推しの令嬢、守護します! 1-12
「今日もありがとう。
とても楽しかったよ」
エドガーと会話を楽しみながら、酒場にて食事を取った老翁は、個室から出て、カウンターで働くカリスに、帰りがけに声を掛ける。
「あッ! お帰りですか??
ありがとうございます!
――あの、息子は……、阻喪をしたりしませんでしたか??」
忙しく料理を作っていたカリスであったが、相手が相手である為、老翁を蔑ろには出来ず、料理の手を止め、カウンターから出て、老翁の元まで向かうと、エドガーの対応に関して、老翁に尋ねた。
エドガーに対応を一任し、酒場も忙しくなってきた事もあり、カリスは老翁とレアリー、貴族達の相手をするどころか、様子も見る事が出来ず、働きながらエドガーを心配に思っていた。
「あぁ、問題ない。
少年は良くしてくれた」
「そ、そうですか……」
老翁の言葉にカリスはホッと胸を下ろし、老翁達のエスコートをしているエドガーの頭を軽く撫でる。
カリスとエドガーの様子を見て、老翁は優しく微笑んだ後、カリスへと視線を向け、真剣な口調で話し始める。
「亭主よ……。
こんな事言うのもなんだが……、もしよければ、我が国ッ……。
――いや、いい。
また来るよ」
老翁は、カリスを彼の一家ごと自分の国に、迎え入れようと考えていたが、エドガーの話していた、カリスの夢の話を思い出し、途中で言い淀み、カリスにそれを伝える事無く、また酒場に来ることだけを伝えた。
「は、はい……。
こんな所で良ければ、いつでもお越しになってください」
「うむ」
カリスは何かを言いかけた老翁に対し、不思議そうな表情を浮かべながらも、またの来店を快く受け入れ、老翁は短く返事をし、お会計を済ませると店を出ようとした。
老翁が店の出口へ向かおうとすると、それと同時に新しい客が来店した。
「いらっしゃいませ~~」
来店を告げるベルが店内に鳴り響き、その音色を聞いたファラやアンナは、体が反射的に反応し、新たなお客に対して声を上げる。
カリスやエドガーも、自然と店の出入り口へと視線を向け、お客さんの姿を見た。
「あッ! レベルタさんッ!!
またご利用に??」
カリスは、酒場のお得意様でもあった為に、新たに来店したレベルタに声を掛ける。
来店したレベルタは、青髪の長髪であり、男でありながら綺麗に伸びたストレートな髪が特徴的だった。
長い髪は後ろで束ねられ、ポニーテールの様な髪形をしており、綺麗な顔立ちである事から、女に間違われる事もある、目を引く見た目であった。
そして、レベルタはエドガーの良く知る人物でもあった為、エドガーは声を掛けようとする。
「え? ししょ…………」
エドガーはレベルタに明るい声で、声を掛けようとするが、来店したレベルタの顔を見て、言葉は途中で途切れた。
目を見開き、あり得ないものを見たかのように立ち尽くし、エドガーも見た事のない表情を、レベルタは取っていた。
凄腕の冒険者であるレベルタは、エドガーの知る限り、あまり感情が、表に出るようなタイプではなく、実際、動揺する事など殆どない、そんな人物だった。
「何故貴方様がここへ……??」
普段ぶっきらぼうな物言いの多いレベルタであったが、老翁と知り合いなのか、老翁とレアリーをやんごとなき方々だと理解しており、普段よりも丁寧な口ぶりで、老翁に尋ねた。
声を掛けたはずのカリスと、掛けようとしたエドガーは、レベルタの様子に夢中であり、レベルタと老翁を交互に見ながら、そのいきさつを見守った。
「レベルタ? 君もここを利用して??
こんな所で会うとは奇遇だな」
激しく動揺するレベルタに対し、老翁も驚きつつも、すぐにいつもの調子を取り戻し、再開を喜ぶようにレベルタに話しかけた。
「え、えぇ、まぁ……、ちょっと成り行きで…………」
老翁の問いかけに、レベルタは少しだけ気まずそうに答えながら、老翁とのやり取りの合間に、一瞬だけエドガーを一瞥した。
そして、レベルタは都合が悪いのか、老翁に提案をし始める。
「旦那様。
少しお話がありますので、旦那様のお屋敷にてお話よろしいでしょうか??」
「話? まぁ、この後は用事も無いしな……、問題は無いが。
屋敷は、腐れ縁のあやつの別邸を借りておる。
時間が出来たら来るといい」
「はいッ、ありがとうございます」
レベルタの要請は通り、老翁の指示した屋敷も分かるのか、レベルタすぐに場所も承知していた。
(レベルタさんと爺さんは知り合いなのか……。
ゲームでは全く出てこない人達だから一切繋がりが見えないなぁ~~)
レベルタと老翁のやり取りを、エドガーは聞いていたが、関係性も何も分からず、気になる事は多々あったが、それを知る機会は無かった。
老翁はレベルタと約束をすると、すぐに酒場から出ていき、レベルタも軽くカリスとファラに、「また今度、別の機会に来る」とだけ伝え、店を出ていこうとした。
エドガーはその一部始終を見つめていたが、店を出ようとしたレベルタは、何かを思い出したかのように、今度は一直線でエドガーの元へと向かってきた。
「――おい、クソガキ。
さっきの貴族様に余計な事、言ってないだろうな??」
レベルタはエドガーに対して、いつもの口調で、問い詰めるように尋ねた。
「余計な事って?
師匠~~、僕も良識ある市民ですよ~~??
お貴族様相手に失礼があるわけないじゃないですか~~」
「ちッ!! ホントかどうか…………。
とゆうか、その呼び方止めろ! いつも言ってるだろうが!!」
エドガーに対して、とことん厳しい対応をするレベルタは、結局エドガーの言葉を信用していない様子で、少し怒った様子で店を後にしていた。
(なんか、いつもより機嫌悪いな……、リベルタさん)
◇ ◇ ◇ ◇
ファルラン家 別邸。
オルレッド・レアリーの祖父、オルレッド・ガウスマンは、ガルバニア王国の貴族、ファルラン家の別邸を借り、ガルバニア王国に訪問していた。
ファルラン家とは長い付き合いがあり、ファルラン家現当主とは良好な関係を気付き、前当主とは気心知れた親友でもあった。
そして、そんなファルラン家の別邸へと、約束を取り付けたリベルタは訪れていた。
「お目通りありがとうございます。
オルレッド様」
リベルタはガウスマンと面会するなり、片膝を付き、しゃがみ込むようにして最敬礼を行った。
「リベルタよ、固い挨拶はよい。
私は、今はただの旅人よ。
――其方に会うのは久しぶりだな?
聡明な其方の事だ。
わざわざ時間を設けて私と会うなど、何か、余程の話があるのでろうよ。
様式など気にせず、好きに話せ」
ガウスマンは椅子に座り、用意された紅茶を飲みながら、レベルタにそう告げた。
ガウスマンにとって、リベルタはよく知る人物であった為、彼の人となりを見て、要件を話すように促す。
そして、要件を聞いていないガウスマンであったが、リベルタがこれから話す話題が、自分にとって、とても興味深く、面白い話になるであろう事を、既に確信しており、大いに期待していた。
「では、僭越ながら。
――あの、酒場の少年とオルレッド様は、どのような関係でございますでしょうか??」
リベルタは身分が高い人に、いきなり質問をする事は、失礼だと感じながらも、ガウスマンに遠慮することなく、リベルタ自身も気になる部分、確かめたい部分があった為に、礼節を軽んじ、単刀直入に本題を切り出した。




