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この世界ですべきこと

文字かなり多め

突然だった。

畑に水をやっている時に、狂暴化したポイムが村まで戻ってきた。

門番がうまくポイムを制止して村に入れないようにしていたところに気がついて、急いで現場に向かうと、決闘で見た時のポイムが目の前にいて、牙を剥いてこちらを威嚇している。


「やめろ!ポイム!」


そんな言葉など目の前の狂った猛獣に届くはずもない。

門番より前に出てポイムと対峙していたところに七人と二匹が血相を変えて帰ってきては状況を教えてくれた。

ロウたちが未探索エリアを七人と三匹で探索中に事件は起こった。

ポイムが鼻を近づけていた植物には花がついており、何度も何度もその匂いを嗅いでいたが、いきなりポイムが我を忘れたかのように暴れ出し、ロウたちに襲いかかった。

七人と二匹はポイムの豹変に驚いていたが幸い怪我人はなくポイムを落ち着かせるため捕らえようとしたが暴れ狂うポイムを黙らせることができずに逃してしまったということだ。

花の香りによる興奮作用、だがそんなことを今知ったところで鎮静化する方法が見当たらない。


「鎮静化させるにはためには別の花が必要なんだ!でもそんな花、未探索エリアでも見たことがないよ!」


いらない情報だ。

ポイムを暴れるだけ暴れさせて疲れさせるか、他に方法は何かあるか。


「おい、お前!今村を危険に晒しているんだぞ!これが終わったらどうなるかわかっているんだろうな!」


村人がうるさいな。

徐々にポイムとの距離を詰めていく。

これ以上入られたくない、なら自分から行くまで、とポイムが飛びかかってきた。

初撃の爪はかわしたが逃げ遅れた右腕がポイムの牙によって引きちぎられ、飲み込まれた。

なくなった腕が熱い、誰かの悲鳴が遠くに聞こえる。

一向に猛りがおさまる気配のないポイムの前に立ち塞がる。

被害は自分だけで十分。

体は寒く汗が噴き出る。

ゆっくりでダメなら、突進だ。

思い切り正面からポイムに向かって走り、首元に抱きついた。


「鎮まれ!ポイム!声を、聞け!」


片腕しかなく首を振り回すポイムに掴まっていられるはずがない。

ポイムの前に仰向けに振り落とされ、背中を打ち付けて呼吸が出来なくなる。

ポイムの前足が胸の上から踏みつけ、苦しさに声を出せずに喘いだ。

ポイムは左腕を食らいつき、引きちぎって食べる。

次に喉元に食いつき、振り回して、喉を掻っ切った。

地面を転がり、血を吐く。

もう朦朧としてなんだかわからないな。

声が出ない。

ポイム、だと思われる塊に近づいて、抱きついて、話しかけた。


「ほいむ、たいじおうふだ、ほいん。」


かたい、地面か、倒れているんだな。

死ぬときは、呆気ないものだ。

なんだ、目から熱いもの。

涙か。

ポイムのこと、助けられなかったな。

声はもう届かなそうだ。



地面に伏しジュンの匂いを嗅いだポイムが突如苦しみだした。

正気と異常が混濁するの目と低い唸り声を出したかと思えば吠え出す。

しばらく苦しんでのたうちまわり、目に生気が宿り目の前の主人の凄惨な姿がポイムの視界に飛び込んできた。

怯えた猫のように姿勢を低くして耳をたたみ、髭を顔に密着させ目を大きく見開く。

ポイムがえずきだして腹からゴポゴポと大きな音を出し、やがて全てを吐き出した。

吐瀉物の中に二本の腕と喉の一部が混じっている。

ポイムは目を瞑り、怯えてはいるがその場から動こうとはしなかった。

一歩、ロウがジュンに近づくとそのまま歩みとなり、足が速く歩幅が大きくなっていく。


「じ、ん。」


か細く呟いたロウの足元にジュンが横たわっている。

ヒューヒューと空気の抜ける音がしてロウが我にかえった。

