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憑かれた私と怪しい男  作者: 夏野 夜子
第2章 夏の影
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かげのおり6

「へー、だから今日の龍は早乙女さんのことガン見してるんだね」


 今日は朝からご本人のお祓い希望のご依頼主宅に2件ほどお邪魔し、暑かったので事務所に戻って素麺を食べることにした。

 私は1束、勅使河原さんが2束で、向かい合う氷水のどんぶり2つの間に様々な薬味が並んでいる。ネギ、生姜、大葉、茗荷、刻み海苔を基本に、わさび、柚子胡椒、キムチ、梅干し、天かす、オクラ、いりごま、パクチー、茹でささみ、牛肉のしぐれ煮、サバ缶などなど。勅使河原さんは色々と取り揃えるのが好きなようだ。私は今までそうめんは麺つゆにつけてそのまま食べるくらいだったので、具沢山なそうめんが美味しいと知った。つゆのバリエーションを楽しむために小ぶりなそばちょこを沢山使ったけれど、事務所には食洗機という高級家電が付いているので問題ない。

 大葉たっぷりのそうめんをちるちる啜りつつ勅使河原さんが頷いている。


「そんなにガン見してるんですか」

「うん。何かもの言いたそうにしてる。すごい近いとこで見てる」


 ミシミシうるさい一晩が明け、通勤中にまた肩が重くなったので私は仕方なくコンビニに寄った。店内をひと回りしてみたけれど、結局何が目的で肩凝りを起こしているのかはよくわからなかったのだ。チロリアンチョコを買って出たけれど肩凝りは治らず今に至る。ちなみにチョコは朝勅使河原さんにあげたらとても喜んでいた。


「勅使河原さん、龍が何を言いたいのかわかりませんか?」

「いやー、俺は龍と会話できるような変態霊能者じゃないからね……うん、具体的に教えてくれないと伝えられないから。不満そうにこっち見られても困るから」


 龍が勅使河原さんをガン見することにしたようだ。勅使河原さんが顔を斜めに背けながら麺つゆにしぐれ煮とパクチーを入れている。私は肩がほんのちょっと軽くなった気がするので、できれば龍にはそのまま勅使河原さんをガン見しといてほしいと願いながら梅ささみで素麺を啜った。


「なんかあれじゃない? コンビニにヤバそうな怨霊がいてじっくりいたぶりたかったとかじゃない?」

「えぇ……近所に怨霊とかちょっとイヤなんですけど。お祓いなり何なりするなら勝手にしてほしいし……龍、伸びるんですよね?」

「伸びるよ。だいぶ」

「じゃあドラッグストアで喋ってる間になんとかしてくれたらよかったのに。昨日、殺虫剤探してたら偶然浦上さんと会ったんですよ」

「えっ?!」


 勅使河原さんが驚きすぎて咽せたので、黒豆茶を注いで近くに置く。


「いや待って……そっちの方が重大じゃない?! 先に話すべきじゃない?!」

「ただ会ってちょっと喋っただけですよ。駅前の高層マンションに引っ越したとかで」

「えええ」


 ドラッグストアでの出来事を勅使河原さんに説明する。といっても「偶然会って軽く事情を聞いて、連絡先交換して別れた」くらいしかないので説明は1分で終わった。


「ええー、浦上さんは噛んでないの? 俺にはめちゃくちゃ噛んでくるくせに?」

「噛んだかどうかはわからないですけど」

「うーん……なんか……うーん?」


 不満そうだった勅使河原さんは、私の頭の上を見て眉を寄せつつ首を傾げた。


「えー何その態度……よくわかんないなあ……」


 そばちょこを持ちながら首を傾げている勅使河原さんの方が客観的に見てよくわからない状況だけれど、勅使河原さんが怪しいのはもはや日常なのでスルーしておく。


「うーん……なんかよくわかんないけど早乙女さん、とりあえず依頼の日過ぎるまでは浦上さんと会う約束とかはしないでほしいなー」

「そもそもそんなつもりもないですけど。浦上さんって、何かワケありなんですか?」

「いやー、どうだろう。打ち合わせのときは普通に見えたけど」


 勅使河原さんは幽霊だの龍だのがよく見えるらしい。逆に全然見えない私が面白いらしく、何かが憑いている依頼人が来るとあとで「あの人こういうのが憑いてるよ」といちいち教えてくれるので、浦上さんに何かが憑いていたら昨日の時点で教えてくれたはずだ。

 何も憑いていないのに何か疑わしいことがあるのだろうか。


「よくわからないけど、なんか気に食わ……気になるからちょっと調べとこう。だから早乙女さんは会っちゃダメだよ!」

「会いませんって」

「連絡があったら俺に言うんだよ!」

「もう勅使河原さんがオススメの店教えてあげてください」






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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しいお話をしかも毎日更新でありがとうございます。 霊とかちょっと苦手なのですが、このお話で少し怖くなくなりました。 [気になる点] 「ネギ、生姜、大葉、生姜、茗荷、刻み海苔」 生姜…
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