幻想小説?
広島時代、私の友人の一人に狗神憑きの筋の子がいた。
特に霊感がある、と本人が豪語する訳でもないのだが、ちょいちょい不思議な話をしてくれていた。
これもその一つだ。
友人が高校生の時、早朝に自宅から学校を目指して、歩いていた時のことだ。
随分と田舎に住んでいた友人は、部活のために早くから登校しなければならなかった。
まだ誰もいない田舎道を歩いていると、野原に桜の木があった。
春の頃のことで、その桜は満開を迎えていた。
一本だけ聳えるように佇む様と、見事な枝振りがとても美しくて、友人は思わず視線を奪われてしまった。
立ち止まって暫く桜を眺めていると、その下に誰かが立っている。
目を凝らして見てみると、はっ、と目が覚めるような美しい男性がいたそうだ。
黒髪に涼しげな目元、遠目から見ても色が白い。
綺麗だな、と気は惹かれたが白い着物を着ていて、どうにも怪しい。
近付いてみたかったが、部活のことがちらついたため、後ろ髪を引かれながらも、また、歩き出した。
学校に到着して、部活や授業に勤しんで時間を過ごしていると、いつの間にか今朝のことは忘れてしまっていた。
そして何事もなく終えて夕方、家路につく途中、桜を見た瞬間に男のことを思い出したそうだ。
思わず道を逸れて、桜の下を目指していく。
男の姿はなかったが、桜の下には一匹の白蛇が死んでいた。
「おう、幻想的」
聞き終えると、私は思わず拍手した。
怪奇幻想小説好きの私には、堪らない話であった。
そして目の前の相手の顔を見ながら、思った。
お前の顔、その男と多分そっくりよ。
本当に綺麗な子だったなぁ、と今でも思い出します。
この子との話は、短いのがあと二本ぐらいありますので、また書いていこうと思います。