ゾンビの盆踊り その19
その間、数体のゾンビに出会ったが、隠れてやり過ごす。
「あの、魔法を使って欲しいんだけど、他の人には言わないで欲しいんだ」「他の人にバレると、直ぐに広がる。そうすると、敵に使われると防ぎようが無い。今、俺には防御策が思い付かないんだ」
「え⁈ 別に構わないけど、言いふらすつもりもないし」
「で、敵って誰よ」
(不思議なことを言う)と真里亞は思って居た。
(どうして、魔法使いが魔法を使って自慢するのかしら)と。
「約束だよ」と言って、ゾンビを探し出した。
近くを一体ゾンビが歩いて居る。
「実際に効果があるかどうか、試してみて」と呪文と魔法陣を描いた紙を見せる。紙はラミネートして有り、汚れない様にしてある。
この辺が勇人の性格らしいところだ。
「索敵→アンデッド検出→頭部の位置検出→トウモロコシの粒を創作→圧力に耐えれる様防御壁で守る→200℃まで加熱→アンデッドの頭に転送」を一つの魔法陣と呪文にしてある。
一つ一つは、誰もが知っている呪文だ。出来るかどうかは別にして、難しい魔法では無い。
因みに、トウモロコシは皮の厚いポップコーン用と書いてある。
真里亞は、ポップコーン用と普通の食用と種類が違う事を、この時初めて知った。
真里亞がゾンビを狙って呪文を唱えると、ゾンビの位置と距離、方角が頭の中に解り、トウモロコシの粒が飛んで行くイメージが湧いた。
ドタッと目標のゾンビが膝をついて倒れた。
驚いた真里亞の横で、勇人がガッツポーズを小さく取っている。
「どうして? なぜ、ゾンビが死んだの?」と真里亞。
『ゾンビが死んだ』も無いものである。
「あはは、ゾンビはね、真里亞のじいちゃん達が言ってたんだけど、人の脳に寄生するウィルスの妖魔なんだって。
人は高等生物だから脳も複雑なんだ。それを乗っ取ったウィルスも複雑にコントロールを行わないといけない。
そこで、乗っ取ってはどんどん分化して行くので、少しでも傷が付くと修復出来ずに死んで行くのさ」
「だから、ゾンビはね千枚通しでも、脳さえ突き刺せば死んで行くのさ。解った?」
「で、ポップコーン用のトウモロコシは皮が厚いんだけど、熱く熱せられたトウモロコシの粒は180℃になると、水蒸気爆発を起こして、中身が皮を破って出てくるのさ。
だから、トウモロコシの粒を、ゾンビの脳に触れて冷えるから、200℃まで加熱して、爆発しない様に周りから保護して、脳内に送り込む。
すると、防御壁が無くなって、圧が抜けるから、ポン! とポップコーンの出来上がりさ。
魔法創作物だから、放って置けば消えるしね」
よほど嬉しいらしく、勇人は一気に喋り続けた。
「こんなの、よく思いついたわね」
「本当は光子魚雷なんだ。カーンに向かって使うんだ。ライカー副長もよく使ってたんだよ」
(光子魚雷? カーン? ライカー副長? って誰? 漫画? 意味解んない)
説明が説明になっていないと真里亞は思ったが、
「ふ〜ん」と気の無い返事をする真里亞だった。
(勇人から、勉強以外の事を初めて聞いた気がするわ)
「でも、人に言ったらダメだよ。俺はまだ、防ぐ方法が思い付かないんだ。
相手に使われたなら、即死か脳挫傷だからね」
(これだと、魔法障壁で簡単に防げるけど・・・)魔法を勉強仕立てで、まだ知らないんだろうな。と思い、今は黙っておくことにした。
そして、ゾンビの死体? をGPS座標の出るカメラアプリで撮影しておく。
リュックからラッパとタンバリンを外し、花火とライターを確認し、蚊取り線香に火を付けて腰に吊るす。
準備が終わったら、
「さあ、じゃあ、ゾンビ狩りを始めるか。俺のそばを離れないで」とラッパとタンバリンを持った格好で言われても。
真里亞は、可笑しいというか、失笑に近い笑いしか出てこない。
勇人は、蚊取り線香から、器用に打ち上げ花火に火を付ける。
シュッー! パンッ!
