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P48

翌日、いつもより少し早めに登校すると、校門近くで湊と会った。


「よ」


「おはよ」


何か言いたげににやっとしながらこっちをみる。

なんだよ。少し照れくさくてわざと顔をしかめた。

勘違いなんて誰だってあるだろ。

だいたい、みーだって唯ちゃんを修の彼女だと思っていたじゃないか。

席について鞄の中身を机に移しながら修の家に泊まった話なんかをしていると、

教室が一瞬、ざわっとした。

振り返ると、長かった髪を思い切り短くした修が入ってきたところだった。

ちょっと恥ずかしそうに、おはよう、という。

やっぱり、こっちの方がずっといい。


早瀬君とは席が離れているけれど、休み時間なんかに、

朝の湊みたいに、なんとなく何かを言いたげな素振りを見せていた。

湊は完全に僕の味方というか、中立的な立場で接してくれるし、

変に悪ふざけをしたりしないけれど、

早瀬君はおもしろい事優先って感じで油断ならない。

もちろん、敵とかってわけじゃないけど。

どんな攻撃でこっちを揺さぶってくるか、思わず身構える。そんなお昼休み。


「佐倉君、何かあった?」


その問いは、修に向けてだけれど、

視線というか意識は、ちらっと僕の方に送られている。

予想外の攻撃に、飲んでいたお茶が気管の変なところに入る。

ぶほ、げほげほげほ。

そういう作戦か。無防備な修に行くか。

湊が慌てもせず、先生の机においてあるBOXティッシュを差し出してくれたので、

数枚とって口に当てる。


「何もないよ」


「神崎君には聞いてないんだけど」


咄嗟に僕が答えてしまった。

笑いをこらえるように突っ込まれて、失点を認めるしかない。うあ、やられた。


「どうしたの、大丈夫?」


ああ、うん。てか、君よく今のやり取りを聞いていて平気だね?

修は僕の様子に驚きながらも、髪? なんとなく気分転換、

と早瀬君に答えている。

湊だけが、不憫なやつ、と僕に同情的な態度を示してくれた。


「で、本命の彼女は? いないの? 作らないの?」


これは、早瀬君の僕に対するサービスだろうか。

そう聞かれた修の答えが気になる。修は、うーん、と少し考えて、


「彼女を作るとか、誰かと付き合うとか、そういうのする気ないから」


と答えた。む、意外と核心に迫るような答えが出た。

早瀬君からももう、面白半分の攻撃は来ないだろう。

彼女を作る気がない、か。

人恋しい気持ちはありそうなのに、まだ何か隠している事でもあるのか?

それとももしかして、僕に対する牽制……?


「あ」


ふいに漏れた修の声に、他の三人が注目する。

何か忘れ物でも思い出した? 続く言葉を三人とも待っていた、と思う。

けれど、修は固まったまま動かない。

なんだ? ちらりと視線をあげて、僕をみる。

ん? 目が合ったまま首をかしげると、急に、かあっと赤面してみせた。

羞恥に耐えるように眉を寄せ、切なげな息を吐いて視線を逸らす。

その、初々しい艶やかさに、目が離せなくなった。

見惚れて呆然として、そのまま数秒、

はっと我に返ると、湊と早瀬君が僕を見ている。

ちょ、今の、僕のせいか?

湊は呆れたように、早瀬君はおもしろくて仕方ないという風に俯く。

早瀬君、ごちそうさまって、そのパン、半分も食べてないだろ。

本当にそのまま残すんだろうな。

やっぱりもうちょっと食べようかな、って、

絶対さっきのごちそうさまはウソだったよね? 違う意味で言っていたよね?

てか、修、今のは修のせいだから。

くっそ、早瀬君の攻撃が止まったと思って完全に油断していた。

いや、もしかしたら実はこの、

修の時間差を狙っての時限爆弾だったんだろうか。

四人それぞれの動揺を感じつつ、お昼休みは過ぎていった。

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