23話 幕間~それぞれの考え~
♧翌日のミント♧
うぅ……。
私としたことが、完璧に酔いましたわよ。
ふらっふらっしながらもお湯が沸いたことを確認し、ティーポットにお湯を注ぐ。
国王陛下との御謁見。
王城に行くことは何度もありますが、あのような形で対面することは私も初めてだというのに……。
モルガ・セラント、やはり私が見込んだ通りの人物ですわ。
ラバル陛下は寛大な方でありつつ、思慮深く、他国との牽制も他の国王と違い数段上手なやり手。
にも拘らず、魔素による世界の拡張を提言しましてよ!?
過去の大戦の戦果から、魔素の奪取を国際的に暗黙のタブーとしてることを知っていてのあの言動!
茶葉が浸透してきたことを確認し、ティーカップに注ぎ、手に取る。
陶器の熱さが心地よく感じられるのは、体温が低下してる証拠。
ほんっとうに飲みすぎましたわ……。※一杯しか飲んでいません。
椅子に腰かけ、紅茶を軽く飲み、一息つく。
魔素が世界を懐柔している――。
その事実はどこまでいっても変えられませんこと。
だからこそ、大戦が起き、そこで魔素による事業の停滞も進んでしまいましたの。
人の倫理に照らし合わせれば当然ですわ。
でも、だからこそ、前に進む覚悟が必要になりますのよ。魔素を使用していく覚悟が!
それを……あんなにも堂々と……!
―———流石はこの私が見染めた永遠の敵であり、心同じくする心友ですわ!
高笑いしていると、頭からピキっと音が鳴る。
無言で紅茶をテーブルに置き、水面に漂う蓮のような穏やかな心で誓う。
絶対に今日は一日、安静にしますわよ……!
明日から~と言う、うめき声がミンティア商会からかすかに響いていたことに、通り過ぎた人々は少しの心配といつもの日常を感じるのであった。
□カヤマとリアンナ□
「お待ちしておりました」
シルベルトカンパニー地下3階[新型モデル機リアンナSS-TW製作特務工場]
世界を渡り歩く伝説の錬金術師、カヤマ・キチノスケ。
カヤマ殿と顔を合わせて仕事をする日々に、最初こそ緊張したもののずいぶん慣れてきたように感じる。
「本日は再生石設置におけるリアンナの状態安定を踏まえ、第6工程まで進めていく予定です」
「……うむ」
「カヤマ殿には、引き続き再生石の設置と設置におけるモデル接続の流動をチェックしていただきます」
「さっそく、こちらをご覧いただきたいと思います」
見ると、再生石の設置が各所に施されたリアンナを視認する。
機械を通して、一つずつ確認を凝らすと、再生石とリアンナの設置面の光の流れが偏って見える箇所が複数見つかる。
「流動が上手くいってねぇな」
「モデル機に問題がありましたか?」
「負荷をかけても問題のない機体だからそこ、負荷をかけすぎているのかもしれん」
「……と、言いますと?」
「……この再生石は機体に複数取り付けていく。複数の魔鉱石を取り付けるってことは、負荷の多いモデル機を選別することが悪いことじゃない」
「だが、再生石は皆作りは一緒であっても、中身まで全部一緒ってわけじゃねえ」
「この再生石の組み合わせならもっと軽くて幅の広いモデル機の方がいいかもしれんな」
演算を割り出し、モデル機の試作を再構築しよう。
そう言って、私を置いて機械を見通す。
検証と実験を繰り返し、最高精度を見極めていく。
このやり取りにようやく慣れてきた。しかし……いつものように、声をかける。
「また、新しいモデル機を用意しますか……?」
「……うん」
この返事にはまだ慣れない。
独り言なのか、肯定なのか、判断がつかずにいる。
これは完成予定日に間に合うのだろうか……。
ただでさえ遅れが出ている……。
しかし国を覆う大事業にわずかな欠陥を残していくなんてあり得ない!
ただ……このペースで納期に間に合うのだろうか!?