まだ息がある。

目に輝きを取り戻し、欠損した体の一部を吐瀉物の中から拾いあげ、消毒液をかけて粘液を洗い流し綺麗にした。

倒れているジュンの欠損部分に消毒と回復のポーションを振りかけながら消毒した部分を接着させ、組織が蘇るのを手に持って待つ。

アリサたちも遅れてやってきてロウと同じようにそれぞれの部位を繋ごうとする。


「帰ってきて。ジュン!!」


レイナがようやく、全員を代表するかのように叫び声を上げ、その声を皮切りにそれぞれが思いに思いにジュンに声をかける。

いつしか心の支えとなっていた存在をここで失いたくない。

いつも冷静で周囲への気遣いも欠かすことのないアリサですら、涙を流し一心不乱にただジュンだけを見て呼びかけている。

ただその光景を村人たちは冷徹な視線で、まるで茶番劇でも観るかのように斜に構えて様子を窺っている。

どうせ治る、こんな危険な目に遭うなら村から去ってほしい、早く出ていけ!、村人たちからの声に、ジュンに声をかけていたロウたちの言葉が止む。

ロウは涙を拭いて、ルインに腕を任せると立ち上がって村人たちの前に出た。


「もしジュンが助からなかったら、この村にいる意味がありませんから、出て行きます。もしこれで、ジュンが戻ってきてくれたなら、僕らはこの村を捨てます。あなた方の言葉どおりに。だから、これ以上僕らを侮辱するな!」


ロウの煮えたぎる怒りが村人たちを怯ませ、黙らせて、村の中へと引きあげさせた。

アリサら全員ロウの方を向き、自分の気持ちを代弁したロウに感謝をする。

ロウがジュンのそばに戻ってくると、胸が上下しているジュンを見て、喉は回復したのではないかとロウが思い浮かべたときだ。


「つよぐなったな、ろー。」


ジュンの口から声が漏れ、全員それを聞いた。

予断を許さない状況であるのに変わりはない、だがこの一言がジュンへの声かけ再開させ、ポーションを経口投与させるきっかけとなる。

喉はすでに傷は塞がっており血はもう外に流れ出てはいない。


「今は、喋らないでよ、ジュン。」


血が足りず、遠のきそうな意識の中でジュンは村人に向けて放ったロウの言葉を確かに聞き、ロウを労った。

ロウは改めて、ジュンが自分かけてくれている愛情を感じる。

本人がどう思っていようと関係ない、自分がそう思いたいからそうする。

一方ジュンからすれば、ただ畑の一角に自由スペースを与えてタダで手に入れた鉱物で装備を作らせただけ、あとはそもそもロウの持っていたポテンシャルによって成長を遂げて頼り甲斐のある青年に勝手に成長した、だけ。

それはロウだけではない、他の女子たちにおいても同じことだ。

ただ、しただけ。

しかしそれがジュンにとってどれほど貴重で大事なものとなっていたのか思い知らされる。


「ありがとう、みんな。」


光しか見えなかった目をゆっくりとジュンは閉じた。



意識が覚醒する。

目を瞑ったまま畑の子たちを思う。

いずれ離れていくもの、ここはただの通過点で旅立つものとばかり思っていたがな。

親心か、それに似たものを感じ、次に慕情か。

まずは謝らなければならないな。


「やってくれたな、ジュン。」


チェインの声だ。

ポイムに八つ裂きにされてからどれくらい経ったのだろうな。

また三日とかか?


「七日も眠りこけやがって、お前の作る薬草がなきゃ俺の商売もあがったりだ。それに、出て行くなんて勝手に約束しやがって。早くお前を追い出せと連中にせっつかれて。この家と畑を作ったよしみだ、目を覚ますまでの間は俺と連れが面倒を見ると言うことで連中には納得してもらっている。それからジュン、畑の管理だが別の者に頼むことにした。お前よりも優秀で危険のない、村とも仲良くやっていけるやつだ。もうお前は用済みだ。もう動けるだろう。とっとと俺の前から消えてくれ。」


