かげのおり16
ズキズキ痛む頭を押さえながら、勅使河原は風呂場を見て回っていた。
何もいない浴槽をライトで照らし、デジカメでその様子を撮る。斜め上の天井を見上げると、ヒマそうに揺れている金色の龍尾がチラチラと見えていた。
早乙女はまだ無事なようだ。このまま何事もなく終わってほしいと思いながらも、そうならないことは確信していた。
もうここ何年も「視る」ことはなかったのに、この家の気に触れた途端、鮮明すぎるほどに「視て」しまった。
まるでその瞬間を体験しているように、光景も、痛みも、あらゆる情報が頭に入ってきたようだった。
痛む後頭部とは別に、額のあたりに内側が剥き出しになったような気持ち悪さを感じる。
長い時間をかけて封じ込めてきた力があっさり戻ってきてしまったのは、やはり金龍に影響されたからだろうか。
早乙女を街中で見かけたとき、声を掛けないほうがよかったのかもしれない。けれど勅使河原にはそのまま見過ごすことはできなかった。どういう経緯かはまだ知らないけれど、あんな状態で放っておけば早乙女は遅かれ早かれ酷いことになっていたはずだ。
あれほど強い存在と四六時中一緒にいても何も感じないのは、もはや才能だ。
あれほどグルグル巻きにされたまま生きていれば、普通の人間ならとっくに心身に異常をきたしているはずだ。そうならないのは、龍が加減しているからではない。グルグル巻きにされているからこそ、早乙女はなんとか普通に暮らせている。壊れた陶器の人形を両手で握って形を保つように、龍は早乙女を繋ぎ止めていた。
なぜ早乙女がバラバラになりかけているのか、なぜそれを龍が繋ぎ止めているのかはまだわからない。けれど、このままの状態がいつまで続くのかわからない。龍が気紛れを起こせば早乙女は壊れてしまう。そうでなくても、ふとした拍子に欠片がこぼれ落ちるかもしれない。
そうならないようにするために、龍が早乙女と自分を引き合わせたのかもしれない、と勅使河原は思った。
どのみち、いつかは早乙女のことも「視る」ことになるだろう。早乙女のためであれば、この力を使うことも悪くはなさそうだ。その肩慣らしとしては、今日の光景は楽しいものでは全くなかったけれど。
スマホをポケットにしまいこんでから、勅使河原は部屋を出る。その隣にあるランドリールームの中ほどまで進んで、周囲に固いものがないことを確認した。なるべく体の力を抜いて立つ。
「困るなあ……」
そう呟いたのと同時に、勅使河原は後頭部に「本当の」痛みを感じ、意識が途切れた。




