再会
「遅くなって、ごめんね。みんな、待った?」姿より声のほうが何秒早く伝わって来た。この明るくて少し甘い女の声、どこかで聞いたことがある。…まさか…!?
「あら、あなたが赤彦の妹ちゃんのみどりちゃんですか?可愛いですね。よろしく!」彼女は私を向け真っ直ぐ歩いて来ながらウィンクした。間違いない、亜希子さんだ。
「姉貴、なにやってるの、遅いよ!」加久良さんの口調から責める気味が全然感じません。
「ああ、この人、僕の姉です。顔とスタイル以外取りどころがないのですが…」
「何なの、その紹介は――バカ弟!」加久良さんの頭をわざとらしく叩いて、亜希子さんは赤彦さんに向かって小さい紙片を差し出した。
「ただで遅刻したわけじゃんないんだ。これ、お土産。どうぞ!」
赤彦さんは長くてきれいな指でそれを受け取って読みながら満足な笑みを浮かべた。
「これは貴重な情報ですね。ありがとう、なつみ。」
「お礼なら、デートでいいよ。」形のいい唇の角が小さく上げた亜希子さん、いや、なつみさんはとても魅力的に見えた。
「あなたの数えきれない彼氏達の後ろに並べて待ちましょう。」
上手くかわした赤彦さんの返事に、なつみさんは爽やかな笑顔をみせて言い出した。
「いやだな、リーダ、何真面目な顔で本当のことを言ってるの!」
このふたりはどんな仲ですかな?ずいぶん親しいらしいですが…
「恋人じゃなく、ただの幼馴染ですよ。安心して。」耳元で加久良さんが囁いた。
「姉がいるなんて、知らなかった。」些細な不満を彼に向けた。
「聞かれてないもん。」さりげなくかわされた。
「どころで、うちの姉もそっちほう?」一瞬鋭く光る加久良さんの目つきにとられ、どう答えるのかちょっと困った。
「みどり、みんなのことを紹介するから、こっち来て!」
「はい!」赤彦さんの声に助けた。
「ごめん、加久良さん、兄さんが呼んでる。」
一列に並んだメンバの方に歩く私の背中をじっとみつめられてるのを感じるのは気のせいかな。
「まあ、加久良となつみはもう見知り、左から、マスクさん、航也さん、ミラさんに夏斗くん。」
いつの間にかわたしの傍に来た加久良さんは噴出した。
「人間らしくないもんが混ざってる感じ満々だな!」
「加久良――!」
「慣れないのは事実さ。だって、本当の顔は一度も見せてくれないんだから。」
つまり、マスクさんとミラさんは見かけ通りの名前、焼け肌のおじさんは航也さん、侑暉くんは夏斗と言う名前だ。うん、憶えやすくてよかった。
「何でこの異端分子が私の弟なの、困るわ!顔を見せないのはきっと何が理由があるのさ、他人に強要しないで!」
「姉貴に言われたくないよ!」
はは、なんだかんだ仲のいい姉弟ですね。羨ましいな!
「今日はみどりを連れてきたのは、みんなに紹介したいため。この子は任務に参加するのはまだ早いと思うので、今回は予定通りに行う。というわけて、みんな自分の役割をこなしてください!」
赤彦さんの発言でみんなそれぞれの行動に向かって行った。
「みどり、ここで待っていてね、任務完了したら、一緒に帰ろう。ああ、航也さんも今回参加しないので、君とここに残るよ。」赤彦さんは私の頭をポンポンしながら出て行った。
「子供扱いされてるね、面倒見のいいお兄さんですね。」
航也さんは目を細め微笑みながら話し掛けてきた。
「うん。尊敬していますよ、兄のこと。」
赤彦さんの消える方へ眺めて、わたしは頷いた。
「若さにもかかわらず、わたしたちのリーダとしても、十分優秀な男です。」
「そうですか?嬉しいな。」
素直に兄への賛美に喜ぶわたしの顔を見ながら、航也さんは続けた。
「赤彦も嬢ちゃんのように素直になればよかったのに、ものことを心に収めるタイプなので、よそからその苦労を測れないだろう。」
「それって、冬弥たちのことですか?」
「おや、知っていますか?」些か驚いた航也さんは目を少し見開いた。
「はい、私も関わってるらしい、なのに記憶が曖昧で、兄さんの役に立たなくて。」
「嬢ちゃんは赤彦の役に立ちたいのか?」
「はい、頑張ります!」
「はははは、健気な嬢ちゃんですね。安心してください、あなたはそう望むなら、絶対赤彦の助けになるさ。」