そんなに寝ていたのか。

矢継ぎ早に色々言ってきているが要するに村八分でクビか。

今はチェインの店の床に寝かされている。

扱いからしても、外に置いておくことはできないから室内で人目に晒されないところということで、ここなのだろう。

仲間はいないな、みな宿か。


「ああ、わかった。村とはそう言う約束だ。出て行く。ただチェイン、ひとこと言わせてくれ。決闘の後治療をしてくれてありがとう。まだ言っていなかったからな。」

「はっ、こんな結末なら斬り伏せておけばよかったぜ。ああ、あとマジックボックスは置いてけ。迷惑料をあれで相殺してやる。」

「中身は持って行くぞ。」

「ああ、好きにしろ。どうせ種だけだろ。貴重なものなど何もない。」


あの中には貴重と言う話の鉱物も入っているはずだ。

収納すると自動で種類ごとに振り分けしてくれるのは便利だったがな、また手に入れればいい。

中身はロウのマジックボックスに入れられればいいが。


「外は明るいな。すぐにでも出て行くが、身支度がある。準備が終わるまで待て。村の奴らにはそう説明してきてくれ。」

「目を覚ましたらすぐにということだが、それくらいなら連中も待てるだろう。」


腕も喉も繋がっている、が、痕は残っているようだ。

ノエルに切られたところは本当に綺麗に切られた、ということがこれでわかるな。

ポイムはどうしているだろう。

だが今ここで聞くのは気が引ける。

そもそもポイムやキナコ、鹿たちは歓迎されていなかった。

それを率いている自分の評価も最初から散々なものだったのだろう。

チェインの管理下であったから許されたものが管理の外で起きてしまった今回の事件。

うまくチェインは立ち回ったのだろうな。

そうなると、あいつらは。

この七日間どれだけ蔑まれたのか。

種など、貴重な鉱石などどうでもいい。

まずは七人のことだ。

まずは何においても宿だ。


「どこに向かうんだ?ボックスは裏手だろう。」

「助けてくれた仲間のところに行ってからだ。」

「奴らならもうこの村にはいないぞ。お前を助けたその日のうちに出て行ってもらった。だからもうここにはいない。」

「なんだと?!」

「俺の前で初めて感情的になったな。だが事実だ。ポイム、と言ったか。あいつはずっと離れようとしないので多少手荒なことはさせてもらったぞ。あいつだけは処分しろと村から声が上がってな、そうすることにした。」

「何を!」

「この家と畑を管理していたよしみで殺してはいない。ある程度痛めつけたら森に逃げていったぞ。どうなっているかその目で確かめてくるといい。」


寝ている場合ではない!

この七日間ポイムは、キナコは、鹿やガーディアンは?!

畑から鍬を担いで裸足のまま森に向かって走る。

門番はもう自分が見えていないかのように突っ立ったままだ。

腕が、振ると鈍く痛い。


「ポイム!ポイム!」


森に入り、呼びかけても木々の間を吹き抜ける風と共に消えるだけ。

木々が生い茂り薄ら暗いところまでやってくると、見慣れない魔獣が目の前に立ちはだかった。

こちらを捕食するため、多少警戒しながらもジリジリと距離を詰めてくる。

こんなところで立ち止まっている場合ではないのに、こんなところで食われるわけにはいかない。

鍬を構えて魔獣に向け振りかざし、そして振り下ろす。

魔獣は軽々と後ろに飛びのいて距離をとった。

地中深くに刺さった鍬だが、簡単に地面を掘り返して抜けた。


「だあああああああ!」


魔獣向けて鍬を上にあげ、奇声をあげながら近づいた。

魔獣は地面を突き刺した鍬の異常な能力を恐れたのか、踵を返して逃げて行く。


「はあ、はあ、はあ、ポイム。ポイム!」


ざざっ、と後ろから音がする。

慌てて振り返ると、鹿たちがそこにいた。

特に脅威と見做されなかったが、テイムされている存在ではないと認識され村の外へと追い出された、といったところか?


「お前ら。」


仲間が戻ってきた。

この感覚が次への期待と早く見つけなければという焦りを呼ぶ。


「おい、お前ら、ポイムを知らないか?!!」


雄鹿が向きを変え、振り向く。

ついてこい、だな。


「案内してくれ!」


雄鹿の後ろを走って追いかけた。

鹿たちの足は速く、先に行っては止まり、行っては止まりを繰り返す。

より一層深くなる緑に足を取られながらも草をかき分けて進んでいくと、森が開けて光が差し込む広場の中心に一頭の虎が伏せている。

その傍らには見慣れた透明なスライムがいた。

鹿たちが虎とスライムのいる方にかけて行き、虎の側で立ち止まった。

虎がこちらを見る。

徐に立ち上がると、こっちに顔を向けて牙を剥き出しにし、あからさまに威嚇の行動を取った。

決闘の時に初めて会った時のように、狂った時のように。


「ポイム!」


鹿たちとキナコがポイムから離れていく。

ガーディアンがポイムの上に乗っている?

チェインが一体何をしたのか、記憶でも消したか?

ポイムの体は一見なんの傷も無いように・・・。

ポイムのこちらから見えていなかった半身が露わになる。

毛がむしれ、死に至らしめるために攻撃された痕。

それを見て息を飲んだ。

なぜポイムが無事でいられたのか、いや、生きていてくれてよかった。

ではなぜ威嚇を、目が、見えないのか?!

