動画流出 その20
蘇我さんが張った結界は、死者や妖魔から姿を見えなくする結界だ。
大きな声で喋ったり動いたりすると解けてしまう。
俺は、適当に花火を上げながら、ラッパを吹く。
蘇我さんが怖がらないよう話し掛ける事も忘れない。
危なくなると、ドラゴン花火を地面に置く。そうするとゾンビが団体で固まる。
「打ち上げ5連発」とか、色取り取りの火の玉が吹き出す花火は、ゾンビが火の玉を追いかけて、そちらを見てしまう。
俺は、ついつい面白くなって、「炭坑節」と「大東京音頭」を歌ってしまう。振り付けは、これであって居るかどうかは知らないけどさ。
真里亞は恐怖で固まっていた。
自分の周りをゾンビがグルグル徘徊しているのだ。
今結界が破られると、腹わたまで食いちぎられる。
恐怖で叫びそうになる。
その時、「蘇我さん、怖く無い? 頑張って!」藤波君の声が聞こえる。
「ぷわぁ〜。」下手なラッパの音が聞こえる。
(あのラッパだけは笑っちゃうわ)
そう思い、つい顔に笑顔がこぼれてしまう。
「翼竜の翼達」が追い付いた頃には、駐車場でゾンビの大盆踊り大会の真っ最中だった。
いま出て行くと、数十体、いや百体くらいのゾンビの注目を集めてしまう。後ろから、どんどんゾンビがやって来るので、注意しながら、離れるしかなかった。
「どうする?」
「どうにもできんよ」
「東京音頭歌ってるし」
「あんなに集めて、どうやって倒すんだ」
「知らん。それにそんな方法はない。あればみんなやっているよ」
「ひょっとしたら、盆踊りか? 施餓鬼供養で、向こうに送るのかもしれない」
「馬鹿な・・・」
遠巻きに眺めて居ると、次は「ドンパン節」になった。
俺は、踊って歌いながら指示を出す。
「そろそろだよ〜」
「準備しておいてね」と。
花火も切れたので、ついに決行だ。
「オブライエン、いまだ!」
真里亞は詠唱を始める。先程の魔法とは少し違う。
前半に、マナに関しての魔法が追加されてるし、呪文も範囲魔法に変わって居る。
地面に敷いたシートには、二種類の魔法陣が書いてあった。
普通、魔法使いは、体内のマナしか使えない。
が、大きな魔法を使うときは、大気中や樹木、大地のマナを使う。
しかし、それには事前の準備が必要で、魔法陣を書かなくては行けない。
その魔法陣を準備して、持って来たのだ。
(全く、魔法が使えない人は常識がないわね。魔法陣を描いて持ち運ぶなんて)と真里亞は思った。
「大地のマナを使う準備→魔法の達成をあげる準備→索敵→アンデッド検出→頭部の位置検出→トウモロコシの粒を創作→圧力に耐えれる様防御壁で守る→200℃まで加熱→アンデッドの頭に転送」
エネルギーが足から下腹に伝わり、右手から杖に抜けて行くのが解る。
無数のゾンビの位置が解り、トウモロコシの粒が飛んで行くイメージが湧いて来る。
「コーーーン」杖の石突きで地面を叩く。
杖の擬宝珠風の先端から、同心円状に魔法の力が広がって行く。
術者の頭が吹き飛ぶかと思うぐらいの力が放出された。
真里亞の近くから、円を描くようにゾンビが倒れて行く。
相当遠くまで達したのに、まだ効果がある。
飛ばすのがトウモロコシの粒なので、エネルギーを大して必要としないからだ。
「オブライエンってだれ?」
真里亞の術後の第一声だった。
俺は、山梨県警に連絡し、朝になれば、回収業者に連絡して貰うように手配した。
「何これ?」蘇我さんの声は震えていた。
「ゾンビの死骸? 初めから死んでるけど」
「いえ、どうしてこうなったの?」真里亞は状況が理解できなかった。
「翼竜の翼達」はおののいて居た。
ゾンビの盆踊りを見させられて居たら、一瞬にして倒したのだ。
そこには、数百体のゾンビの死骸の中に、釣り役の男子高校生、魔法を使った女子高生が立って居た。
「俺たちは誰を守ろうとして居たんだろうな」