爽やかな笑い声に誘われ、わたしも自信が湧いた気がした。
「航也さんと話しをすると、元気を貰えるね。ありがとう!」
航也さんは柔らかい眼差をわたしに向き、目元まで笑みを見せた。
「これはまいたな、嬢ちゃん、おたて、上手ですね。」
「本心です――!」
「ははははっ、こんなおじさんでよければ、いつでも話相手になってあげるよ。」
二人だけ残ると聞いて、一時どうなると思ったが、航也さんは話しやすくてよかった。
「何二人で盛りやがってるの?初対面じゃんなかった?」
ああ、ああ、本に入っても、見かけを変わっても、揺るぎないものがある。よく証明してくれた、侑暉くん。
「おや、お帰り。早いね、坊や。」にやにやしながら、一ミリのダメージも受けていない航也さんは侑暉を、えっと、夏斗くんをもって遊ぶように聞こえるのはわたしの考え過ぎかな。
「その坊やっての、止めてくれない?」夏斗くんは嫌味を隠せず航也さんにぶつけた。
「少年、坊やって呼ばれるうちに喜べ、さもないと、このおっさんのようになった時は後悔するぞ!」
完全に遊ばれてるぞ、夏斗くん。助け船をだすか…
「いやいや、そんなことないですよ。航也さんは素敵なおじさんです!うん、うん。」
「おじさんと言う点は、否定しないね、嬢ちゃんは。」
苦笑いながら呟いた航也さんを見つめ、ああ、やっばり気にしてたねっと思った。
「あら、夏斗は一番目に戻ったのか?できに今回は私がファストをとれると思ったのに。」
「百年早いよ!」
「可愛げはないな。」
「ほっとけ!」
なつみさんも戻った。みんな、夏斗くんをからかうのは好きらしいね。
「一人でにやにやわらってる、気持ちわるい!」
無駄だよ、夏斗くん、このペッテンにもう慣れた、怒らないから。ジャンジャン突っ込んで来い!
「航也さん、リーダが呼んでるよ、スポーとCで合流するようにと。確かに伝えたよ。」
「了解!では、早速行きますので。嬢ちゃん、まだ話しましょうね。」
「はい、気を着けて行ってください!」
航也さんを見送っているわたしは背中に突然柔らかく暖かい温もりに包まれ、微かな心地いい香りもした。後ろからなつみさんに抱きしめている…
「これで、わたしたち三人だけね。お久しぶり、瑩さん。」
「ああ、やっばり、亜希子さんと侑暉くんですね。」
「そうです。あら、わたしより胸が大きい――!」
「ちょっと、どこ触ってるの?やめてよ、亜希子さん!」
「な…なにやってるの?お…おまえたち――!」
侑暉くんの顔は真っ赤になった、恥ずかしそうにこっちから目を背け、叫びだした。
「ちょっとからかい過ぎかな?」瞬時に真ともモードにリッセトした亜希子さんに文句を言うのは止めた。
「みんなも直ぐ戻ると思う、時間があんまりないので、何が交換したい情報ある人手を上げて!」
「はい!」とっさに手を上げたわたしを睨む侑暉が“バカか”と目で語った。
「あの、話したいこと、聞きたいこと沢山ある。まず、亜希子さんと侑暉くんもハロウィーンから来たの?えっと、冬弥さんは将矢さんですよね?あと、3カ月前いったい何があったのか…」
「落ち着いて、今日は時間が少ないのは事実ですが、わたしたちはまだ会えるよ、いつでも。それに、前も、侑暉と何度も打ち合わせをした。これから、瑩さんも参加するね。」
「はい、仲間に入れてください!」
亜希子さんは微笑みながら頷いた。
「先の質問の答えですが、1問はイエス、2問もイエス、3問は残念ながら、わたしもよく分からないの。」
「右同じ。」
「そうですか。分からないこと多いね。そういえば、将矢さんはクリスマスから来たのかな?」
「どうかな?彼は私たちのことは認識してないのは事実ですが。わたしもクリスマスを選ぼうとしたが、前任の誕生日で、気に食わなくて、あえてハロウィーンを取ったの。」
憎々しく語った亜希子さんの横顔をみると、その前任のことに葛藤があるというのは察しがつく。
「無月さんはまだ見つからないね。」侑暉くんは一人言のように呟いた。
「ああ、無月さんなら、今、日瑠間家の執事の葵さんという身分ですが…」手短く無月さんのことをふたりに伝えた。
しばしの沈黙後、加久良さんのことを聞くのは忘れたと思いだした。