無意識のうちに鍬を放ってポイムに向かって駆け出していた。

目が見えない分、大きく口を開けて威嚇を強くする。

ガーディアンがポイムから離れない理由、目が見えないからポイムの目になっているのか。

嗅覚はあるだろうが、村の、しかもチェインの家の匂いがついているのだろう、追っ手と認識して威嚇している様子だ。

聞く耳も持たない。

こちらが触れられる距離にまで近づくと、思い切り脇腹に噛み付いてきた。


「ぐ、ポイム。」


舌で血を感じた時、ポイムが慌てて口を離し、怯えた姿に一変した。

血の味を覚えているのか。


「ポイム!」


血が滴っていようと関係ない。

この時ほど、腕や喉を引きちぎられ食われたことに感謝したことはない。

今は目の前で怯えている我が子のような存在に飛びついて抱きしめた。


「ポイム、ごめんな、ポイム。」


爛れた皮膚とチクチクする短い毛を手のひらで感じながら、チェインたちへの憎悪が込み上げてくる。

ここまでする必要があるのか、考えれば考えるほど、ポイムに顔を舐められるほどに復讐の文字が頭に浮かぶ。


「村に戻る。お前たち、グリフを呼んで来られるか。」


鹿たちはこちらが言い終わらないうちに、グリュプスの住む山の方へと既に動き出していた。

キナコがポイムの上に陣取る。

ガーディアンが操るポイムの足に合わせてゆっくり歩き、森を抜けて村に戻ってきた。

ポイムたちを門の前の横に待たせると、グランが降り立ってきた。

村に入れることはできないため、グランにポイムたちを任せて門番の横を通り過ぎる。

痛めつけた魔獣が戻ってきている状況でも門番は何もしなかった。

もう門番の仕事を放棄しているとすら思える。

そのままチェインの店に足を運ぶと、まだ、チェインたちはそこにいた。


「戻ってきたか。その様子だと、まだ生きていたんだな。」

「・・・なあチェイン、出会ったときに使った目薬は持ってないか?」

「持っていないな。まあ持っていたとしてもお前には渡さないがな。それに、失明しているのだろう?だいぶ時間が経っているから、もう目薬を使ったとしても視力が回復する見込みは無いだろうな。体の異常を全て取り払い、欠損した部位も何もかも全て回復してしまうエリクサーがあれば、話は別だろうがな。」

「そうか。」


ノエルが剣をこちらに向けた。


「君は今僕らに生かされているんだ。次、反抗的な態度を。」

「取ったらどうなるんだ?」


ノエルが驚いて後ろに飛び、まっすぐ剣を構えた。

だがこちらは、その構えた剣を満足に振ることができないくらいの間合いの中にすでに体をおいている。


「な、なにが、おこ。」

「の、ノエルが、間合いの中に入るのを許しただと?!」


ノエルとは今、もう少しで鼻と鼻が触れ合うまでの距離にいる。

反応が遅い。

アリサやレイナ、ルインであれば簡単に四肢を飛ばしているところだし、そもそも後ろに引くようなことはしない。

最初に出会った頃は果てしなく強く手の届かない存在だと思っていたが、こうも簡単に追いつくとはな。

チェインたちがざわついている。

槍の男と杖の女、女子、チェインがこちらに身構えた。


「当たり前だろう。剣技も体の反応も何もかも全て、魔法によって強化されてようやくその程度のお前たちに、魔法の力を借りずに畑仕事で体を鍛えてきたこちらとでは、そもそもの素の能力が違うんだよ。簡単に腕くらい飛ばせる、それくらいのことを思っているんだろうが、残念だったな、その慢心が招いた結果がこれだ。それにだ。生かされている、だと?果たしてそれはどっちかね。」


冒険に出る、誰かと争う時は必ずこの世界の連中は魔法を使って身体強化を施す。

だが今目の前にいるやつらは魔法を使っていない。

完全になめられているわけだが今は好都合だった。

村の結界を破いてグリフが降り立つ。

窓からは、多数のグリュプスが村の上空を舞っているのが見える。


「お前らはあのグリュプスに勝てるのか?ジュンという生命体がここで死ねば、あのグリュプスはそれを認識してここで暴れてもらうことになっている。やつに傷一つ負わせられないお前らに一体何ができるんだろうな。果たして生かされているのは、どっちだろうな。グリュプス単騎でこの村の壊滅など容易いがそうしないのは、チェイン、お前から薬草について聞き出さなければならないからだ。エリクサーの情報と目薬の情報、ポーションのレシピなど、今持っている情報と薬草すべてを差し出せ。でなければここを破壊する。すべてはお前の返答次第だ、チェイン。」


焦りもなく、ただこちらを見据えて徐々に歪な笑みに変わっていくチェイン。

だが、大したことではない。

ノエルよりもチェインが弱い、と言うならば、もう力の強弱は確定している。


「ふ、ふふふ、覚えているか。ジュン、こういう時は決闘だ。村の外に出ろ。」


どちらかが戦闘不能となるまで、だがそれではチェインに何も聞き出せなくなる。


「それではダメだ。まず情報だ、チェイン。」

「そうだな。冥土の土産だな。お前が読むことはない。それと、エリクサー、それは王国の王などが所有していると言われる伝説の酒だ。醸造方法など詳しい情報は不明だが確かにこの世に存在する。」