「どんな魔法なんだ? どれだけ魔力を持って居るんだ? 女子高生だぞ」
「おい、車、出せないよ」
乗って来た車の周りは、元ゾンビの死骸で埋まって居た。
8時ごろ、遺体回収業者が来たが、惨状を見て、慌てて応援を呼んでいた。
遺体は、約400体あった。
業者の作業員が遺体収納袋に入れて、トラックに積んで行く。
作業に一体1分くらい掛かるとしても、7時間掛かる。4トン車3台で何回か往復した。作業は、応援のおかげで昼過ぎには終わった。
よくも沢山死んでいたものだ。
新しい遺体は、大学生やハンターやらユーチューバーが多い。狩りや撮影に来て襲われるのだ。
また、もうミイラかと言う古い遺体もあった。ずっと昔に襲われて、彷徨っていたのだろう。
体に臭いが付いて取れないので、真里亞が魔法で綺麗にしてくれた。
業者さんが河口湖駅まで送ってくれたので、ここで、朝食兼昼食を二人で食べた。
観光地価格で、少し高い。
俺はトンカツ定食を頼んだ。
真里亞は、季節の山菜天ぷら定食。
季節の山菜にブッラックタイガーは居ないだろう。などと考えて居たら、
「どうして、あの魔法を知って居たの?」と聞いて来た。
「桐崎が選んでくれた本に載って居たから」
「確かに、初級から中級魔法ばかりね」
「でも、普通はあんな使い方しないわよ」
「俺、普通も知らないから」
二人で、中央線の中で、少しうつらうつらと寝てしまった。
この日は、家に帰って爆睡した。
翌、日曜日の朝一番に、俺は蘇我さんと自分の分のカメラとメモリーカードをギルドに持って行った。
御茶ノ水の東京支部に行くのだが、例の扉が有る。屈辱的だが、通路の奥のインターホンを鳴らして入れて貰う。
「依頼、完遂しました」
「結構、倒しましたよ。また、依頼があるとよろしくお願いしますね」
「あんた達、一体何をしたの?」受付の女性が驚いて居る。
「ええ? ゾンビ退治を少々」
「少々じゃ無いでしょう」
「彼女ってどんな魔法使いなの? ただの女子高生じゃ無いでしょ」
(ただの女子高生が魔法使うかよ。何言ってんだよ)
「普通じゃ無いけど、クラスメートですよ」
「で、何を言ってるんですか?」
「あの魔法よ。普通じゃ無いでしょ」
どうやら画像がネットで流れて居るらしい。
翼竜の翼達が付けているカメラに撮られていたのだ。
ちょっと帰って確認してみようっと。
先ずは塾だ。夏休みを制す者は、受験を制するのだ。だから、俺は夏休みになる前からラストスパートだ。
第一、受験対策クラスに入れなかったのだ。魔法などとうつつを抜かして居る場合じゃ無い。
月曜日、教室で他県の高校の参考書を読んで居ると、女子から「藤波、蘇我さんと付き合ってるの?」と聞かれた。
これで、今日は朝から3回目だ。まだ、朝のホームルームも始まって居ないのに。
「いいや。蘇我さんのお祖父さんに世話になっただけだよ。蘇我さんとは付き合って居ないよ」とさっきと同じ返事を返す。
どんな学校にも、スクールカーストと言う物がある。
蘇我さんはクラスの人気者で成績も優秀、美人で性格も明るく優しい子だ。
一方俺は、受験にしか興味のないコミュ障のガリ勉だ。
蘇我さんは、優しい性格だから、隣の席の俺にも話しかけてくれて居るだけだ。
クラスメイトは、カースト下位の俺が、蘇我さんと話してるのが気に入らないのだろう。
桐崎が前の席に座り、振り向いて聞いて来た。
「藤波さぁ。蘇我と付き合ってるの?」
「はあ? なんで朝からそんなこと聞くの? お前で四人目だよ」
「このビデオ、お前らだろ?」
桐崎がネットの動画を見せてくれた。
「翼竜の翼達」目線で撮られている。って、撮影したのは彼らしか居ないだろう。ギルド内SNSでアップされたものが、コピーされ、編集され、流出したらしい。
オカルト板に流れて居た。
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