知人
侑暉くんに見せたその写真に映ったキーホルダーはわたしの知り合い楽羽という人の持ち物でした。たしかそのキーホルダーは楽羽はガキ頃の大親友から貰ったもので、見掛けは楽羽の少年時代にそっくりの関節人形だった。彼と入る時、何度も目に捉えたことがあった。あんまり精巧な作りで、最初は職人の手作りだと思われた。そういえば、楽羽はこれをフウンと呼んだけ?
……フウン、フウン…不運……いや、さすがにそれはないな…
自分の中で否認しながら、その疑念はますます膨らんできた。
「どうした?」
侑暉くんは悶着しているわたしに聞いた。
「いや、その…」
どう説明すればいいのかな?
「瑩さん、もしかしてこのキーホルダー、見覚えがあるの?」
ふたりは一斉にわたしに目を向けた。わああ、やめてくれよ。さすが亜希子さん、察しがいいね。
「実はこのキーホルダーの持ち主とは知り合いなんだ。これは手作り物だから、ほぼ間違いないと思うが。」
そこで、手短く亜希子さんや侑暉くんに楽羽のことを教えた。
「と言う訳で、わたしにも分からないことだらけです。楽羽はわたし、みどりじゃなく、ここに来る前の瑩の世界の知り合いで、どうして彼のキーホルダーはここに現れるのか?まさか楽羽もここに来たのか?」
「落ち着いて、瑩さん。」
亜希子さんは優しく微笑みながらわたしの傍まで歩いて座った。
「ああ、この不運を食い尽くすキーホルダーの回収任務が回される時ちょっとメンバーの消失時期じゃないか、その件でみんな大ダメージを受け、一時任務が中断した。赤彦さんがみんなを纏め直したら、その不運を食い尽くすキーホルダーの任務もキャンセルされた。当時誰も気にしませんだが、いま思えば、やっばりおかしい。」
侑暉くんはそのキーホルダーの写真をじっと見つめ独り言のように言い出した。
「侑暉くん、その不運を食い尽くすキーホルダーについて、その写真のほか、なにか手掛かりがありませんか?」
「うむ、アジトの会議で手に入たのはこのキーホルダーの写真、確かこれを持って歩く人がいたのだが、その人物までは確定できなかった。」
「そうか。いまわたしに考えるのは、多分楽羽とそのキーホルダーも、赤彦さんと冬弥さんのように二つの世界に分けたじゃないかな?」
「その可能性が大きいね。」
亜希子さんは賛成の一票をくれた。
「だったら、こっちに残ったのはあの楽羽と言う人か、それともキーホルダーか?」
「わからないな。でも、不運を食い尽くすキーホルダーの任務がキャンセルされたというのはそれについての危険はもう解けたでしょう。なら、こっちに残ったのは楽羽と思う。だって、冬弥さんの方に不運を食い尽くすキーホルダーの回収任務が回されたんだから。」
沈黙が降りてきた、それもそうね、先の発言は全てわたしの想像上の話、信憑性にはちょっと…
「わたしには一つの疑問があります。」
亜希子さんは手を挙げ、わたしと侑暉くんを順にとって見渡した。
「はい、どうぞ。」
「このキーホルダーは瑩さんの知っているものとそっくりですね。」
「うん、断言できる。楽羽の似顔ですもん、世の中いくつもあるわけないよ。」
「それなら、妙じゃないんですか?」
「なにが?」
亜希子さんは直ぐ答えなかった、その代わりわたしを見つめ「よく考えて」というサインを目で伝えた。
え―と……
「ああ、そうか?そのキーホルダーはわたしの世界のもので、なのに、この本の世界で完璧に再現された。と言う事は、この本の作家さんは楽羽となんなかの関係があるかも。少なくとも、そのキーホルダーのことをよく存じた人物のはず。」
「うん、その通り!」
亜希子さんはにやにやでわたしの頭を軽くぽんぽんした。
「なら、楽羽もその本人としてこの本に来たのかな?」
「ねぇ、どんなひとですか?」
亜希子さんは興味ありそうな目で聞いた。
「なんか話は変な方に行った気がする。」
ずっと黙ったままの侑暉くんはやっと喋った。
「ああ、侑暉くん、いったの?」
「ちゃんと聴いてるよ、まあ、お前らの言うことには一理があると思うが。」
「そう?なら、その楽羽さんのことも必須情報さ。」
「ただお前が聞きたいだけじゃないの?」
小さい声で呟く侑暉くんの言葉を無視し、わたしに目を戻した亜希子さんを拒めず、楽羽のことを語り始めた。
「最初に見たのも話掛けられたのも金曜の帰る道に寄るケーキ屋でした。わたしは金曜の夜にケーキを食べる定番で、そのケーキ屋の常連だった。いつも店の中で見回りながらどれにしようかって苦戦する。そこで、かれはわたしの正反対のようだった。いつも来て早々、素早しい速さでタッゲトを決めた。わあ、こんなたくさんの美味しいものがいるのに、もっと迷ってもいいのに。その裏ですこし羨ましかったかも。」
「かっこいいひと?」
途中、亜希子さんは目をきらきらして聞いた。
「かっこいいというより、お宅っぽいかな?」
「ええーー瑩さんはそういうのは趣味なの?」
なんか期待はずれてごめんね、亜希子さん。
「いや、別に、わたしはタイプとか拘らないよ、気が合うとそれでいい。って、そういう話じゃないよ。」
「先から聞いてると、おまえらお宅をばかにしてるの?」
「ああ、もしかして、侑暉くんお宅?」
わざとらしく驚いた顔をする亜希子さん。この人、厭きないな…
「違う、断じに違う!」
きっばり否認する侑暉くん、はははっ、可愛いですね。
「そんなに慌てで否定しなくでも、わたしも半分お宅だもん。」
笑いを押し殺し失敗しましたわたしも告白した。
「うん、わたしも。」
「おまえはあるわけないだろう!」
いきなり大声だした侑暉くん。それは理解できるよ、亜希子さんはどうしてもお宅と絶縁に見えるんだから。
「はい、はい、今は瑩さんの話を聞く。」
また途中で擱かれた侑暉くんもわたしに目を戻った。
「うむ、そこで、ある金曜、もちろんそのケーキ屋で、どうしたかそのキーホルダーはわたしの足元に転んできた。それをきっかけで、楽羽に話を掛けた。その日、楽羽にケーキを奢ってくれた。次はわたしの番と押して来週もそこで会う約束をした。」
「知り合ったばっかの人の奢りなんで普通拒絶するっしょ?」
「うん、確かに。でも、瑩さんの場合は、きっとふたりとも可愛くて素直な人間だろう、別にいいじゃん。」
もっともですね。わたしの性格から、自分から簡単にひとと関わらない、どうして楽羽を容易く受け入れたろかな?
