「これは敵対ではありません。フレンドリーな接触です」異世界の住人が全員マニュアル翻訳で喋る件
「意識のある個体を発見。安全確認を実施する」
俺は今、目の前の兵士にこう言われている。
5分前まで俺は、海外製のオープンワールドRPGをプレイしていた。
そのゲームの冒頭はこうだ。
「あなたは森で倒れています」
「通りかかった警備隊があなたを発見しました」
「あなたは安全な場所へ運ばれます」
妙に説明的で、ちょっと不自然な翻訳。
でもまぁ海外のゲームだし、そういうもんだと思っていた。
その瞬間、気づいたら森の中で倒れていた。
「……は?」
そして目の前に、鎧の兵士とローブの少女。
完全に、ゲームの冒頭そのままだ。
ただし画面じゃなくて現実だった。
兵士が俺を見下ろして言う。
「意識のある個体を発見。安全確認を実施する」
少女が続ける。
「呼吸は安定しています。致命的損傷はありません」
やめろ、その実況。
俺はそのまま担ぎ上げられ、馬車に乗せられた。
抵抗する暇もない。
馬車の中で、少女が真面目な顔で言う。
「これは敵対ではありません。フレンドリーな接触です」
……その言い方やめろ。
友好的なのは分かる。でも単語選びが全部マニュアルだ。
兵士は淡々と続ける。
「あなたは現在、身元不明の負傷者です。王都にて保護されます。これは通常手続きです」
怖いくらい事務的だが、悪意は感じない。
⸻
街は普通だった。
人がいて、店があって、生活がある。
でも会話だけが変だ。
「通行は問題ありません。混雑率は低いです」
「商品購入は任意です。強制はありません」
「本日の治安は安定しています」
全部直訳すぎる。
てか治安安定の報告ってなんだよ。
しかし誰も不自然だと思っていない。
宿に入った。
受付のおばさんが言う。
「一泊3ゴールドです。これは標準価格です」
「ベッドは睡眠専用です。戦闘には使用できません」
ドアには注意書き。
『この部屋は休息用途です。安全です』
安全は分かった。説明が過剰なんだよ。
⸻
翌朝。
朝食は、パンとスープだった。
給仕が言う。
「これは食事です。摂取によりエネルギーが回復します」
「パンは硬いですがスープで改善されます。これはヒントです」
ヒント言うな。
昼ごはんでは、
「食事だ。HP回復」
夕食では、
「餌。」
俺人間なんだが。
⸻
王城に呼ばれた。
王が言う。
「あなたはこの世界の住人ではありません。これは事実です」
なんかバレてる。
続けて王は言った。
「しかし帰還方法は未実装です。これは仕様です」
仕様すな。
——
その晩。
俺はまた森の近くにいた。
空を見上げるとドラゴンが飛んでいる。
そこへ、さっきの少女が来て言った。
「現在飛行中です。安全です。問題ありません」
もう驚かない。
「あなたは現在、この世界に適応し始めています。これは正常な進行です」
俺はため息をついた。
そして最初に助けてくれた兵士が言う。
「あなたとの接触は完了しました。これはフレンドリーな接触でした」
だからフレンドリーな接触ってなんだよ。
——
その時、突然“運営”からアップデート通知が届いた。
「新規イベント発生。内容:説明過多の改善要請」
運営の言葉も直訳だが、改善する気はあるらしい。
続けて表示された。
「しかしながら、実装予定:未定」
俺は空を見上げた。
「この世界、説明は丁寧なのに改善だけは雑すぎる」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
実は、自分がよく遊ぶゲームの翻訳がいつもおかしくて、面白いと思ったので小説にしてみました!
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