてもらうよ?
――ガウスマンの爺さんが、思った以上に強引に切り込んできたし、余計な情報は流したくないからね)
エドガーは、心の中でジェイスに謝罪を入れながら、ガウスマンとジェイスの反応を見た。
「レアリー、控えなさい。
――すまないな? ジェイス子爵の使いの者よ。
私の思い違いがあったのやもしれん……。
成程、そう考えるのが当然であろうな」
エドガーを中心に、ジェイス、レベルタ、マービス技師が繋がっているわけではなく、ジェスタを中心に纏まっていると、エドガーは匂わせた。
「少年よ、別に私はジェイス子爵に不利益をもたらすつもりも、敵対するつもりもない」
「ジェイス様もオルレッド家の方々に、厄介ごとを持ち込むつもりは無いと考えます。
――ただ、素性も明かせない方からの詮索は、主の望む事ではありません」
あれこれ聞くだけ聞いてくるガウスマンに、エドガーは四大貴族が相手であってもまるで臆することなく、釘をさすように発言する。
「素性も明かせないって……、失礼なッ!
私達はッ……」
「レアリー!
――すまない、少年の言う通りだ。
我々の素性を知ってはいようが、我々がそれを認めたわけでなく、この場でそれを認めるつもりもない……。
やぶさかな質問であったな」
エドガーの強気な物言いにレアリーは、我慢ならない様子であったが、不思議な魅力を持つエドガーと、こんな事で縁が切れるのは、本意ではないガウスマンは、自らの非を認め、謝罪までもした。
ジェイスとガウスマン、レアリーの地位は、比べるまでもなく、オルレッド家の人間であるガウスマンとレアリーの方が、地位が高く、レアリーは子爵風情の、しかも子爵の小間使いに、忠告された事が気に食わなかった。
しかも相手が、祖父が執心気味であるエドガーであった為に、レアリーの限界は党に越えてしまっていた。
「――御じい様…………。
私は納得できません。
貴族の命に背くなど……、平民に許されるはずが……。
――酒場の生意気な子供よ。
貴方、レベルタと鍛錬を行っているのよね??」
レアリーは怒りに震えた様子で呟いた後、エドガーに視線を向けて、レベルタとの鍛錬について、再度確認を取る。
もはや周知の事実になっている事である為に、エドガーは否定せずに首を縦に振ると、レアリーは笑みを浮かべる。
「ならば、私と決闘をしなさいッ!
――私が勝てば、御じい様の知りたい事、あるいわ貴方の主を、ここに呼び付けてもらうわッ!!」
「は??」
あまりにも唐突な物言いに、エドガーは思わず素の反応をレアリーに見せる。
「ガルバニア王国の流儀はご存じで?
現貴族の祖先は、冒険家や戦争で戦う勇敢な戦士が多く、武での誉は、この国最大の誉。
そのガルバニア王国において、決闘は何よりも大事で、神聖なもの。
ガルバニア王国の貴族は、挑まれた決闘からは決して逃げないと聞くわ」
(――レアリー嬢……それは、お貴族様の話では??
それに、最近のお貴族様は決闘なんて滅多にしないし、申し込まれた貴族が逃げたなんて話も聞きましたが……)
自信満々にガルバニア王国の知識をひけらかすレアリーに対し、エドガーは心の中でツッコミを入れるも、レアリーの勢いが衰える事は無かった。
「まさか、ガルバニア王国男児とあろう者が、他国の、流儀の知らぬ、しかも令嬢からの決闘を受け入れないとは、言いませんよね??」




