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十月も半ばになろうとしていた。
記録的な大型台風がこの街を直撃するので、明日は臨時休校になるそうだ。
午前中は少し風が強いかな? くらいで晴れていたのに、
午後から一気に天候が悪化した。
風雨の強さはまだしょうがないとしても、雷まで鳴り始めた。
窓の外が真っ白に光って、ピシャ、という何かが割けるような音が響き、
間を空けずにガラガラという激しい雷鳴が轟く。
教室の蛍光灯が数回点滅して、ふっと明かりが消え、
稲妻が窓を覆う真っ黒な雲を切り裂く。
ダダン、と再び激しい雷鳴が響くと、女子の悲鳴が上がった。
少しして電気は復旧したけれど、学校中がちょっとしたパニック状態になった。
「○川、氾濫寸前だって。○川橋、通行止めになるかも」
「××線、止まったみたい」
「うそ、帰れないよ」
とても授業が続けられる状態じゃないし、台風の勢力はこれからが本番。
このまま学校に残ったら危険が増すばかりだろう。
すぐに一斉下校という事になった。
僕のマンションは、学校から歩いても十分くらい。
ダイヤが乱れていつ来るかわからない電車を駅で待つ必要もない。
明日は休校が決まっているし、
近くの席の湊と修を今日は泊まっていかないかと誘った。
湊は弟妹が心配だから帰るという。
早瀬君にも声をかけたけれど、泊まるアテがあるから大丈夫という。
例の「お友達」に迎えにでも来てもらうんだろう。
こういう要領のよさが早瀬君らしい。
修もおばあちゃんと唯が心配だけれど、と電話をすると、
無理して帰って来ないで、伊月さんのご好意に甘えさせてもらっては、
といわれた、という。
濡れたら困る、重くて荷物になる教科書や通学鞄はそのまま学校において、
お財布とかだけビニールの袋に突っ込んで、修と二人、暴風雨の中を走った。
部屋について交代でシャワーを使い、乾いた服に着替えるとほっとした。
レンジやオーディオ類をみると、時間表示が点滅しているものがいくつかある。
このあたりも停電したようだ。壊れていないといいんだけど。
キャンプみたいな、どこかわくわくした気分でコーヒーを淹れた。
世界と断絶されて、修と二人きり、この部屋に閉じ込められている感じが、
少し不安でもあり、とてつもなく幸せな気もした。
はじめのうちはテンション高くいろいろ話していたけれど、
だんだんと沈黙が続くようになった。
「伊月さ、最近、なにか悩みでもあるの?」
修の言葉には、あまり驚かなかった。
そんな風にいつか聞かれるだろうなとは思っていたけれど、
返す言葉は用意していなかった。
黙ったまま、少し俯いた。戸惑うような沈黙の後、修が言葉を続けた。
「立ち入った事聞いちゃったらごめん。
伊月のおうちの人って、どんな人?
湊の兄弟とは文化祭の時会ったけど、
伊月とはいままであんまり話した事なかったから」
湊の弟妹はとても素直そうで、ちょっと生意気で、
暖かい、仲のいい兄妹って感じがした。
一人っ子の修は、しきりに羨ましがっていた。
「うち、ねえ。ま、つまんない人たちだよ」
僕には自慢できるような家族はいない。
じいちゃんは、「すごい人、おもしろい人」って意味で自慢はできるけど、
修が聞きたいのはそういう事ではないだろう。
沈黙の合間に遠く、雷鳴が聞こえる。
「伊月の事、もっと知りたいよ。僕にできる事はあんまりないと思うけど。
伊月が困っていて、僕ができる事だったら、できる限り力になるよ」
修。それは、誘惑だよ。
さっき話していたバタフライ効果の会話が思い出される。
蝶の羽ばたきのような、ほんのかすかなきっかけが、嵐を起こす。
なんかもう、笑うしかない。




