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切望する魔  作者: 山鳥月弓
アルクの章
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魔獣退治

「今日はナープ村の魔獣退治の日だし、ここまでにしよう」

「もう少しやろうよ」

「傷も治ってないだろ。ここまでだよ」

 朝、ロヒに剣の稽古をつけてもらうのが日課になっている。

 三年経つがまったく歯が立たない。

 剣だけではなく、魔法も教えてもらう事があるが、こっちはもっと歯が立たない。

 火炎塊を同時に五つも扱える人間が居ることに父が驚いていたのを覚えているが、実際には二十個を同時に扱えるらしい。


「魔王か竜にでも身体全体を作り変えられたの?」

 普通の人間では出来ない芸当に、そう訊いた事がある。

「竜にね、身体まるごと作り変えられたんだよ。誰にも言うなよ。秘密だからね」

 そう笑いながら答えたロヒが、あまりにも嘘臭い顔をしていたのを覚えている。

 しかし、人間には不可能だと思われる魔法を簡単に操るのを見ると、案外、本当なのかもしれない。


 クラニ村を作った先祖も、竜から右腕、魔王から左腕を再生してもらい、それが元で俺達は魔力を持っているらしい。

 竜はまだしも、魔王と関係がある事が知られれば、周りの村からどんな仕打ちをされるか判ったものではない。村からならまだ対処できるかもしれないが、皇都から派兵され、村を潰される可能性だってあるだろう。

 これはクラニ村の人間以外には話してはならないと言われているが、なぜかロヒは知っていた。


「うん。やっぱりよく判らないね」

 ロヒに左腕を使う魔法を見せると、大抵はこの言葉が出てくる。

 魔王由来の魔力は変質した魔素を使うのでロヒでは教える事ができないそうだ。

「アルク自身で、普通の魔素の使い方を応用して、色々と試した方が成長できると思うよ」

 今度、ゼノ様に会いに行く時にでも有効に使う方法を訊いてみよう。


 ナープ村へは南西へ一時間程歩く。

 一年に一度、春になるとこの辺りの村を回り、その村付近の魔獣の森へ入って、魔獣達の数を減らすのが風習のようになっている。

 この辺りの村といっても、退治に出るのはクラニ村の人間だけで、他の村から参加する者はあまり居ない。

 偶に、俺も戦うと言って来る奴を断っている場面に遭遇する。有名な冒険者や剣士が来ることもあるが、そういう戦力になるような者でなければ邪魔になるだけだ。

「あんな子供だって戦えるんだろ。俺の方が戦力になる」

 そう言って、俺を引き合いに出す奴も居るので、そういう時はあまり目立たないように、大人の影に隠れるようにしていた。


 本来は俺の歳で魔獣退治に参加することはない。

 明確な規則がある訳ではなかったが、十五歳から参加することが多い。

 ただ、家によっては、それよりも前から参加させる事もあり、決定は家長に委ねられていた。

 俺は十歳から参加しているが、その時はロヒが、後見人であるセウラさんへ頼み込んでくれた。

 もちろんロヒが一緒でなければ許可されなかっただろう。


 ナープ村の人に挨拶を済ませ、早速、森へと入る。

「アルク、今日は無理せず、魔法を私の後ろから撃って、魔獣を追い立てる事に専念してくれ」

「えー。俺も戦いたいよ」

「駄目だよ。傷が完治してないだろ」

「こんなの、なんともないって」

「駄目だ」

 魔獣退治は家族単位で行う事が多い。

 頭数や戦力が揃わない場合は、複数の家が合同となる場合が多いが、ロヒは一人でも問題無いらしく、俺以外の人と組むことはあまり見たことがなかった。


「つまらないよ……」

「……そうか。それじゃ、競争しよう。私は今日の魔獣退治に剣は使わない。アルクも剣はいざという時は使っていいが、魔法だけ使って、どちらが多く倒せるか競争だ。これならあまり傷には障らないだろ」

 ロヒはたまにこういう子供じみたことをやろうとする。

 嫌ではないが、勝てる気がしない。

「勝てるわけないじゃないか……」

「やらない内から負けを認めるんだ。やっぱりまだまだ独り立ちなんて無理だな」

「わかったよ。やればいいんだろ」


 それから夕方になるまでまだ雪が深い森の中を駆け回り、俺は六匹の魔獣を倒した。

 ロヒは二十六匹だった。


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