淡々と高度な技術を要するカヤマの仕事ぶりに感嘆しながらも、日に日に焦りを感じる主任であった。
◇いつものシルヴィア◇
「シルヴィア社長、こちらがリアンナの設定箇所の見通し、及び工事における概算費用になります」
シルベルトカンパニー第一秘書アグワス・パンヤ。
社長補佐は当然、スケジュール調整、先方との打ち合わせや業務管理を滞りなく行い、社内における年間最優秀デキル女で賞を毎年受賞している。
「拝見するわ」
シルヴィア社長が資料を手に取り、凄まじい速さで読み進めながらも、ペンを持って各所修正。
「工事の日程の方は問題がないわ。それまでにリアンナの母体が完成させられるか改めてムニバ君(主任)に確認してください」
「併せてリアンナの設置個所はもう一度カヤマさんと相談しましょう。予想だけど、またモデル機の変更案が出てくると思うから」
「これ以上の試作リアンナ投入は予算を逼迫させます」
「前年の予算比計上分と今後の収入見込みを加味すればギリギリ足りると思うわよ」
「……幾ら国家事業案件とはいえ、そこまで我々が加担する必要はないのでは?」
「将来的に、魔素による浸食が行われていけば、私たちが今行っているすべてのお仕事が縮小していくのよ。いずれ手を打たないといけないことを、国がその信憑性を担保してくれるなら一石二鳥じゃない」
話しながら、別の資料を書き上げていく。
おそらく、今後のリアンナ設置後の事業展開計画ですか。
今、この瞬間で新型モデル機リアンナSS-TWの存在を知る者は少ない。
魔素の有害性を取り除いていく他に、浄化された空気が国中に漂う、ということはこれまでの魔素を介したすべての商品や事業が刷新されることを意味する。
家庭用のリアンナも魔素の有害性を遅らせられることができるので、商品自体の品質向上が約束されている、ということです。
それによって人々の求めらるものが著しく変わっていくことを予期して、綿密な事業計画を打ち出している。
我が社長ながら、頭が上がりません。
「それにしても……」
「はい。どうされましたか?」
「モルちゃんカッコよかったーーーーーー!!!!!」
……あぁ、また。
「ラバル陛下の前であんなに勇ましく啖呵切って、本ッ当に、すごかった!キュンキュンしちゃった!」
数十分置きに来るこの発作。
私はいいのですが、いつ見てもギャップがすごいですね。
「モルガさんの雄姿は社内放送しないのですか?」
「したいけどーーー!王城は国家機密扱いになるからだめなのーーー!」
したいけどーー!と繰り返す社長。
シルヴィア社長のモルガさんへの愛情はすでに認識していますが、モルガさんが当社に入館した瞬間に社内放送が流れるよう社員が教育されていると聞かれたら、大層驚くでしょうね。
「でしたら、モルガさんにまたこちらに来ていただけるようにリアンナの件を見返しましょう」
賛成!と張り切る社長。
やれやれ、私も爪が甘いですね。
♔ラバル・ディゴルフェスト・キースウェン♔
「例の謁見はどうなった」
「叔父上」
王城の一室。ラバルが使っている執務室。
豪華ではあるが、派手ではない。埃を被っている様子もない。
壁一面に世界地図。
各都市の人口推移。
魔素濃度の観測記録。
税収報告と予算分配表。
他国との交易資料。
机の上には署名待ちの書類が山積みになっている。
側近は叔父上に頭を下げる。
「リアンナの稼働には今しばらくかかりますが、年内には始動可能です」
「そうか」
そう言い、叔父上は世界地図を見る。
「これで、目的は果たせるのか?」
「いいえ、時期尚早でしょう」
「……そうだな」
叔父上は地図を見続けた。
私も叔父上の隣に並び、地図を見る。
「大戦後の、世界情勢は目まぐるしく変化し、我が国も例外ではありませんでした」
「しかし年月を重ねても魔素は、未だどの国家においても変わることのない資産です」
「だからこそ、今回の件で少しでも今後の国家間争いの展望と、将来の被害拡大を変えていかなければいけません」
「まずは、第一歩です」
「フッ」
叔父上は軽く笑う。あざ笑うでも、馬鹿にするでもない小さな笑い。
「立派になりおってからに」
「ハハッ、それは叔父上のご助力の賜物ではござりませぬか」
お互いに小さく笑いあう。そこに国家という縛りは感じられない。
「例の祭りは順調か?」
「どうでしょうな」
「問題か?」
「いえ、そういうわけではありませんが」
目を細めて、地図の先にある我が国、キースイェン王国を見据える。
「今年の祭りは、いつもより楽しめると思っております」
「そうか」
真意を濁したことに何か意味があるのだろうと察してくれた叔父上は、楽しみにしていると言い部屋を後にした。
―———モルガ・セラント。
自分と似た考えで突き進む人間が、この祭りでどういう行動をとるのか。
今度は王ではなく、一個人として話を聞いてみたいものだ。
開かれた窓から温かな風が吹き込まれる。
その風を一心に受け、仕事の量に相反しながら、穏やかな心持ちで作業に戻る。
世界が変わり始めていく準備が、各所で行われている。
穏やかに、時に荒波に揉まれながらも、前へ、前へと、全員で。
いざ、祭りが始まる――――――――。
【第一部完結】
【和冬のどうでもいい王城知識】
モルが祭りの最高責任者に据えられたのは、事前に決まっていました。
シルヴィア、ミントからの報告、カヤマの存在確認、今回の功績と人柄を評価した最終決定であり、謁見での問答で決まったわけではありません。
国王とのやり取りは言わば最終面接、国王手ずから確認をする最後のプロセスです。
こういう時は、自分の考えを素直に出した方がいいです。
媚び諂うと後々苦しくなるのは自分自身!よくやった!
【完結】
まだまだ続きはあるのですが、完結です!
短い間読んでくれてありがとうございました!