エリクサーの話をすると同時に、チェインが腕を伸ばした先の紙に数十種類のレシピが一気に記されていく。

魔法とは、便利なモノだ。


「俺らを戦闘不能にできたら、あれでも持っていけ。」

「俺らだと?」

「ああ、いくら身体強化があったとしても俺だけでは不利だろうからな。ノエル、こい。」


一対一ではない決闘を余儀なくさせる。

最初からそのつもりで決闘と言ったのだろう。

チェインの前にノエルが歩み出てきた。

槍の男は、決闘に参加するつもりはないようだな。

ここでお前らが負ければ村の奴らはなんて思うんだろうな。

ポイムをあんな惨たらしい姿にしたのだから、お前らの未来など、摘んで構わない、そうだろう?

洞窟に行って以来置きっぱなしのツルハシを片手に村から出て、二人と正面向き合った。

村の外についてきたグリフは、まるで試合を監督するかのように俯瞰して見ている。


「じゃあ、ノエル、チェイン、始めてちょうだい!」


杖の女が決闘の開始を合図した。

ノエルとチェインが魔法で強化されていく。

こちらはツルハシを取るときに一緒に持ってきた持久草と朧草を食べる。


「はっ、ポーションにすれば薬草の効果も上がると言うのに、草食ってるのかよ。そんな半端じゃ、どこ行ってもこの世界に、居場所はねえだろうよ!」


敵対し、強者の影に隠れるとどうして人は自分も強くなった気になり気も態度もデカくなるのだろうな。


「うるせえよ。チェイン。」


耳元で囁いてやる。

勝ち気で相手を食い殺さんと睨みつけていたチェインの表情が曇り、焦り、恐怖に変わる。

面白い。

こんなにも人の顔は、瞬きするほどの時間で変化するのか。

ツルハシの頭部でチェインの顔を突くように叩いた。

数メートル飛んでいき、地面に転がる。

一発、たった一発でチェインは伸びてしまった。


「次は、お前だ、ノエル。」


剣をしっかりと構えたな。

ノエルから突っ込んできたが、やはり大したことはないな。

華やかな構えも、目を見張る剣技も、美しい所作も全て、三人の娘たちに劣る。

ノエルの動きはこの両の目で捉え追えている。


「分身、何をした。ジュン!」


分身など簡単なことだ。

単純に朧草を食べた効果だ。

自分の背後に残像が残る程度の分身、先頭に立つ人物にさえ気を配ればいいだけのことだが、相手にとっては目障りなことと言ったらないだろう。

精神的な負荷、心の隙を作るにはちょうどいい。


「名前、覚えていてくれたのか、嬉しいねえ。」


ノエルの間合いに飛び込み、ツルハシを振る。

剣がツルハシを受ける。

どちらも白魔金の素材で作られた武器。

剣のその身で受けてしまったツルハシの破壊の衝撃は、剣から腕に伝わり、体を痺れさせる。

剣でかたく受け止めてくれたおかげで、反動を使って次の攻撃を間髪いれずに振ることができた。

ツルハシの頭部で、ノエルのこめかみ目掛けて振り抜いた。

ごすっ、という嫌な音が響き、ノエルが横に飛んでいく。

チェインの倒れているあたりにノエルも転がって止まった。

しばらく二人を眺めて立ち上がらないことを確認した後、杖の女と女子が二人に駆け寄り、槍の男がこちらを睨みつけているのが見えた。

構うことはない、村に戻りチェインの店を目指す。

チェインの店の中に入ってレシピ集を手に取った。

書いてある内容はわからない。

だが、これをロウに見せれば。


「おい。」


チェインの店先に鍛冶師がいるのが見えた。

ズカズカと中に入ってくる。


「なんだ。」

「ここを出るのか?」

「ああ、それがどうした。」

「お前さんのために作った物を持っていくんだろうな?」

「どうしてそんなことを聞くんだ?」

「お前さんがここにきてから希少鉱物の仕事依頼が増えただろ。あれ全部お前さんの仲間のものだろう。俺もここに来てそんなに長いこと住んではいないが、鍛冶師としては扱える金属が希少であればあるほど仕事は面白くなるもんさ。なあ、お前さんはこれからどこに行くんだ?」

「だから、それを聞いて。」

「面白くないだろ。上客が居なくなるんだ。そしたらお前さんについて行きたくなるもんだ。なあ、教えろよ、どこに行くんだ。」

「仲間の故郷。」


レイナたちからは故郷としか聞いていなかったな。

この村を追い出され、今どこにいるんだ?


