スズメバチ 後日談 その98
上部は煤で真っ黒になっているが、下部はまだ元の色が分かるぐらいだった。
そこに、十数匹の巨大スズメバチの死体が転がって居た。二日置いたのが良かったのだろう、成虫も幼虫も皆死んで居た。
男がいた部屋は、部屋と言っても洞窟の穴だが、ここは鑑識が調査中で立ち入り禁止だった。
熱はここまで来なかったのか、回収出来るファイルもありそうだったのに、俺の手に入らなくて残念だ。
二十分が経過した為、上に上がるように指示されて、上に上がって来た。
「目的の物は撮れたのか?」
「ああ、十分だよ。三部作の最後を飾る良い出来だよ」
「へぇ〜」
桜木の画像は人気があった。
日本刀で蜂を切り殺している桐崎が大人気で、『現在のサムライ』とか呼ばれている。
刀は模擬刀と誤魔化して、また、模擬刀で物を切ったりしたビデオを作って、誤魔化していた。
また、栃原先輩の箒に乗って飛び上がっていたので、栃原先輩の株が上がっていた。
「magic girl」の箒に乗った映像と大騒ぎになって居た。
映っていたのは、ヘッドホンを付けた瀬戸山さんで、これまた、可愛いと人気が出ていた。
相模川の山田先生から、魔法部の顧問の後藤先生に連絡が入っていた。
相模原商業の一部の生徒と魔法部に礼がしたいとの事だった。
今度は、2時間食べ放題、飲み放題の焼肉屋が選ばれた。
若い高校生にはこちらの方が有難い。
相模原商業の参加者は、後藤先生に栃原先輩、瀬戸山さん、蘇我さん、桐崎、靏見さんだ。
相模川高校の参加者は、山田先生と白本さん、現場に居た学生10人程だ。
相模川高校のPTAから、「なぜ? 生徒が守れなかったのか」と問題になっているそうだ。
先生方は「学校は科特隊でもウルトラ警備隊でもねぇ!」と、ここまで出かけているのを押さえて飲み込んでいるのだそうだ。
それも有ってか? 後藤せい先生がビールを勧めると、山田先生はジョッキを煽り続けた。
一時間もした頃には、相当出来上がってしまったのだ。
「君の所の桐崎君、彼には本当、世話になった。足を向けてねれないよ」
「先生、飲んで下さい。疲れたでしょう」
「生徒のね。生徒のね。命がかかってたんですよ」
生徒の引率中なのに、二人の酔っ払いが完成していた。
もちろん、生徒の方はアルコールが飲めないので、ジュースに焼肉が飲み放題食べ放題で有る。
俺もお礼の食事会に呼ばれていたので、1時間遅れで参加する為、店に急いでいた。
途中、桜木を見掛けたので、声を掛けて一緒に店に入った。
店に入ると、大騒ぎして盛り上がっている連中が居たのですぐにわかった。二人で後藤先生に挨拶に向かうと、山田先生が絡んで来た。
「藤波ぃ〜! お前はうちの学生を囮に使っただろう! もう少しで死ぬところだったんだぞ!」
「カメラ! お前は誰も助けずに撮影を続けやがって!」
「お前らに喰わす肉などあるか! 帰えれ!」
俺は黙って踵を返して出て行こうとしたら、
「こらっ! 黙って行くな! 何か言うことがあるだろう?」
(どっちなんだ? だから、酔っ払いの相手は嫌いなんだ)
俺は再び回れ右をして、静かに話した。
「お言葉ですが、先生。私は貴方の生徒達と同じ以上に何もして居ませんが。貴方の教え子が、箒で抵抗して居た時、私はただ見て居ただけです」
「それに、もう既に二人の生徒が連れていかれて、さらに二人連れていかれようとして居ました。学校が、窓に鉄格子をするとか対策を取らなかった結果ですね」
「既に、貴方の学校は、スズメバチにエサ場認定されて居ますよね。無抵抗で良質なタンパク質が大量にある場所だったのです。巣を叩いておかないと、毎日学生をさらいに来てましたよ」
「私は何もして居ませんが、貴方達教師が何かした方が良かったのじゃないですか?」
「なっ? なっ? お前は!」
「あ、……!」
「なんだ?」
「馬鹿に馬鹿って言ってしまった!」
「何を!」
「理解して居たはずなのに」
「失敗した……」
「後藤先生、今日は不快なので帰りますね」
「山田先生、今後二度と私に関わらないで下さい。貴校と貴校の生徒がどうなろうと、私には関係ありませんから」
再度、踵を返して帰ろうとすると、
「藤波、俺も帰るわ。俺も何もせず、カメラ回して居ただけだけどね。山田先生の言うことが正しいけど、不快だわ」
「お前は一匹倒してたじゃん」
「あれは、瀬戸山さんが落としたやつを殺しただけだし」
「お前らな! 謝らんのか!」
山田先生が後ろで喚いている。
「トドメはお前だろ」
「だけどなぁ」
「人の話を聞けよ!」
「帰るぞ」
「ああ」
「お前らなぁ、謝罪は無いのか?」
「待って、私も帰る」
「私も帰ろうか」
瀬戸山さんと栃原先輩が席を立った。
「俺は最後まで喰ってくよ」
桐崎が手を振っている。
俺は、右手を上げて、返事をした。
店を出ると、瀬戸山さんが横に並んで来た。
「君は普通に人と話せないの?」
「苦手だけど、話そうとすると話せるよ」
「努力がいるの?」
「いや、必要ないよ」
「うそ」
「他人に合わすのが、めんどうくさいだけだよ」
「誰と話すのも?」
「うーん、そうでもないよ」
「ほんと?」
「ほんと」
「私は?」
「……、特に感じないよ」
「ふーん」
(嘘つき、いま考えたじゃないの)
二人の会話が怖くなった、桜木が声をかけて来た。
(いつも、いつも、地雷踏みやがって地雷探知犬っか!)
「なあ、おい、藤波。今度、浅間山大洞窟の合宿について行くんだけど」
「俺は行かない」
「そうか。じゃなくてだな。俺にも桐崎みたいに切れる刀が、どうにかならんか?」
「お前は魔法の道具も使えないじゃん。無理だ。ヤスをあげたろ!」
「あんなのじゃなくて、ズバッ! と切れる何かが欲しいんだ」
「気付いていないから言うけど、あのヤス、栃原先輩が使うと、蜂の頭は吹っ飛んでたよ」
「え?」
桜木は栃原先輩を振り向いた。
ニッコリと微笑む先輩と目が合う。
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