「それで、それで?」
「ああ、実はその日の帰りにちょっとしたことがあった。ケーキ屋から出てから、もう少し楽羽と歩いた、ある交差点はわたしたちの分かり道だった。その交差点で危うく車に轢かれることになった、間一髪で楽羽に助けられた。その日、お互いまだ名乗っていなっかことを次に会う時思い出して笑いあった。まあ、ときかく、楽羽はいいやつですよ。」
「恋人にならなかった?」
亜希子さんの突然の問いに少々反応遅れた。
「はああーー!?いやいや、それはないよ。」
「なに恋話期待してんの?ただの選択恐怖症の女とお宅の男の出会いじゃないか?」
侑暉くん、ひどいーー
「恋人じゃなくてよかった。瑩さん、今わたしたちの立場で、今後その人と敵対になるかもしれない、心の準備をしておいて方がいいと思うが。」
いつの間に真剣な顔になった亜希子さんは冷静に言いだした。
「うん、分かるよ。」
その話はそこでおわり。その後、亜希子さんはデートとかなんかで、侑暉くんは任務の準備でわたしと分かれそれぞれのやることに向かった。
実は、まだ亜希子さんや侑暉くんに言えなかった事がある。楽羽と約束があった。その日、楽羽がメセッジをくれた、「大事な話があって、夜彼の家で会う」って、なのに、午後の仕事で愚痴を吐くわたしは3時半に不思議なちからに導かれ、みんなと茶会で出会い、この本の世界に来ました。もし楽羽もここに来たのなら、その「大事な話」とか関係があるかも。
「お帰りなさい、みどり様。」
考えてるうちにもう日瑠間の門前に到着した。葵さんは暖かい微笑で出迎えに来た。もちろん、わたしの目に映ったのは無月さんでした。
「ただいま戻りました。」
「晴れない顔ですね、瑩さん。もしかして、亜希子さんや侑暉くんに弄れれたわけではないよね。」
わたしの部屋で無月さんにこれまでの経緯を説明する前に、彼に言われた。
「いやだな、無月さんまで。それでは、報告いたします。」
一気に纏め言い終わった。
「そうですか。いろいろあったね。お疲れ様でした。いま、瑩さんの中で一番葛藤したことはその楽羽さんという人のことですね。もしかして瑩さんは自分のせいで楽羽さんは紛れられたと思っているのではないか?」
「少しそう思うかも。」
「では、逆に、瑩さんは楽羽さんのことに紛れられたこともありうるでしょ?」
「ええーー!?どうして?」
「よく考えて見てください。不運食い尽くしのキーホルダーは瑩さんの知っている楽羽さんのキーホルダーと同一物とはほぼ動かぬ事実ですね。ということは、この本の作家は楽羽さんと関わっている可能性が大いにあるではないか?キーホルダーで手作り物、楽羽さんは子供の時からずっと持ってきた、それは何を提示してるのか、お分かりますか?」
「無月さんはこの本の作家がもしかして楽羽のガキの頃の大親友といいたいのか?」
「いや、そこまで言い切れないが、失礼ながらも、その親友は怪しいですね。楽羽さんの周りのひとたちをご存知ですか?」
「いいえ、わたし達に合うのはいつも二人で、楽羽の知人とかよく知らない。」
「そうですか、ここで手掛かりが切れたのですね。落ち込まないでください、まだ楽羽さんは敵とは決めませんだから。」
「うん。」
「今日はお早めにお休みになってください。
これから、瑩さんも危険な任務に参加することになる、わたしは力になれず、もうしわけませんでした。」
「いいえ、無月さんはわたしの傍で立てるだけで、心強いです。」
「ははははっ、それは光栄です。いつでもわたしを召喚してください。お休みなさい。」
「お休みなさい。」
無月さんは送ってから、ベッドで仰向き、知らぬ内に眠りに落ちた。