「そうか、仲間ならこの先の村にいるのではないか?ここを追いやられるとき、お前さんのことをしきりに気にしておったし、まだそんな遠くに行っておらんだろ。」


そうか。

どすん、という音が店外からした。

あの足は、グリフか。

あの体格からしたらずいぶん軽い音だな。


「俺の作品は俺が持っていってやる。早く合流しろ。」


鍛冶師と一緒に、レシピを持って店を出た。


『乗れ、仲間ものもとに急ごうではないか。』

「わかった。ポイムやキナコ、アルセスたちも頼みたい。」

『ポイムたちはグランが連れて行く。まさかここでそんなことになっていたとはな。アルセスたちは自身の足がある。我々についてくるなど造作もないだろう。早く乗るのだ。我も彼らがいなければつまらん。』

「おい、鍛冶師、行くぞ。早く乗れ。」

「そ、それに乗るのか?」

「ああ、徒歩より早いだろ。」


グリフの背中に乗り込む。

鍛冶師は自分の作品を腰に携えている鞄の中に収納していき、グリフの足元につかまった。

店の大事なものはすべて腰の鞄にしまっているのだろう。

グリフが村から飛び立つ。

グランが遅れて上昇してくるのが見え、グランの足にポイムとガーディアン、背中にキナコが乗っているのが確認できる。

グラン以外にもグリュプスが村の近くに来ており、グリフの飛翔が合図なのか、グリュプスが次々に飛び立ち、縄張りとしていた山からもその影が見える。

飛び進み始め、地面の方では鹿たちが素早く森の中を見え隠れして、空を飛ぶグリュプスにその足でついてきていた。

鹿の進む先に人影だ。


「グリフ。」

『ああ、わかっておる。』


七人の進む先にグリフが降り立つと、剣を腰に差した女子が駆け寄ってきた。


「おじさん!」


続けて、ゆっくりとグランが片足で降り立ち、丁寧にポイムを地面におろす。

リオンがグランを見て嬉しそうに近寄ってきたその表情が、一瞬にして悲壮なものに塗りつぶされた。


「ああ、そんな!ポイム、ポイム!!」

「ポイム、痛いよね。ポイム。」


五人がポイムに近寄り、撫でる、泣く、などして体をポイムに寄せた。


「何をしたのかはわからないが、チェインらその一味によるものであることは確かだ。」

「僕らが出て行ったあと、ポイムにこんなことをしていたなんて・・・。」

「もう、大丈夫。私たちがいる。」

「許せない、許せない!」


ルインとキャスの顔が暗い。


「私たちは、昔こんなことをしていたのね・・・。」

「まじ・・・。」


心の中に感じる怒りと後悔。

ロウにした手前、アリサたちと一緒になってポイムの体を労る(いたわる)など虫のいい話はない、そう思っているようだ。


「ルイン、キャス、僕がいて良かったね。僕はもう二人とも許しているし信頼してるよ。あの時とは違う、本当の仲間。だからいいんだよ・・・。だから、ポイムを撫でてあげてよ。」

「・・・ロウ、ありがとう。絶対、絶対に、許せない!!」

「・・・ないわ。こんなのっ!」

「ポイムを、こんなにしたのを、僕は、僕は。」


みんなの怒りは嬉しい、そして共に怒りたいが、ここは抑えてもらわないとな。

怒りをぶつけるのは後ででいい。


「みんな、聞いてくれ。今はポイムの仇を取るよりも、ポイムを治す方に力を注ぎたい。まずはレイナたちの故郷に行って腰を落ち着けて、それからこのレシピに従ってポイムを治す薬を作りたい。ロウ、これを見てくれ。」

