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第二百三十二話 目的と手段なら大事なのは目的だけど必要なのは手段だったりする。



 「……で、まずは何をどうするんだ?」

 「………………?」


 城外へ出たハルトとマグノリア。

 高い城壁を背に、さあこれから行動開始!なわけなのだが…


 マグノリアに問われたハルトは、キョトン、と首を傾げた。


 「………………」

 「…………………?」


 マグノリアは待つ。とりあえず、待ってみる。ハルトの口から計画的で建設的な考えが出てくるのを、まぁ半分くらいは諦め混じりで、それでも形としては待ってみる。



 空の高いところで、甲高い鳴き声がした。どこか物寂しげなその声は冬の始めの乾いた空気に染みわたるように広がり、消えた。

 仲間からはぐれた渡り鳥が、往く宛を無くして嘆いているのだろう。


 「………………」

 「…………………??」


 マグノリアは、もう一息だけ待ってみる。淡い期待を抱いて待ってみる。成長したこの愛弟子ならば、きっともしかしたら、いやひょっとして万が一、行き当たりばったりではなくきちんと考えているのかもしれない。


 「………………」

 「…………………? ??」


 

 …分かってはいた。分かっているつもり…否、分かっているはずだった。あらゆる意味で、彼女の弟子は彼女の想定を裏切ってくれる可能性の持ち主なのだと。

 分かっていたので、怒りはなかった。というか、今さら怒ったところで意味はない。彼女のバカ弟子は、他者から怒られたくらいでは学習しない。反省するのもその場限りで、すぐに同じことを繰り返す。

 剣を持たせれば一人前と呼べるほどに成長したって、中身はずっと変わらないままなのだ。


 だから、怒りはなかったが盛大な溜息が出た。


 「……あのなーーー」

 「……え、え、何ですか師匠?」

 

