【第12話 沈黙の追跡】
初執筆、初投稿、良い歳したおっさんなので完走できるように長い目で見守ってください。
月曜日が基本固定休なので、月曜日更新を目指していきます。
※本日投稿は12話投稿で終了です。
※2026/01/12 イラストを更新しました
【第12話 沈黙の追跡】
――夜の街は、雨の匂いがしていた。
焦土から戻ったルコールは、ギルド支部の扉を押し開けた。
足音が響くたびに、床にこびりついた泥が微かに音を立てる。
焦げた匂いはまだ外套に染みついて離れない。
「……ただの火災じゃねぇ。証拠も残っちゃいねぇ。」
報告書に目を落としたギルドの支部長が顔をしかめた。
書き並べられた言葉の中に“融解”“焼失”“光源不明”の文字が並ぶ。
「また、だ。三ヶ月で四件目だぞ、ルコール。
――まるで“世界が燃えている”ようだ。」
「燃やしたのは人間じゃねぇよ。」
ルコールは短く吐き捨てると、報告書にサインを入れた。
外套のポケットの中で、ペンダントの欠片が微かに光った気がする。
支部長は煙草を咥え、煙を吐く。
薄い煙の向こう、壁の掲示板に貼られた依頼書の数々。
“失踪”“行方不明”“未帰還”――どれも似たような言葉ばかりだった。
「……この街にも影が入り込んでる。」
呟いたルコールの声に、支部長が眉を上げる。
「また《世界救済団体》か。」
「やつら以外に、こんな痕跡を残せる連中はいねぇ。」
ルコールは背を向けた。
雨音が強くなる。窓の外では雷が遠くで光っている。
ギルドを出てすぐ、路地裏から声がした。
「よぉ、顔が死んでるぜ、ハンター。」
その声に、ルコールは立ち止まる。
薄暗い街灯の下、無精髭の男が煙草を咥えたまま笑っていた。
――バルドだ。
「……お前か。相変わらず、夜の犬みてぇに嗅ぎ回ってやがる。」
「情報屋は夜が本業さ。
……それより、ひとつ聞かせろ。
――あのペンダント、無事に渡せたのか?」
ルコールは一瞬だけ視線を伏せた。
雨粒が外套の襟を叩く音が妙に遠くに感じた。
「ああ。……今も、あいつの首にあるはずだ。」
「そうか……」
バルドの笑みがかすかに歪んだ。
煙草の火がじり、と音を立て、すぐに雨で消えた。
「それで? 孤児院の跡形もねぇって噂だ。
お前、何を見た?」
「光だけだ。」
短く答えると、バルドの笑みが消えた。
雨が路地の石畳を叩き、二人の間に一瞬だけ沈黙が落ちる。
「……光の坊主、って噂が流れてる。
人間じゃねぇような“光”を纏ったガキが、東の方角で見られたってな。」
「知ってる奴がいるのか。」
「見た奴は生きちゃいねぇ。けど、焼け跡は残ってた。
地面が……まるでガラスみてぇにな。」
ルコールは目を細め、ポケットの中の欠片に視線を落とした。
雨音の向こうで、青い光が微かに明滅する。
その破片を見た瞬間、バルドが言葉を飲み込んだ。
何かを言いかけて、唇が止まる。
その表情には、かつての戦友を失ったような痛みがあった。
「……あいつだ。」
「だろうな。お前の目が、そう言ってる。」
バルドが煙を吐き出した。
雨に混じって白い煙が消える。
ルコールの瞳が静かに光った。
「バルド。
調べてくれ。――《世界救済団体》の動き、全部だ。」
「相変わらずだな。金は?」
「命で払う。」
その言葉に、バルドが鼻で笑う。
「命は割に合わねぇが、借りは覚えとく。
それに……面白くなりそうだ。」
ルコールは背を向け、夜の雨の中を歩き出した。
街灯に照らされるたび、青い光がわずかに脈を打つ。
遠くの空では、雲の切れ間から淡い光が覗いた。
――フォティが見上げた、あの青い残光と同じ色だった。
(第12話 了)
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