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憑かれた私と怪しい男  作者: 夏野 夜子
第2章 夏の影

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かげのおり14

「間取り図からすると、むこうがリビングとか客用のベッドルームで、あっちが風呂とか水まわり。どっちも事件の現場にもなったらしいとこなんで、僕と勅使河原さんで手分けして、キツネちゃんはどうする? 2階は特に何もないみたいだけど、もし怖かったら僕と来る?」

「2階を見てきます。早く終わらせたほうがいいので」

「じゃあ、きーやん付き添いでいいかな?」

「いえ、2人とも浦上さんと一緒にいてください。カメラで2階の部屋を撮ってくればいいだけですよね」

「うん、ざっと全体撮ってきてくれたらいいけど……本当にいいの? 怖くない?」

「大丈夫です」


 横瀬さんと木田さんは、霊感のある浦上さんと一緒にいたほうが安全そうだ。私は見えないからどういう状況なのかも把握できないのが不安だし、もし龍がびたーんびたーんして建物が倒壊した場合、どう説明したらいいかわからない。効率よく終わらせて外に出るためにも別行動したほうがいいし、生配信をしているカメラは浦上さんを追うものだけなので、別行動していれば変なことが起こっても大丈夫だ。

 勅使河原さんも同じ1階なら何かが起こっても駆けつけやすい。反対に、勅使河原さんの具合が悪くなっても男手3人分あれば運び出してくれるだろう。


「さお……キツネちゃん、大丈夫?」

「はい」


 横瀬さんから録画用のデジカメをもらって操作方法を教えてもらっていると、まだ若干顔色の悪い勅使河原さんが心配そうな顔で声を掛けてきた。

 まだ後頭部をさすっている勅使河原さんには、私よりむしろ自分の心配をしてほしい。


「上には行かないほうがいいけど……行くんだよね」

「はい」


 勅使河原さんは「ついていきたい……」と心配そうな声を出した。

 不安そうな勅使河原さんとは反対に、私はそれほど心配はしていなかった。


「勅使河原さん、大丈夫ですよ」

「いや全然大丈夫じゃないんだよ、さ……キツネちゃん」

「大丈夫です。もし本当に危ないことになるんだったら、勅使河原さんが私を止めないわけはないし」

「え」


 勅使河原さんが首を傾げたので、もうひとつのデジカメをセットしてから手渡した。


「本当に危険なら、この場で仕事を断って帰るくらいのことはしますよね。危ないけどそれほど危ないわけじゃなくて、むしろここにいたほうがいいような状況なんですよね」

「いや、まあ……早乙女さんは帰るなら帰ったほうがいいのは確かなんだけどね?」

「勅使河原さんがいるなら、私もいます。もし危ないことになったら、助けに来てくださいね」

「それはもちろんそのつもりだけど」

「じゃあ残ります」


 私が改めて言うと、勅使河原さんは眉尻を下げて微笑んだ。


「なんだかんだ言って俺のこと信用してくれてるのが嬉しいような心配なような」

「勅使河原さんのこと信じてますから。あと殺虫剤のことも」

「そっか。ものすごいかまってほしそうにしてるから龍のことも信用してるって言ってあげてくれないかな?」

「何事もなく無事に帰れたら考えます」

「一言だけでも言ってあげて。ものすごい見られてるよ。ガン見されてるよ」

「じゃああとで合流しましょう」


 懐中電灯を持ち、浦上さんにも声を掛けてから、私は右手側にある階段を登ることにした。コンクリートで作り付けられた階段はまだしっかり残っていて、昇るのに不安はない。


「キツネちゃんよろしくー。もし危ないことあったら僕らんとこすぐ戻ってきて。叫ぶだけでもいいから、すぐ行くからね」

「はい」


 手を振る浦上さんとその後ろのカメラに手を振ってから、一段一段をしっかり踏みしめて登っていく。懐中電灯のストラップに右手首を通して持ち、左手にデジカメを持つ。斜めがけのバッグは右側に移動させて、すぐに武器を取り出せるように開けっ放しにしておくことにした。


 階段は途中に踊り場を挟んで、L字に折れて2階と繋がっていた。劣化しているけれどカーペットが残っているので、足音はほとんど響かない。

 2段ケーキのように、この家の2階部分は1階よりも面積が小さく作られているようだ。浦上さんの説明によると、廊下の左右にそれぞれ2部屋ずつの合計4部屋とトイレ、それをぐるりと囲むベランダがあるのみらしい。


 その説明通り、2階に上がってすぐ見えたのは奥まで続く廊下だった。突き当たりに窓があるけれど、4つに区切る窓枠だけを残してガラスは割れていた。懐中電灯で照らした限り、動くものはない。


 ドアノブは5つ。

 私はひと呼吸おいてから、探索を始めることにした。

 最も近い場所にあったノブを握り、そっと開ける。トイレだった。

 懐中電灯で照らしながらデジカメを動かして全体を撮る。便器も壊れていて、棚だったらしい木の板がその上に落ちている。


 ふいにゾッと背筋が凍る感じがして、私は思いっきりドアを閉めた。


「……」


 見えてない。

 黒い影など、見えてない。


 私は必死に言い聞かせつつ、懐中電灯を右手から左手に移してデジカメと同時に構える。空いてた右手に殺虫剤を持って進むことにした。






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