シュッー! パンッ!
シュッー! パンッ!
プーぷプーーぷっす〜プー。
パンッ! パンッ! パンッ! チャチャチャ!
「あはは、やめてよ。あはは、その音聞くと、ゾンビじゃなくても笑い死にするわ〜」真里亞の何かが切れた。
夜中の樹海で、大声で笑ってしまった。
二人は、蛇行し、立ち止まり、ゆっくり駐車場を目指して進んで行く。
後ろからは、ゾロゾロとゾンビが付いてくる。
追い付かれるギリギリで、サクッと逃げる。
「こんな森の中で、初心者がいつまでも居れる訳がない。もう直ぐ『助けてくれ。』って泣き付いて来ますよ」
「林田君、いい加減にしないと、その内死者が出るぞ」
「黒田さん、言わせて頂きますけど、ここで教育した奴らは良いハンターに成長してるじゃないですか」
「『筋魂漢』なんて、ここでトレインして、逃げ回ってたんですよ」
「彼等は、それなりの実力があったよ」
「経験を積めば強くなる素地はあったよ」
「ここを動かないで居たら、向こうから逃げ込んで来ますよ。もうそろそろ限界でしょう」
翼竜の翼達の若いハンターとリーダーが座って話し込んでいる。
パンッ!
パンッ!
パンッ!
プーぷプーーぷっす〜プー
花火の破裂音と気の抜けたラッパの音が聞こえた。
ゾンビの居る樹海の中で大きな音を出すなど自殺行為だ。
「彼奴ら!」
「彼奴ら?」
「あいつら・・・」
「前に同行したパーティーが『法螺貝を吹いていた。』と言ってたしな」
「やっちまったか?」
「ここまで馬鹿だったか?」
「おいっ! 行くぞ!」
「おう!」
「おう!」
「よっこいしょ。」
ベテランのハンター達は、直ぐに立ち上がると、応援に行く準備を始めた。
流石に、走り出すと速かったが、音のした辺りには、ヘッドランプが照らす範囲ですらもうゾンビが集まり出して近づけない。
「待て! ここからは先に進めない」
「じゃあ、どうするんだ! 見殺しかよ」
「仕方がないだろう。花火を持って来ていた時点で注意すべきだったんだ」
翼竜の翼達がもめて居ると、
「パンッ!」
「ピィイイイイイィィーーーーーィ。」
違う場所で音がした。
「こっちだ」
「待てよ。行けないよ。一番ゾンビが濃い方向だ。まわり込もう」
ゾンビ達を大きく迂回することになった。
「プーー、プーー、プーー。」
「パンパン、チャチャチャ。」
「ババババババァーーーン」
俺がラッパを吹いて、タンバリンを叩く。時々、爆竹も鳴らす。
蘇我さんが花火を打ち上げる。面白くなって来たのか、何か遊び出して居る。
ドラゴン花火は、ゾンビ達が近付いて見つめると、ゾンビの動きが止まるのだ。もう眼球が白くなって居るので、強い光で目の前が真っ白になるのだ。
たぶん、目の前が真っ白になって、状況が解らなくなって動けないと思うのだが、死者が花火を見て突っ立てる姿は哀愁が漂う。
前方からも集まって来るので、俺がラッパとタンバリンで囮になって蘇我さんの道を開ける。
駐車場に着いたら、中央に陣取って、リュックから白いシートを取り出す。ハイキングに持って行くような白いシートだ。
急いで広げて、蘇我さんに中央にいて貰う。
そして、指示を書いたラミネートしてある紙を渡す。
先ずは結界だ。
「蘇我さん、結界張ってじっとして居て。30分から1時間ぐらいかかるからゆっくりしててね」
「詠唱の下読みはしておいて」
準備の指示だけして置き、俺は左回りで、蘇我さんの周りをグルグル回る。
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