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第二百二十八話 デート服の気合の入れ具合って加減が難しいよね。




 ところで例の「市民団体」の件なのだが。

 教皇グリード=ハイデマンの判断は、自分の方から皇帝へと告げるからハルトたちは余計な真似をしないように、というものだった。

 皇帝はハルトの正体を知っているのだししかも心酔しているのだし、どうせ同じことを伝えるのだったらわざわざ遠く離れた地にいる教皇からでなくともいいはずだが、そこはそれ、間違いなくただの報告・警告ではないのだろう。

 そういった駆け引きに関しては教皇に全幅の信頼を寄せているマグノリアなので、その判断に異を唱えることはしなかった。他の面々も同様だ。面倒なことは、面倒なことが得意なお偉いさんに任せておけばいい。


 ハルト大好きな皇帝であるので、教皇から不法侵入者がハルトに接触したという話を聞かされれば黙ってはいないと思われたが、予想に反して皇帝の反応は淡泊なものだった。自分の管理下で起こった不始末を謝罪はしたしそれは本心からのようだったが、いつものように興奮状態で口上を述べ立てたり大袈裟なほどにハルトに執着するようなことはなかった。

 しかしながら何か必死に抑えているような感じがすることから、そのあたりも教皇との「駆け引き」が影響しているものと思われる。


 ともあれ、これで夜な夜な招かれざる客に安眠を妨害される心配はなくなった。城の外も中も警備が厳しくなったので、そうそう簡単には侵入できまい。それに、夜はマグノリアがハルトの部屋に張り込むようになったので、万が一テオ少年が警備を突破したとしてもハルト一人で対峙することは避けられる。



 魔獣襲撃の件は帝国が捜査を続けているし、今のところは貴族派からしつこいアプローチも見られない。調印式を除けばそれなりに平穏に順調に、日程は進んでいった。


 「……で、お前はこれからデートなわけだ。皇弟殿下と」

 「だからデートじゃないって言ってんでしょ!超優秀な魔導士である私に是非有効活用してもらいたい文献があるからって、そう言われたら断るわけにはいかないじゃない」


 皇弟にはああ言ったが、ほんの僅かでも脈はあったりしないのかなーと揶揄するように尋ねたマグノリアに対し、アデリーンは憤慨しつつもまんざらではないようだった。まんざらでもないのは、デートのお誘いではなく超優秀と呼ばれたことに対してだ。

 何故なら彼女は、見事なまでに普段のとんがり帽子に黒法衣だったのだから。


 「アデルさん、デートだったらもう少し可愛い格好すればいいのに…」

 「だからデートじゃないってさっきから何回言えば分かるわけ?口ん中に雷撃ぶち込まれたくなければ黙ってなさい」

 「…………((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル」


 非道極まりない脅しでハルトを黙らせたアデリーン。マグノリアは、まさかとは思うが一応は念のため…と注意事項を告げることにした。


 「おいアデル、殿下には絶対に絶対にそういうの却下だからな。実際にやらなくても、口にするのもダメだからな」


 皇族相手にそんな口を聞いたものなら、不敬罪確定である。例えラーシュが許したとしても、他の誰かが聞いていたらタダでは済まされない。

 注意されたアデリーンは、そんな心配性なマグノリアに呆れたように笑った。


 「何言ってんのよそんな子供じゃないんだから分かってるわ。いくらなんでも私にだって常識ってのはあるわけ。ハルト以外にそんな真似しやしないわよ」

 「なんでボクだけ例外なんですかぁ!」


 やっぱりハルトに非道な言葉を残して、アデリーンはラーシュとの待ち合わせ場所に出掛けていった。

 なお、さも当然のようについていこうとしたハルトだったが、マグノリアがそれを止めた。こういうことに部外者が首を突っ込んではいけないのだ。例えラーシュが玉砕しようが本懐を遂げようが、アデリーンが彼を拒もうが受け容れようが、それは二人だけの問題なのだ。

 何かトラブルがあったときにその場にいたという理由で巻き込まれるのが嫌だから…だなんてことではない。断じて。



 「さて…っと。アデルも行ったし、アタシらはどうすっかな」

 「ボク、メルセデスを探しに行きたいんですけど」

 「いやいやいやいや、それはちょっと……」


 一見暇な二人だが、そして事実として暇なのだが、流石に他の使節団員たちが闊達な議論(?)を交わしている真っ最中にフラフラ遊び歩くわけにもいくまい。ハルトに言わせれば決して遊びではないと力説するのだろうが、傍から見れば好きな女を追っかけ回すのは十分に遊びの範疇に入る。

 気持ちは分かるが、全日程が終了し使節団員たちが帝国を去ってから思う存分にメルセデスを探し回ればいいだけのこと。

 …尤も、その時点で彼女が帝国内もしくは近隣にいるかどうかは定かではないが。


 「えー、でもどうせやることないんですよ?だったらいいじゃないですか」

 「だってお前、それって城内から外に出るってことだよな?流石にそれはマズいだろ」


 使節団員たちは皆、国や聖教会を代表して帝国へ来ている。一応は、ハルトだってそういうことになっている。

 彼らは帝国から見て、あくまでも「外国の使臣」に過ぎず、自由な行動を許された観光客でも帝国民でもない。城内でも立ち入ることの出来る場所は限られているし、帝国家臣との勝手な会合も許されていない。城外に出るなんて以ての外だ。

 確かにハルトは皇帝に特別扱いされているわけで、城内を好き勝手に歩き回り自由にしていても咎められることはないだろう。家臣が皇帝の許可を得ずにハルトに近付いた場合も、皇帝が罰するのは家臣の方でハルトを責めることは決してないと言い切れる。魔王崇拝者である皇帝にとってハルトは神も同然で、その行動を制限することなど出来はしない…と皇帝は考えている。

