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第060話|ココ編【自信が無くなるな……】

「———っ!!」


アーラの目が見開かれた。


無数の大木が飛んでくる。


回避の軌道が、ない。


(——避けきれない)


パックが息を呑んだ。


「アーラ——!!」


アーラは即座に、上昇の軌道を取った。


だが、迫る大木が視界を埋めた。


「——くっ!」


やはり、避けきれない。


その時、“お節介な風”が動いた。


アーラの翼が、強い風の力を受けた。


揚力が一気に増した。


風を切り裂いて迫る大木が、アーラの足先をかすめた。


パックは恐る恐る顔を上げた。


「……かわせたんだ……」


「……風さん、ありがとう」


アーラは舌打ちした。


(……このサイズで、この速度……冗談だろ)


だが、亀の魔族はすでに興味を失ったように、再び進行方向へ向き直った。


……ズズン


……ズズン


何事もなかったかのように、歩みを再開した。


パックが震える声で言った。


「……止めなきゃ……」


アーラが低く返した。


「……やるぞ」


高度を上げて旋回し、亀の魔族の頭部へ向けて軌道を修正した。


「……耳を塞げ」


パックはぎゅっと目を閉じ、耳を押さえた。


次の瞬間。


亀の魔族の首が縮んだ。


「———っ!!」


アーラの背筋に、冷たいものが走った。


アーラは急旋回した。


その直後——


亀の魔族の首が伸び、巨大な頭部が猛スピードで襲いかかった。


短いくちばしのような鋭い口が大きく開き、アーラの翼をかすめた。


「——うわぁっ!」


パックがバランスを崩し、落下した。


アーラはすかさずパックを咥え、距離を取った。


アーラが息を切らした。


(……こいつは、ただデカいだけじゃないな)


再び上昇した。


パックを上へ放り投げた。


「——わぁっ!」


悲鳴を上げるパック。


アーラは落ち着いて、パックを背中でキャッチした。


パックの顔が青ざめる。


「……心臓に悪い」


亀の魔族は正面に向き直り、また進み出した。


アーラは少し考えてから、下降した。


「……低空から森の中を飛んで、接近するぞ」


パックは思わず聞き返した。


「……えっ! 木を避けながら?」


「……それしかない」


アーラは有無を言わせず、森の中へ入った。


目の前に迫る木々を、縫うように飛行した。


パックはアーラのアクロバット飛行に、喉をひゅっと鳴らし、体勢を低くした。


アーラは木々を避けながら、トサカで周囲をスキャンした。


亀の魔族の頭部の輪郭を、正確に捉えた。


「……耳を塞げっ!」


パックは慌てて耳を塞いだ。


アーラの翼が、木々と平行になった。


森を抜けた、その瞬間。


亀の魔族の頭部の左側に出た。


アーラはくちばしを大きく開いた。


その瞬間——


——ギィィィン!!


アーラのトサカが震え、空気が歪んだ。


音が“塊”となって、叩きつけられた。


森の木々が震え、葉が一斉に散った。


亀の魔族の側頭部に直撃した。


頭部が右へ大きく傾いた。


亀の魔族は停止した。


耳から出血していた。


「——やった!?」


パックが叫んだ。


停止したはずの亀の魔族の首が、ゆっくりと元の位置へ戻った。


……ズズン


……ズズン


歩みは止まらなかった。


アーラは目を細めた。


(……効かない……か)


(気絶させるつもりだったんだがな……)


「もう一度やるぞ」


トサカを振動させ、音を増幅させた。


アーラがくちばしを開いた。


———亀の魔族と目が合った。


「——っ!!」


亀の魔族の首が、瞬時に縮んだ。


頭部が甲羅の中に収納された。


———ギィィィィィィィン!!!


今度は地面が軋み、空気が悲鳴を上げた。


だが——甲羅に防がれた。


亀の魔族の頭部が、再び顔を出した。


……ズズン


歩みは、止まらない。


パックが叫んだ。


「アーラ!!」


アーラは音攻撃を止めた。


「……ダメだ」


短く吐き捨てた。


(……硬いとか、そういう次元じゃない)


(……どうする)


亀の魔族は、ただ前へ進んだ。


まるで——


人間たちの村を踏み潰すことだけが、存在理由であるかのように。


パックの顔が引きつった。


「……止まらない……」


アーラは一瞬だけ黙った。


そして——


「———一旦、離れるぞ」


即座に判断した。


「……これは、無理だな」


その言葉に、パックの瞳が揺れた。


……ズズン


その音が、焦燥を煽った。


村へ到達するのは、時間の問題だった。


(……このままじゃ、村が……)


その時——


精霊たちがざわめいた。


アーラが振り返った。


一頭の馬を駆る、小柄な輪郭を捉えた。


アーラが鼻を鳴らした。


「……やっと来たか」

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