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第二百五十一話 レオニール、また失敗する。




 逃げられた、とレオニールがはっきりと認識したときには、炎鳥は既に見えなくなっていた。

 向かった先には……


 「まさか、奴の狙いは…!」

 あちらの方向には皇城がある。最初から天使(と廉族れんぞくたち)の目的は、皇城を襲うことだったのか。


 「貴様ら、一体何をするつも………」

 しかし皇城というだけでは狙いは絞りきれない。皇帝かもしれないし、ただ人の多いところで騒ぎを起こしたかっただけかもしれない…いやいやそれだけのために精霊召喚までしようというのは大げさすぎる。

 おそらく、最初から自分を犠牲にする予定ではなかったのだろう。というか普通、召喚儀式に術者を贄にすることはない。

 が、レオニールに妨害を受けたことによりこれ以上の任務の遂行が難しくなってしまった。未完了の術式を強引に終わらせるために、自身の命を捧げるしかなかったのだ。


 そして、そこまでして成し遂げたかった目的が、ただ騒ぎを起こすため…のはずがない。


 これはいよいよ尋問を…と廉族れんぞくの方を振り向いたレオニールだったが。



 「………逃げられた…」


 レオニールが精霊に気を取られている隙に、影も形もなくなっていた。

 いくら注意が逸れていたとはいえ、気付かれることなく姿を消すとは流石……ってそんな感心している場合ではない。


 自分の失態はひとまず脇に置き、レオニールは皇城へ向けて走り出した。

 



◆◆◆◆◆◆◆◆




 大通りを駆け抜けながら、レオニールはやけに視線が自分に突き刺さってくることに気付いた。

 どういうことだろうか。花火の終了と共に祭もあらかた終わったようだったが、まだ営業している露店もあるし人々の流れも先ほどと大差ない。

 なのに、行きとは違いレオニールを見た人々が驚いた顔をして次々に脇へ寄り道を空ける。

 走りやすくて助かるのだが、何だか気色悪い。どうして彼らは皆、目を丸くしているのか。


 

 「あらぁん、レオちゃん!もう!勝手にいなくなったらダメでしょぉん!!」

 そんな彼の足を止めたのは、ヴォーノの叱責だった。

 「勝手にいなくなったのは貴様の方ではないか!一体今までどこに……む」

 レオニールにとってヴォーノが必要か否かという点でいえば確かに色々とまぁ必要でないとは言い切れなかったりするのだが本心ではそれを認めたくない。

 認めたくないのだが、迷子の濡れ衣を着せられるのは我慢ならない、とヴォーノに責任を押し付けようとするレオニール。

 しかしその直後、ヴォーノの横に立っている人物を見て怪訝に眉をひそめた。


 レオニールの露骨な表情変化には全く頓着せず、その人物は明るく朗らか爽やかに軽く手を挙げて笑顔を見せる。

 「やぁ、レオ。ヴォーノさんに聞いたよ、君、大道芸の才能あるんだねぇ」

 

 それはVCRCのメンバー、ラス=クーリェだった。


 「…にしても君、大丈夫?何があったの?火気を使う見世物は許可制だけど、ちゃんと取ってる?」

 「………………?」

 心配そうにラスが訊ねてくる意味が分からない。首を傾げるレオニールに、ラスはラスで「こいつ大丈夫かな」的な表情をいよいよ強める。


 「それともどこかのサーカスで火の輪くぐりでもしたわけ?なんでそんなに黒焦げになっちゃってるのさ」

 「…………………」


 そこでレオニールは、自分が今の今まで着ぐるみだったことに…正しくは着ぐるみだったのを忘れていたことに気付いた。同時に、天使の【来光断滅ディミオ・ネメシス】のせいで自分が明るい茶色ライトベージュのクマから焦げ茶ダークブラウンのクマへと変化してしまっていることにも、気付いたのだった。



 レオニールがラスに釈明せず黙りこくってしまったのは、決して気付いてから猛烈に恥ずかしくなったからではない。いくらシリアスに天敵と死闘を繰り広げていた自分が着ぐるみのままだったからとはいえ、そんな小さなことに拘る男ではない。

 それはあくまでも、そう、あくまでも、VCRCの一員であるラスにそのことを知られるわけにはいかないとかなんとか、そんな理由なのである。

 

 



◆◆◆◆◆◆◆◆




 「なぁ、エルネスト…さん」

 「はい何でしょう?」


 恐る恐る尋ねるマグノリアに、ニコニコと緊張感のないエルネスト。台詞の物騒さと平静な態度が全く釣り合わない。魔族ってのはみんなこんななのか、天界と一悶着あるかもとかいう状況も魔族にとっては日常茶飯事だったりするのか。