 …が、それは皇帝とハルトの二人だけの間の事情であり、周囲からすれば両者はあくまでも帝国の君主とルーディア聖教会の懐刀、でしかないのだ。

 

 だからマグノリアが弟子を止めるのは至極当然の道理、なのだが。


 「……なんでマズいんですか?って言うか、何がマズいんですか?」


 ハルトは、本気で訊いている。駄々をこねているだとかマグノリアを言い負かしてやろうだとかそういう意図はない。


 「え、いや…マズいだろ。自由行動が許されてないのにフラフラしてたら、周りに何言われるか分からないぞ?」

 「別に…何か言われても困らないですけど」

 「……え」


 弟子に平然と返されて、言葉に窮する師匠。


 「い、いや、だからな、お前は一応、聖教会の代表の一人として来てるんだから、それなりの振舞いってのを求められてるわけだ。礼儀とか規則とか破ると、聖教会にも影響が来るんだぞ」


 聖教会の代表ということは、今のハルトの言動行動が聖教会の意志と見なされるということ。だから下手なことは出来ないし、迂闊なことは言えない。


 「でもそれ……ボクは別に困らないですし」

 「……………」

 「だって、教皇さんが勝手にボクのことを特使にしちゃったんだし、ボクがそこまで気を使う必要なんてないかなーって」

 「…………いや、まぁ、それは……そうかもしんないけど…」


 言われてみれば、一理なくもない、かも。


 「別に悪いことするって言ってるわけじゃなくて、ただの人探しですよ?なんなら皇帝さんに許可も取ればいいんですよね?」

 「え、いや、許可って、そんなの通るわけが…………あるか」


 あの皇帝なら、ハルトの我儘は何でも聞いてしまいそうな気がする。

 結局のところマグノリアが気にしているのは外聞的なものであり、確かに使節団の体裁やら聖教会の体面やらはハルトにはどうでもいいことだろう。

 そしてそれは実のところ、マグノリアにしても同じことで…


 「どうせ暇なら、時間を有意義に使いたいじゃないですか。それに出来るだけ早くメルに逢いたいですし」

 「………うぅーん……っつっても、なー…」


 メルセデスに逢ってどうする、という問題はハルト自身のものなので置いといて、メルセデスの動向を把握しておきたいというのはマグノリアも同感である。

 弟子の恋心を後押ししてやりたいとかそういうわけではなく、彼女が気にしているのは以前の魔王との遣り取りだ。

 具体的な確信はないようだったが、魔王はメルセデス=ラファティに何か引っ掛かりを感じているようだった。

 第一等級遊撃士ともなれば、廉族れんぞくレベルで言えば英雄連中を除いて最強クラス。故に何処ぞの王族らが気にするとすればそれほど驚くことでもないのだが、それでも魔王のような超常の存在からすればその程度、他の廉族れんぞくと何ら差を見い出せなかろう。

 にも拘らず魔王が気にしているということは、遊撃士としての等級とは別にその要因があるということ。そしてそれは、魔王が気にするようなレベルのものである、ということ。

 今まで何度かパーティーを組んで、とにかく強いという以外にメルセデスに対する印象はなかったのだが、しかしもしかしたらハルトがメルセデスに惚れ込んでいるのだって、彼女には強さ以外の何かがあるから…かもしれないとも考えると。


 「……うーん……そうだなぁ……………よし分かった。ただし、皇帝陛下に許可を貰ってからだ。あと、教皇聖下にも状況は伝えるけどいいな?」

 「……別に、構いませんけど…」


 構わない、と言いつつハルトはどこかしら不満げだ。おそらく、どうして自分の行動について他人にお伺いを立てないといけないのか、と思っているのだろう。

 それでも意地を張らない辺りは、素直な弟子で結構。


 

 何はともあれ、皇帝がハルトの行動を制限するはずもなくあっさりと許可は下りた。

 考えてみれば、遊撃士の仕事の中には人探しというものもあったりする(頻度は少ないが)。今までハルトには荒事ばかり教えてきたマグノリアだったので、これを機に探索や素材収集のノウハウも教え込んでおこうとも思った。

 

 正直、戦闘技能に関して言えばマグノリアがハルトに教えることはもうない。策を弄さずに正面から当たれば、おそらくハルトの方が強いだろう。

 普通は、戦闘技能とそれ以外の知識・技術は比例するものである。どちらも、経験により積み重ねるものなのだから。

 しかしひどくアンバランスなハルトは、戦闘技能ばかりが突出していて、あとはさっぱりだ。基本のキ…依頼の選び方や前準備の大切さなどは一応教えてあるが、例えば力押しではない駆け引きだとか、効率的な魔導具の使い方だとか。それらは一見地味だが、活用次第では大きな力の差を覆す一手にもなりうる。

 魔王子ならではの高い基本スペックを持つハルトがそれを必要とすることはないかもしれないが、万が一力に頼れないような事態に陥ったとしても知識があればそれを打開することも出来るし、何より遊撃士として必要な技能・知識は全て教え込むのがマグノリアの師としての拘りだ。必要ないだろうから教えない、だなんて手抜きは自分自身が許せない。


 まぁ結局はそれもマグノリアの過保護に過ぎなかったりするのだが、自分は責任感ある師匠なだけだと思っている彼女には、自分のそのスタンスがかつてマグノリアを指導したレナートと全く同じものであるということには、自覚がなかった。

 


 


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