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憑かれた私と怪しい男  作者: 夏野 夜子
第4章 危険なアルバイト

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ブラックな職場(照明度的な意味で)4

「早乙女さーん」

「あ、勅使河原さん。お疲れ様です」

「おつかれー」


 バイトの前半は、単調ながらもなかなか忙しく過ぎていった。インパクトのあるテーマパークだからか、お客様が次々にやってきていた。それを部屋の隅っこで無表情に立ちながら出迎えて観察し、気になるお客様がいたら説明係の人に報告する。ときどきお客様に絡まれたりしたけれど無表情でなんとかやり過ごせた。

 困ったお客様の中には撮影禁止にも関わらず写真を撮ろうとする人もいたけれど、嫌だなと思っていると何故かボタンを押したのにシャッターがおりないとか、スマホがフリーズしてしまうだとか、ひどいときはデータが全部消えて初期化したらしくアトラクションの前に絶叫している人もいた。その後じんわりこめかみが痛くなったので龍が何かしたっぽいけれど、これに懲りて無断撮影はやめていただきたい。初期化してしまった人はさすがにデータ復活しますようにと祈っておいた。


「はい、ちょっと遅いけどお昼!」

「あ、買ってきてくれたんですか? ありがとうございます」

「ここの飲食美味しくて人気らしいよ。列を羨ましそうに見てる幽霊から聞いた」

「買えないのに美味しい匂いがしてたら地獄でしょうね……」


 真留さんがご厚意で、私と勅使河原さんには小さな部屋を専用の休憩室として貸し出してくれた。イベント用の看板やポスターなどが置いてあるので少し狭いけれど、机と椅子があるのでお昼を食べるには十分だ。

 勅使河原さんが買ってきたのはサンドイッチセット。サンドイッチは赤いパンに紫キャベツの千切りを載せ、さらに紫色のアラレを衣にしたカツを挟んだカツサンド。それに赤いソースが付いたポテトが付いていて、目玉を模したゼリーが浮いたジュースも赤色だった。


「ゾンビナイトセットだって。ゾンビミートサンドに肋骨ポテト、ブラッドアイジュースって書いてあったよ」

「中身が伝わってこないネーミングですね。ものすごく派手な色だし」

「でもこれ天然着色料しか使ってないらしいよ? ブラックアウトセットっていうイカスミのセットも美味しそうだったけど、午後もバイトだしねえ」


 勅使河原さんと赤いサンドイッチを挟んで向かい合い、手を合わせる。見た目に反して味は普通に美味しかった。まだ温かくてカツの衣もさくさくだ。


「勅使河原さん、何気に幽霊見つけてたんですね。どうでした?」

「これ買ったときの霊はごくごくフツーのやつ。成仏したらって言ったら消えてったし」

「フツーじゃないのもいたんですか?」

「うーん、いたっちゃいたけど、有害ってほどではないかな」


 ポテトをつまんだ勅使河原さんは「辛っ」と呟いていた。赤いソースはチリ風味だったようだ。


「こっちのアトラクションはね、なんかこう……お白洲っぽい感じのセットでさ、これから始まる切腹を見ている的な設定なんだけど」


 勅使河原さんがバイトしたアトラクションは、サウンドホラーと呼ばれるものらしい。20人ずつの入れ替え制で、座席に座ってヘッドホンをつけて目を瞑る。立体音響と座席の揺れを使って、あたかもそこで何かが起こっているように感じるのだそうだ。


「面白いですね」

「一回聞かせてもらったけど、楽しかったよ。切腹したあとに武士が動き出すんだけど、本当に目の前まで来てるような感じでさー」

「動き出したら切腹失敗してるんじゃ」

「怨念的な感じで動いてるらしいよ。実際に怨霊が肉体動かしたらなかなかのもんだけどねえ」


 話に聞いただけでも15歳未満お断りな感じがするけれど、勅使河原さんはいつもと同じくけろっとしていた。本物の怨霊もよく見ているので、サウンドだけなら全く怖くないらしい。


「その座席にね、血まみれで着物来た幽霊がちらほらいたよ」

「古典的な……ここ、歴史的に何かあった場所なんですかね?」

「んー、奥にある病院系のアトラクションは取り壊した廃病院を再現してるらしいけど、刑場跡ではないっぽいよ。幽霊もそんな古い時代じゃないし。たぶん着物も血も、たまにいる見える人を驚かすためのものだろうなーって感じ」

「……なんでわざわざコスプレして驚かそうとしてるんですか?」

「さあ。サービス精神旺盛なのかな?」


 普段の依頼でも、たまにある。血まみれの女性だの恨めしそうな老婆が夜胸の上に乗るだのというケースで、本当に恨みを持っている怨霊である確率は意外と低い。勅使河原さんによると、驚かせたり怖がらせたりするために、そういう雰囲気を出しているだけの霊もいるのだそうだ。

 そういう霊はさほど強い念を持っているわけでもないので、勅使河原さんの除霊道具であるバットを一度振り抜くと除霊は終了する。その割に依頼主がすごく感謝してくれてお礼の払い渋りもないので、労力の割にオイシイ案件のようだった。

 勅使河原さんによると、そういう怖がらせようとする霊は珍しくないそうだ。意味不明だけれど、恨みを持ってこの世に留まるよりは健康的かもしれない。死んでるけど。


「お祓いしたんですか?」

「んー、まだ様子見。祓いすぎて噂立たなくなっていいのか確認してなくて」


 ご家庭に出てこられたら困るような霊でも、ここではむしろ歓迎されることもある。そう考えると、理由もなく怯えさせたい霊にとって、ここはぴったりの場所なのかもしれない。

 バイトの子が怯えて辞めなければ、重路さんもうちに依頼に来なかったのではないだろうか。


「早乙女さんとこはどうだった? 変なのいた?」

「見えてないのでわからないですけど、特に何もないみたいですよ。待機室に立ってただけなので中は見てないんですけど」

「早乙女さんのお出迎えいいなあー。アトラクションも良さそうだし、俺もバイト終わったら行こっと」

「あ、じゃあ私は代わりに勅使河原さんの方に行きますね。楽しみです」

「そうじゃないんだよ早乙女さん!!」


 勅使河原さんは私が働いているところを見たかったらしい。立ってるだけなので見ても面白くないと思う。

 とりあえず私たちは、バイトが終わったらそれぞれのアトラクションを見せてもらうことにした。






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― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらず早乙女さんのスルー力というか鈍感力が凄い
2022/03/18 00:43 退会済み
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