表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/83

【第14話 空の匂い】

時間があったので投稿

※2026/01/13 イラストを更新しました

【第14話 空の匂い】


 ――夜明け前の風は、鉄の匂いがした。


 ルコールは空挺〈スカイハウル〉の甲板に立ち、薄曇りの空を見上げていた。

 冷えた金属の手すりが、掌に馴染む。夜露が滴り落ち、プロペラの音が低く唸る。


「……風が変わったな。」


 背後から声がした。

 酒と機械油の混じったような声。バルドだ。

 古びたコートの襟を立て、義眼を光らせながらルコールの隣に立つ。


挿絵(By みてみん)


「高気圧が抜けた。明け方にかけて風向きが西に変わる。……奴らの飛行ルートと被る。」


「奴ら、ね。」


 ルコールは低く呟き、外套の中のポケットを押さえた。

 ペンダントの欠片が微かに脈動している。

 光は弱いが、確かに何かを示していた。


「やっぱり光ってやがるな。」

 バルドが煙草を口にくわえ、火を点けずに噛む。

「まるで“帰り道”でも教えてるみてぇだ。」


「だとしたら、行くしかねぇ。」


「まったく、無茶なやつだ。」

 バルドが苦笑する。

「ギルドから正式な依頼でもねぇのに、空まで出張るハンターなんざ、お前くらいだ。」


「拾った命だ。好きに使うさ。」


 短い言葉に、バルドの眉がわずかに動いた。

 ルコールの視線は、遠く霞む東の空に向けられている。

 その眼差しは、あの焼けた村を越え、もっと遠い何かを見据えていた。


「……なぁ、ハンター。」

 バルドが低く問う。

「お前、あのガキ――“光の坊主”をどうするつもりだ。」


 ルコールは答えなかった。

 かわりに、右手の銃剣アッシュフォールを抜く。

 夜明けの光が刃に反射して、一瞬だけ橙の線を描いた。


「生きてるなら、守る。

 死んでるなら、弔う。

 それだけだ。」


 その言葉を聞いて、バルドは静かに笑った。

 笑みには、長い戦場の疲れと、それでも信じたいという微かな光があった。


「……俺たちの時代にも、いたんだよ。

 世界を救えるって本気で信じてた馬鹿がな。

 そいつの“信じ方”が、ちょっと強すぎただけかもしれねぇが――」


「……お前の昔話はいつも苦ぇな。」


「歳を取ると、酒と話だけが濃くなるんだ。」


 風が鳴る。空気が変わる。

 甲板の灯が一瞬だけ瞬き、バルドの義眼が赤く反応した。


「レーダー反応。北東方角、高度三千。……奴らの空路だ。」


「来たか。」


 ルコールは刃を収め、操舵席の方へ歩き出す。

 足音が甲板を叩くたび、ペンダントの欠片が脈を速める。


 ――彼の歩む先、空の彼方には。

 未だ“名前を奪われた光”が、冷たい檻の中で眠っている。


(第14話 了)

よろしければ、評価と気に入っていただければブックマークをお願いします。

執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