「これは?」

「チェインが記したポーションのレシピだ。ロウには薬草探しではなくこのレシピが正しいかどうかを確かめてほしい。」

「わかった!」

「アリサ、リオン、ルイン。ロウについて行ってくれ。」

「ありがとうジュン。言われなかったら無理にでも、ジュンの気持ちを裏切ってでもロウについて行くつもりだったから。」

「ロウがもし迷っても、私が前を開いてあげる、照らしてあげるね。だからポイムを絶対助けるの!!」

「私も、ロウのポーション作り、ずっと見てきたから。これからもずっとそばにいるからね。ポイム、待っててね!!」

「僕は。ジュン!僕の大切な人たちと一緒に、僕の大事な仲間のために頑張るよ!!」


いい仲間、いや恋人に巡り会えたな、ロウ。

アリサも、過去を払拭できたみたいで良かった。


「ああ。アリサ、リオン、ルイン。ロウは大事な相棒なんだ。頼むよ。」

「え?」

「あら、私たちも相棒でしょ?」「そうだよー。」「私は、相棒というよりお父さんに近いけど。」

「そう、だったな。それじゃあみんなで一度、三人の故郷に行くとするか。グリフ、頼。」


遅れて一匹のグリュプスが地面に降り立った。

その足によく見た顔が張り付いている。


「ちょっとまったああああ!」


その男は走ってこちらに向かってくる。


「ん?あれは。」

「はあ、はあ、はあ、ジュン、おい、待て、俺も、連れてけ、はあ、はあ。」

「あんたは、門番の。」

「悪い、村の奴らの、命令とはいえ、そのセイバーティグリスを助けられなかった!見て見ぬフリを決め込んじまった。村の同調圧力に負けちまった!頼む!許してくれ!あんな村にはいたくないんだ。いつもあんたらを見送って、帰ってきた時の安心感といったらなかった。いつしか、あんたらの無事を祈り帰って来た時の笑顔を見ることが俺の日課になっていた。それが、崩れたんだ。頼む!連れて行ってくれよ!」

「ポイムに何をしたのか、見ていたのか。」

「ああ、それはもう目を覆いたくなるような悲惨な光景だ。魔術師が体を焼き、回復師が回復する。セイバーティグリスが人間を攻撃しないことをいいことに、何度も、何度も!村人たちの目の前でな。チェインは薬だと言って飲ませたものは死の境を行き来するほどのものではなかったのだろうか、のたうちまわさせるほどに苦しみを与え、そして回復師で回復を・・・。それを見てチェインや村人たちは笑っていやがったんだ!そんな、悪魔が住むような村に俺はいられない!!」


・・・。

言葉が出ない。

門番に聞いてしまったことを後悔するような気持にすらなる。

だが聞かねばなるまい。

ポイムがどうしてこうなったかを知る必要がある。

君ら七人は耳をふさいでいて構わない、一人だけでも聞いていればそれでいい。


「村人たちが歓喜してはしゃいで見ている中、心がボロボロになったそいつが森の中にふらふらと入っていく様は、もう・・・なんて言ったらいいか表現できねぇ。アルセスたちとスライムと、石の塊が後を追いかけていったのを見ていくらか安堵したが。あんな奴らの家を建てちまったのは俺だ。村に住み着かせたのは・・・。どうか、頼む、頼む!!俺を連れて行ってくれ。セイバーティグリスの回復を手伝わせてくれよ・・・。頼む。」


誰も、耳をふさぐことなく、黙ってすべてを聞いていた。

泣いているのか、門番の男が膝をついて命乞いをするように見上げてくる。


「グリフ。」

『お人好しだな。だが人が一人増えようがかまわん。グランはリオンとポイムたちを乗せたい。それだけ約束してくれれば何でも良い。』

「だとよ。」

「お、俺にも、聞こえた・・・?!話しているところは見ていたが・・・。いいのか?」

「いいもなにも、乗るんだろ?。」

「じゃあ!私たちの故郷の警備、お願いしていい?」

「ああ。ああ!もちろんだ!!やらせてくれ!!」


つとめて明るく、笑顔でいようとするレイナたちには、もう頭が上がらないな。


「レイナ。頼む。」

「うん!おじさん!グリフ、私たちを乗せて!案内するから!」

『お安い御用だ。さあ、乗るがいい。』

「ジュン、その血。ほらポーション。それと畑にあったボックスの中身はみんなで手分けして持ってるからね。」

「さすがだな。ロウ。」


二人、道連れが増えた。

グリュプスの背中に仲間たちと乗り、足に掴まれている獣たちと一緒に旅立った。

グリュプスの群れが空の彼方へと飛んでいく。

ポイムの体を治すために新たな農場と研究場所と狩場を求めて。


・・

・・・


うう、体中が痛い。

何か寝かされているようだ。


「おい!生きてるか?」

「あ、大丈夫、ここは、君は?」

「おまえ!正気に!時間がないが説明するぞ!お前は今肉欲の回復師の奴隷になっている。ふらっとボロボロの体で現れたお前を治療して回復師と薬師が洗脳して、今に至る。記憶は全くないか?」