 どうやらハルトは、マグノリアが自分に呆れかえっているというところまでは理解しているようだ。それでも充分な成長だ結構結構。

 しかしマグノリアが自分の()()対して呆れているのかが、見えていない。何故、自分が呆れられているのか、分かっていない。


 「お前さ、何しに城の外に出たよ?」

 「それは勿論、メルセデスを探すためです!!」


 …ここまでは、歯切れも良いのだが。


 「…………で?」

 「…………で…?」


 その先が進まない。まさか名前を呼びながら街中練り歩けばメルセデスが空から降ってくるとでも思っているのかこのバカ弟子は。


 「目的はいいんだよ目的は。んなもんは最初はなから分かってる。そうじゃなくて、これからどうするのかって話」

 「だから、メルを探すんで…」

 「手段を聞いてるんだよ手段!方法!目的を達成するための方針!どうやってメルセデスを探すのかっていう方策!!」


 そこまで言われて、ようやくハルトはハッとした。ハッとして、

 「どうやって……探せばいいんでしょう!?」

 大真面目な顔で言った。

 やはり、何も考えていなかったようだ。


 手段のない目的など、ただの願望に過ぎない。今のハルトは、「メルセデスを探す」ではなくて「メルセデスに逢いたいなー」でしかないのである。


 「……考えてなかったのか?」

 「う………はい……」


 詰問調のマグノリアの視線に、ハルトも流石に居心地悪そうに身を竦ませた。これでケロっとしていたら拳骨を落としているところだ。


 もう一度、溜息。それで自分のモヤモヤをリセットして、マグノリアは手近なところにハルトを座らせた。

 「あのな、目的には手段が必要だろ?」

 「………はい」

 「手段がなくちゃ、目的は果たせない……だろ?」

 「………はい」

 「だったら、今のお前が何をしなきゃならないか、分かるか?」

 「え…メルを探すこと……じゃなくて!その、あの、どうやってメルを探せばいいのか、考える…こと……です…?」


 マグノリアにお伺いを立てるように上目遣いで尋ねるハルト。マグノリアに尋ねてどうするという話だが、ようやくそこまで辿り着いたので及第点を与えることにしよう。


 「そうだな。んじゃ、どうすればいい?メルセデスは、放浪癖のある根無し草だ。世界中あちこちうろつき回ってるから、当てずっぽうで当たってもまず捕捉出来ない」

 「……えっと…………」

 「で、お前はもともと帝国に来るつもりだったんだよな?使節団のこと関係なしに。それはどうしてだ?」


 待っているだけではいつまでもハルトの思考が進まないので、懇切丁寧にリードする大甘な師匠だ。


 「えっと、えっと……最後にメルに会ったのが帝国ここだったので、ここから足取りが追えないかなーって……」

 「そう、そうだな。それじゃ、どうやって足取りを追う?匂いでも嗅いで追跡するか?」

 「いやだなぁ師匠ってば。狼じゃないんだからそんなこと出来るはずないじゃないですかアハハ」

 「……………」


 嫌味の通じない弟子である。


 「じゃあ、どうする?帝国中をうろつくのは「足取りを追う」とは言わないぞ」

 「………えっと……」


 また答えに窮してしまった。どこまで考え無しなのだろうかこのバカ弟子は。


 「……はぁ。あのな、人探しの基本は、聞き込みなんだよ」

 「ききこみ?」

 「メルセデスが関係していそうな相手に、片っ端から話を聞くんだよ。メルセデスを見てないか、あいつの動向を耳にしてないか、どこかで噂を聞いてないか」

 「けど、関係していそうな相手って言っても……誰がそうなのか、ボク知りませんよ?」


 泣き出しそうなハルトに思わずほだされそうになるマグノリア。だがここで負けてはいけない。自分をしっかりと保ち、厳しい(?)師匠を貫くことにする。


 「誰がって……お前さ、メルセデスが何なのか、忘れてたりするのか?」

 「え?メルは………あ、そうか、遊撃士ギルド!」


 ここまで来てようやく、答えに辿り着いたハルト。一瞬表情が明るくなって、しかしすぐにトーンダウンする。


 「けど……帝国のギルドって、ボクたちが所属してるのとは別の組織なんですよね?」

 「おう、それは覚えてたか、上等上等。まぁ確かに別組織…つーか帝国の遊撃士ギルドは国際ギルド連盟に加入してないからな、アタシらと直接の繋がりはない」

 

 現在進行中の審議の中でそれも議題には上がっている。国交正常化が無事に終われば、おそらく帝国内の遊撃士ギルドも国際ギルド連盟の傘下へ入る…もしくは連盟と提携することになるだろう。

 しかしそれはまだ先のことであり、現時点でハルトたちは帝国内の遊撃士ギルドでは仕事の斡旋や情報提供を受けることが出来ない。


 …が、それはあくまでも遊撃士として活動することが出来ない、という話であって。


 「けどな、遊撃士ってのは結局、遊撃士なんだよ」

 「………?」

 「もともと、王侯貴族に仕えたり国に所属したりって堅苦しいのは御免だっつー人種だ。だからアタシら遊撃士は帰属意識が薄いし、国の垣根ってのもあんまり感じない。裏を返せば、帝国の遊撃士やギルドにとってアタシらは、外国人である以前に遊撃士仲間ってわけ。実際、アタシも帝国出身の遊撃士の知り合いがいたりする」

 「……………仲が悪いわけじゃないんですか?」


 かつて帝国はサイーア公国と緊張状態にあったと聞いているので、てっきり国民同士も仲が悪いのかと思ったハルトだったが。


 「少なくとも、遊撃士同士はそうでもないわな。個人差はあるだろうけど…ま、ここのギルドでも間違いなくメルセデスは有名人だし、アタシらが話を聞きに行って門前払い食らうことはないさ」


 遊撃士にも出身地というものはあり、従って必ずどこかの国に属しているわけだが、それはあくまでも身分という書類上の話。

 国を跨いで活動し、王ではなく自分のために戦う無頼の徒には、国籍などただの文字の羅列に過ぎない。いくら国交が断絶されていたとしても、マグノリアたちが帝国内に入り込めたように、完全に人の流れを断ち切ることなど不可能だ。

 武者修行と称して帝国内の遊撃士が外に出てみたり、或いは同じように外の国の遊撃士が帝国に侵入したり、非公式な場では案外に出入りが活発だったりする。だからこそ、マグノリアたちも仲介屋を通して帝国に侵入することが出来たのだ。


 「ま、論より証拠ってな。まずは帝都のギルドに行ってみるぞ」

 「はい!」


 調子のいいもので、ほとんどマグノリアに正解を教えてもらった形のハルトは俄然張り切って返事をした。

 帝都ヴァシリーサには、帝国遊撃士ギルドの本部がある。則ち、帝国内で最も多く遊撃士が、そして遊撃士絡みの情報が集まる場所である。

 マグノリアとハルトの師弟コンビは、城門からまっすぐ城下町へと延びる大通りを下りて行った。




めっちゃ久しぶりの更新です。

なんかこいつら、帝国に入ってから全然動いてくれません。困った。

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