ドクター勇人 その76
(装備が、装備がマッコイの時代なんだよね。ああ、残念だ)
「ふん、これはこれは、見事に焼けているな。ワープコアの中にでも飛び込んだかな?」
俺は胸を張り、顎を突き出して、ぞんざいに質問する。
医療用トリコーダを取り出して診察し、
「やけどなんて物じゃ無いな、III度どころか、炭化して焼失しておる。ふふん」
馬鹿にしたように笑う事も忘れない。
「藤波! こんな時に何をふざけてるの!」
蘇我さんが怒っている。
俺は、罵倒する声を無視して、ハイポスプレーに再生魔法が掛かった薬液をセットする。
先ずは右上肢、三角筋辺りに押しつけて注射する。
「プシュ」小さな音がする。
液が体内に入ってるはずだが針もなく痛みも無い。
どう再生するのかと見ていると、光の粒子が再生するだろう腕の形に光り出し、徐々に消えたら生身の腕だけが残っていた。
しかし、衣類は再生しないようだ。
「ふふん、ふん、ふん」鼻歌を歌いながら、左手、右足と再生し、
「顔はどうするのかな? 今なら少し男前に治療できるのだがな」
と『ドクター』が言いそうな嫌味な事を付け加えておく。
「……鼻を……3mm高くして上げて……」栃原副部長は泣きながらジョークに付き合ってくれている。
胸の胸骨部分に再生魔法を一本、左頸部に回復魔法を一本撃って終わった。
「7日間は安静にしておくように。来週からはリハビリを始めても構わんよ」
「あと、用事が終わったら、私のスイッチを切っておいて……。」
「栃原! ここに居るのか? 開けろ! どういう事だ? 開けろ!」
金田部長の声だ。
(……最後の一言じゃ無いか? あとひと言なんだよ。なぜ邪魔をする。誰だよ)
どうやら、桐崎が保健室に向かって走り出したので、みんなで、後をついて来たらしい。
「今取り込んでるから後にしてもらえるかな?」
「今、良いところだったのだよ」
「雰囲気ぶち壊しじゃないか!」
俺は扉越しに、怒り気味に抗議した。
「何を取り込んで居るんだ! 開けろ!」
(お前にゃ分からんだろうよ。一生の内で『ドクター』を演じられる機会なんて、そうそう無いのだよ。それをお前は台無しにしたんだ!)
さぞ、俺の顔に、イラついた表情が出ていた事だろう。
「瀬戸山! 彼氏を借りるぞ!」
「ダメ、貸さない!」
栃原副部長は、俺を扉近くの壁に押し付けた。
これは、噂に聞いた「壁ドン!」という奴じゃないか? でも、俺がされてどうするんだ?
瀬戸山さんが怒ってるんじゃないかな? 「貸さない」って言ってるよ。
俺の左側に保健室の扉が有る。栃原副部長にしたら右側だ。
栃原副部長が、俺の首に左手を回し、頭を下げさせた。
右手で、扉を開けろ! と蘇我さん達に指示を出して居る。
蘇我さんと秋山さんが扉のロックを外し、少し開いたら、顔を上に向けて唇を重ねて来た。
柔らかい、優しいぷりっとした感触だ。
右手で、俺の左手を取って、自分の右胸に誘導する。
服の上からでもわかる、柔らかい、大きなプリンを触って居る様だ。なんとも触り心地のいい、気持ちのいい感触だ。
バンッ!
金田部長が、ロックが外れた扉を思い切り開けていた。
扉の向こう、廊下には金田部長、倉田、桐崎達に他女子部員数名が立っていた。
「「「えええぇぇー!」」」
「「「キャアァァーー!」」」
廊下にはどよめきと悲鳴が上がって居る。
「ユウトー!」
保健室の奥で、これは瀬戸山さんも怒って居るなぁ。彼女の声が聞こえる。
俺の唇から、自分の唇を離して、ゆっくり右を向いて、
「あーら、今、取り込んでるのよ。後にしてくれない」
「彼? 今の私の彼氏、用事があるなら、彼を倒してからにしてね」
そう言って、また、唇を重ねて来た。
(何を言ってるのだこの人は。俺を倒せ! だって? いやいや、金田部長には無理でしょう。それにしてもおっぱいが気持ち良い。セイレーンに呼ばれた船乗りの気持ちがよくわかる。もう逃れられない)
「「「えええぇぇー!」」」
驚くべき展開に、廊下のギャラリーは言葉を発していない。
「無理だから、その人は俺に勝てないから」
「途中で邪魔されてムカついてるし」
俺の抗議する声が届いただろうか?
「え?」
「何にを」
「なんで?」
「何を言うんだ貴様! 一年のくせに!」
「無理でしょ。そこ閉めて、帰って下さいよ」
「せめて、3日後か、一週間後か、体調を万全にしてから言って下さい」
「今言ってやる! 来い! 俺と勝負だ!」
(いや、連戦なんて出来ないでしょ。俺、おっぱい触っていたいし)
「俺は嫌だし、ずっとこうしていたいし、貴方と勝負したく無いんですよ」
栃原副部長は顔を再び寄せ、
「代金は払ったわよ。殺して来て」
と囁いて、再度キスをして来る。
優しく俺の向きを変えて、廊下に押し出した。
「ええええぇぇぇぇぇぇーー」
(夢の時間が終わってしまった。なんだ? この虚無感は)
パシッ!
後ろで扉の閉まる音がする。
(俺の返事も聞かないで、仕事を依頼しやがって。次からは値上げしてやる)
俺たちは先程の魔法道の会場に戻って来た。
俺は、貸し出し用のバトルスタッフのうちで、一番太くて長い杖を借りた。
倉田が、開始の合図を出すタイミングを待っている。
金田部長が物理障壁の呪文を唱えている。魔法発動待ちだ。
(良いけどさ、別に)
金田部長の呪文詠唱が終わると、司会の倉田が開始の合図をする。
「勇人、頑張れ!」
「藤波、ガンバレー!」
瀬戸山さんと蘇我さんがいつの間にか応援に来ていた。
(あれ? 桜木は? 大丈夫なの? まあ、いいか)
金田部長はニヤニヤ笑っている。
バトルスタッフで、金田部長の方に小突いて見ると、確かに何かに当たっていて、それ以上は突けないのだ。
金田部長のバトルスタッフは、先が赤く光って、火球を撃ってくる。
俺は、左に左にと火球を避けながら、適当に物理障壁を小突いていく。
金田部長に魔法を使わすためだ。さっき桜木に使って、今度は俺に使っている。インチキをしていない限り、そろそろ魔力が切れるはずだ。
その時、俺の頭上の空間が黒く闇が開いた。
「ウオォ!」思わず声が出てしまった。
(こんな大魔法を使う実力が有ったのか? 第一、魔力はどうやって捻出したんだ?)
「だあぁあー!」
金田部長も驚いた様で、数歩下がり、腰を抜かして驚いている。
え?
「ユウトォー! 来てやったよー」
全長30cmぐらいの女の子が、陽炎の様な羽をパタパタさせて、闇のトンネルを抜けて来た。妖精の「フローラ」だ。
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