「ああ、何も。」


目の前の男が何を言っているのかはわからなかったが、とにかく囚われの身であるようだ。

僕も、目の前の男も。


「そうか、それはある意味幸いだ。お前の本来の目的と本当の名前はなんだ?」

「僕はエルノ。行方不明なった兄さんとその婚約者を探しにきたんだ。」

「行方不明者の名前はなんというんだ?」

「兄さんはエメリオ、婚約者はアリサ。」

「アリサだと!?剣聖の?!」

「知ってるのかい!?」


思わず身を乗り出す。

やっと、やっと探し当てる一歩前まで来た。


「ああ・・・。アリサは生きている。エメリオは、確かアリサの話じゃ死んだことになってる。」


体の力が抜けていく。


「死んだ?!どうして。・・・全ての鍵はアリサ。・・・探さねば。」

「ああ、だがまずここを脱出しなければ。破壊の魔女と肉欲の回復師、強欲の薬師、この二つ名を知っているのなら、そいつらよりも狡猾に立ち回らなければならない。ジュン、と言う者が消毒草と夢見草を育てていた畑がある。そこでその二つを絶やすことなく()()だり飲み込んだりしていれば、奴らの洗脳からある程度逃れられる。」

「わかった。君は?名前は。」

「ゲイル。槍聖ゲイルと呼ばれたこともある。」


なんだと?!


「君が!・・・君ほどの男がこう言う状況なら用心するよ。」

「ああ、そろそろ奴らが畑から戻ってくる。消毒草と夢見草はこれだ。いくつか渡しておく。乾燥してはいるが効果は抜群だ。うまく立ち回れよ。」


ゲイルが魔女と回復師を迎え入れた。

先程の口調とは別人の砕けた話し方をして、洗脳されていることを演じている。

僕はゲイルから渡された薬草をバレないように口に含んで飲み込んだ。


「あら、起きたのね、ノエル。」


ノエル、若い女の回復師がこの名を呼ぶことで洗脳が上書きされるように仕組まれていることがわかった。

クラクラする。

だが、魔術が発動しても薬草のおかげで正気を保っていられる。

擬似的に魔術がかかった状態になっているのだろう。

だが、今、この言葉の魔術を解除するわけにはいかない。

解除すると術者にはわかってしまう仕様のはずだ。


「あら、まだ少し調子が悪そうね、ノエル。休んでいてね、私の可愛い肉奴隷さん。あ、ら、いやだ。」


回復師が離れていく。

僕は見逃さなかった。

回復師の手がシワシワの老婆のように変化していく様を、その手を隠すようにして次に見た顔は若い女子と老婆が滲んで見えたことを。

ここにはいられない。

薬草、ジュン、アリサ、次の目的は決まった。

今は、いかにしてこの状況を打破するか。

畑には薬草がある。

自然に、薬草を手に入れる方法を考えねば。


「チェインさん、失礼します。」


あ、あいつは?!


「おう、きたな。早速だが畑のこと、よろしくな。」

「おまかせを。」


狂気の、探究者、だと?!

ゲイルも取り憑かれたように奴を見ている。

畑に近づくためには、自然を装うには、どうすれば・・・。

研究のためには手段を選ばない、王国間を渡り歩いては各地で問題を起こして波紋となった根っからの異端で無頼漢の錬金術師!

魔術師、回復師、薬師、錬金術師、対して僕ら剣士と槍士。

どうやってここから脱出する?

ゲイルは最後まで正気で、味方でいてくれるのか?

僕はまた洗脳の中に迷い込んでしまうのかもしれない。

それはだめだ、絶対。

何としても、アリサの足取りを追わなければ!

当初考えていた方向性と全くの別の展開に

自分自身が作品を見失いがち

女の子と主人公をくっつないようにしようと思っていたんですが

あとがきの、ハーレムになっちゃった、はそんな思いからです

一人で黙々と農作業するよりも農作業しながら誰かの帰りを待つ方がいいです

男でも良かったのですが、ロウに全員くっつけることを最初に考えていて

最終的に男を出すタイミングを失ってしまいました


あと主人公の一人称を考えているうちに僕とか俺とかも出すタイミングを失ってしまって

どこかで出たたかな?

もう出さないと決心したはいいもののとても書きにくかったです


次書けてません

いつ続きが書けるかもわかりません

ストーリーが浮かばなくなってしまいました

中途半端ではありますがそのまま連載中にしてはおけないので完結にしときます


読んでくださった方、感想をくださった方、評価をくださった方、ありがとうございました

なろうの作品(まだ全部読めてないこの作品https://ncode.syosetu.com/n7244gx/。更新が早くてなかなか追いつかない・・・)を読んで異世界トリップを楽しみたいと思います




もし続きが浮かぶようなことがありましたら再始動します

まずは処女作を完結させてやらんとな

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