かげのおり28
私の部屋には衣装ケースが並び、勅使河原さんの傷はきれいに治り、そしてトップニュースも酷暑の影響に変わっていった。
まだ暦の上で夏が終わっても、太陽は容赦がない。
冷房のきいた店内で、私はその冷たさを堪能していた。
「うわ、ヤヒトのマネージャー逮捕だって」
「え、なんかやったの? つか前逮捕されてなかった?」
「一昨日殺人未遂だってよ。やっぱヤヒトの呪いってあるんかなー」
「あるわけねーだろ。それよりどっか旅行かね? 後期始まる前にさ」
男子学生っぽい集団が朝から賑やかに騒いでいる。話題は青い海とクラゲの恐怖に移っていき、私は視線を正面に戻した。
「クロワッサンサンド2点とアイスコーヒー、かぼすスカッシュでお待ちのお客様ーお待たせしましたー」
ちょっと重い紙袋を受け取って、私はまた暑い歩道を歩き始めた。
あれだけ連日ニュースになっていた浦上さんの事件は、早くも過去のことになり始めているようだ。興味半分イタズラ半分でかかってきていた事務所への電話もなくなり、ちょっとだけ依頼が増えた以外はまたいつも通りのちょっと暇な日常に戻っている。
「おはようございます」
「おはようございます」
入り口に立っている警備員さんに挨拶してから、カードキーをかざして中へ入る。コンシェルジュの女性とも挨拶してからエレベーターへ。
移転したバイト先は、うちから電車で3駅離れてしまったものの、徒歩5分と真夏にはありがたい距離になった。セキュリティ抜群な上に部屋も沢山あってものすごく高級なマンションだけれど、勅使河原さんが事務所兼自宅にしたので、仕事で使う部屋は前と同じくらい。一緒に行った不動産屋さんでチラッと見えた価格は眩暈がするほどのものだったけれど、引っ越す前は自宅と事務所を隣り合わせで購入していたらしいので私はもう何も考えないことにした。前の物件は賃貸に出すそうだ。不動産収入とか知らない世界すぎる。
玄関ドアについている縦長のノブの上部に親指を当てる。ピッと音が鳴ってドアが開いた。
「勅使河原さーん、朝ごはん買ってきましたよー」
「やったー、おはよー早乙女さん」
「おはようございます勅使河原さん」
今日はまた心霊物件のお祓いだ。移動が長くなりそうなので、しっかり食べて備えたい。
相変わらず勅使河原さんは怪しい格好でにこにこお祓いをして、相変わらず私は肩凝りが消えない。物騒なこともときどきあるし、まれに神宮寺さんが遊びにきたりもする。依頼の電話を受けて、打ち合わせ通りに仕事をする日々。
「今日のご依頼主は前にも依頼してきた方ですよね」
「そうそう。今日のはね、結構すごいよ〜」
「……日本家屋ですか?」
「年代物」
私はアイスコーヒーをひと口飲んでから、置いてある虫除け3大キット入りの専用バッグを手に取った。
「本気モードのやつだね」
「木造は……木造はダメですからね……」
「早乙女さんって本当に生きてるものにだけ怯えるよね」
色々なことが起こるけれど、負けてはいられない。私は勅使河原さんと力を合わせてお祓いをして、それから帰ってシャワーを浴びるだけ。
それが今のいつも通りの日常だった。




