第056話|ヘル編【……お前、本当に何者だ?】
——村に到着した。
まだ日は沈んでいなかったため、ヘルは営業許可だけを取りに行った。
その後、二人は宿を探した。
宿の主人が宿帳を確認する。
「個室と……二人部屋、どちらも空いてますね」
「相部屋でいいだろ。安いし」
ヘルは迷わずに決めた。
部屋に入ると、ベッドにどさりと仰向けになった。
「……メシ、どうすっか」
「んー……ヘルは何食べたい?」
パックは天井を見上げてから、ヘルの方を向いた。
「……今日は、軽く済ませるか」
ヘルは頭の後ろで手を組み、天井を見つめた。
二人は食事を済ませ、部屋に戻った。
「……」
互いに目を合わせなかった。
「……明日も早いし、寝るか」
「……うん」
………………
…………
……
「……」
ヘルが試すように話しかけた。
「……起きてるか?」
「……なに?」
パックも起きていた。
ヘルが続けた。
「お前、リンゴ林に行けば、“約束の人”に会えるのか?」
パックが寝返りを打った。
「……多分」
「……」
ヘルの返事が少し遅れた。
「……そうか」
「……一人で平気か?」
パックが答えた。
「大丈夫」
ヘルも寝返りを打ち、パックに背中を向けた。
「……なら、良かった」
「……」
二人は黙ったまま、しばらく眠れなかった。
——翌朝
二人は店の準備を始めた。
いつもと同じ流れだった。
やがて、太陽の位置が高くなってきた。
ヘルはパックに、昼食の“お使い”を頼んだ。
いつも通りだった。
ヘルが一人で店番をしていると、教団兵に声をかけられた。
明らかに客ではなかった。
どこか、嫌な感じがした。
ヘルはひとまず、話を聞いた。
“一人旅をしている少年”を探している、という内容だった。
「……」
ヘルは顎に手を添えた。
少し考える素振りを見せる。
「……」
「……見た気がするな」
「……知って、どうするんだ?」
「……」
教団兵は黙った。
ヘルは作り笑いを浮かべた。
「……あと、俺は商人なんでね」
そう言って、貨幣を入れる箱を指した。
教団兵が貨幣を入れた。
「まいど、どうも」
「南の分岐点で見た気がするな……そこから西の村へ向かったと思う」
「……その後は知らねぇ」
ヘルは教団兵から視線を外した。
教団兵は、そのまま立ち去った。
しばらくして、パックがサンドイッチを抱えて戻ってきた。
ヘルは馴れ馴れしくパックの肩に手を回した。
そして、耳元で囁いた。
「……お前、教団に追われてるのか?」
パックの肩が跳ねた。
「……」
「……昼は動くな。今日の夜、出発しろ」
「……教団には嘘の情報を渡しといたからな。感謝しろよ?」
「……」
拳でパックの肩を軽く叩き、そのまま拳を突き出した。
「……」
パックはゆっくりと拳を当てた。
その日、二人はあまり話さなかった。
やがて、人通りがまばらになった。
店の片付けを済ませ、宿へ戻った。
「……」
——そして、二人は宿でグラスを軽く当てた。
音は、小さかった。
二人は他愛もない話をした。
「……」
少しの沈黙のあと、パックが立ち上がった。
「……」
ヘルはベッドに腰掛け、グラスを見つめていた。
「……楽しかったぜ」
「……またな」
パックが最後の荷物を背負った。
「……ヘル、ありがとう」
「……また、どこかで。きっと」
ヘルは何も言わず、天井を見上げたまま、右手を上げた。
——静かな別れ。
そして、パックは夜の闇の中へ、歩を進めた。