 いやいやそうじゃなくてちょっと大げさに言っちゃっただけで実際はそんな大事じゃなかったりするのかも。

 …とマグノリアは思ったのだが。


 「その……一悶着ってのはアレか?なんかクレーム入ったりとかそんな感じの…?」

 「なわけないでしょう。我ら魔族が天使共と「一悶着」と言えば、戦のことに決まってるじゃありませんか」

 「……決まってんのか…」


 やっぱり、物騒極まりなかった。

 

 「ちょ、ちょっと待ってくれ、流石にアタシらだけで聞いていい話じゃない。教皇聖下も一緒に…」

 「あ、あの人は知ってますよ、もう」

 「知ってんの、もう!?」


 あっけらかんと言うエルネストに、マグノリアは思わずツッコんだ。いくらなんでも情報が行くの早すぎだろう。それほど教皇は魔王から目を掛けられているということか。


 「もともとあちらの方から陛下へ人員派遣の依頼がありましたからね。で、まぁ色々ありまして私が赴くこととなったのですが、その際にこちらで掴んだ情報もありまして」

 「…それが、その……天界となんちゃら?」

 「はい、天界と一悶着、ですね」


 何度聞いても、逃げ出したくなる案件である。

 というか、いい加減普通の遊撃士の身の丈に合った生き方をさせてほしい。魔王の復活だけでもキャパオーバーだったのに、お次は天界ですかそうですか。神サマは(って魔王サマもかもしらんけど)これ以上自分に何の試練を与えようってんですかねもうほんとに。


 …などなど現実逃避気味に内心で愚痴りまくるマグノリアだったが、同時にそんなことをしていても状況は何も改善しないということも分かっていたので…悲しいかなそこで理性が働いてしまうのだ…とりあえず話だけでも聞いておくことにする。


 「具体的には何が想定されるんだ?その、戦なら戦でどのくらいの規模になりそうなのか。あと、アタシらはそれを聞いて何をすればいいのか」

 冷静に状況を見定め自分の立ち位置をはっきりさせようとする(あときちんと自分の分を弁えてる)マグノリアに、エルネストの笑みは深くなった。どうやら彼に好印象を与えることには成功したらしい。

 「まず最初に申し上げておきますと、あくまでも一悶着の()()()、です。絶対にそれが起こると確定しているわけではありません。それと、全面戦争にはなりませんよ、多分ですけど」

 「その多分ってのがめちゃ気になるんだが……まぁいいや。その根拠は?」

 聞き捨てならない単語を追及したいとも思ったが、どうやらエルネストの呑気さはそのあたりからくるものではなかろうかと思い、先を促す。

 「根拠としては、簡単です。天界の最高責任者は魔界に敵対することを望んでいませんので」

 「………?」

 何故、天界のことを魔族であるエルネストが断言できるのだろう。

 それはセドリックも同意だったようだ。ようやく衝撃から立ち直ったのか、それでもまだ青い顔で

 「なんであんたらにそんなことが分かるんだ?」

 …それは、見方によっては相手の気分を害しかねない質問だった。

 しかしエルネストは全く気にする様子もなく、にこやかなまま。これは寛大だとか性格が穏やかだとかそういう類じゃなくて多分この人は怒っててもこんな感じなんだろうなーと、マグノリアは思った。


 「現在、天界は皇天使により統治されております。で、その皇天使はまぁ、天使の割には話の分かる御仁でしてね、魔王陛下に対しても一定の敬意は払っているようでして。というか、魔王陛下の御力と卑小な自分たちとの差をよく弁えていますので、天界の総力を挙げて魔王陛下の意に背くような愚かな真似はしないでしょう」

 めちゃくちゃ天使ディスのエルネストだが、マグノリアもセドリックも反論できない。

 天使=善で魔族=悪、の世界でずっと生きてきた二人にとって、その大前提が崩れたのはつい最近のこと。やはり無意識下では天使側に寄ってしまうのだが、しかし目の前にいるのが魔族と魔王子だったりするので天使の肩を持つわけにもいかない。


 「ですが、残念なことに天界は未だ聖戦の混乱から抜けきっておりません。中には、皇天使の支配を逃れようとする派閥もあるとか」

 「そいつらが、一悶着の相手…?」

 「ご理解が早くて助かります」

 エルネストはますます上機嫌になった。ずーっとご理解が早くないどこかの魔王子に仕えていたおかげで、スムーズな意思疎通が図れることが嬉しかったりする。

 が、そんな苦労性な側仕えの本音など、マグノリアには知る由もなかった。


 


 


 

 


そういえば【来光断滅ディミオ・ネメシス】って前作でベアトリクスの最終奥義的な位置づけで使ってたんですけど、魔王には全然ダメージ与えられてなかったので大したことない感じになっちゃってましたが、けっこうすごい術式だったりします。ほら、回復要員の唯一の攻撃魔法がめっちゃ強力っていうパターン。

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