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第二百十九話 宗教とプロ野球って似てる。




 「本当に、すまなかったね…あまりの衝撃に我を失ってしまって……」

 「…………はぁ」


 本気で申し訳なさそうに、しかしなおも興奮冷めやらぬ様子で謝罪するラーシュ皇弟殿下に対し、アデリーンはものすっごく冷たい返事。


 ここは、ラーシュの私室である。是非話がしたいと、お近付きになりたいと、彼がアデリーンとあとついでにハルトをご招待くださったわけだ。

 で、部屋に来るまでの間もずーーーっと彼はアデリーンの美しさ麗しさ素晴らしさについて熱く猛烈な勢いで語り続け…それはメルセデスに対するハルトもかくや、の熱烈さで…、アデリーンは一応立場のこともあって多少は我慢しているようだったがいい加減イライラしてきたのが傍目にも明らかだったし、ハルトはハルトで自分のことは棚に上げてラーシュにドン引きしていた。


 で、部屋に着いて多少は落ち着いたラーシュが淑女(淑女…?)に対する不躾な振舞いを詫び、彼としてもみっともなくがっついては落とすものも落とせないと気付いたのかここいらで一旦仕切り直すことにしたようだった。


 …仕切り直したからといってアデリーンが彼に靡くかどうかは、ちょっと疑わしかったが。



 「それで、アデリーン嬢。帝国はどうだい?楽しんでくれてるかな」

 「いえ、楽しむも何も、仕事なんで」

 「ああ……うん、そうだね……」


 アデリーンが、容赦ない。相手は皇弟殿下だというのに全く忖度しない。遠慮もおべっかも諂いもない。流石は“隠遁の魔導士”…と言いたいところだが、彼女がここまで冷たい態度なのはラーシュが気に喰わないからに他ならない。


 アデリーン=バセットは、興味の無い他人には無関心である。が、無関心なだけで特に対応が冷たいとか敵意を向けるとかいうことはない。が、ラーシュに対してはどう見ても、無関心では済まない氷の冷たさがある。


 「仕事……ハルトの護衛、なんだっけ?すごいね、その若さで公爵家の直属魔導士だなんて」

 「別に直属じゃありませんけど」

 「ああ……そうなんだ…」


 口調だけでなく、表情も冷たい。視線を合わせることすらしない。ハルトですら見ていてラーシュが不憫になってくるほどだ。


 「あ、ええと……ハルトとは長い付き合いなのかい?」

 「別に長くも短くもないです」

 「ああ……そう………………その、彼とはどういう…」

 「それ、殿下には関係ありませんよね」

 「……うん……そうだよね…………」


 必死に会話を繋ごうと足搔くラーシュだが、アデリーンはそれを許さない。


 

 しかしこれだけつれなくされて諦める様子のないラーシュも流石だった。と言うか、ここまで無礼な態度を取られて腹を立てないのが驚きだ。いくら彼がカジュアルな皇族といっても(なんだそりゃ)、平民にここまで気を使ってそれを無下にされて、普通だったら不敬罪ものだろう。

 

 それでも、だんだん形勢が怪しくなってきた。話題がないのだ。

 ラーシュはアデリーンのことをほとんど全く知らないし(ハルトの護衛として使節団入りしたということくらい)、アデリーンもラーシュのことをほとんど全く知らない(皇弟ということくらい)上にどうでもいい。

 ラーシュとしては共通の知人であるハルトの力を借りなければこの窮地は逃れられないと察したようで、さっきからハルトにチラッチラと視線を送ってみたりしているのだが、不運なことに救援要請を出す相手がハルトでは、それも徒労に終わる。


 無駄な足搔きを続けることしばし、ラーシュは直接アデリーンを攻略するのを中断した。あまり押せ押せでは女性に引かれてしまう。もう少し時間をかけて、じっくりと自分のことを知ってもらおうという腹である。

 何せ、彼は皇族。皇帝に嫡子がいない現在、第一皇位継承者であり、皇帝に次ぐ地位の持ち主。身分に加えて文武両道に優れ外見もファンクラブが出来るほどに整っている。要するに、超優良物件なのだ。

 そこは彼も自覚しているところなので、そこまでの焦りはない。皇族に迫られて嫌に思う女性など彼は今まで出会ったことがないし、今は熱烈なアプローチに面食らっているだけで時間をかければ絶対に自分の魅力に気付いてもらえると信じている。

 問題は、アデリーンが彼の知っている世間一般の女性とは些か感性を違えている変わり者だということなのだが、彼はまだそこには気付いていなかった。


 …ので、話題の転換を図る。


 「そうそう、昨日はすまなかったね、ハルト。そして助かったよ、ありがとう」

 

 昨日の魔獣襲撃の際、彼もまた調印式に参列していた。一早く城内に避難したものの、一部始終は目撃している。

 

 「それにしても……君には驚いたよ。あれは、魔導の一種なのかい?」

 「え、あー……ちょっと違う…かな。うちに代々伝わる奥義…みたいな感じ」


 カノッサにしたのと同じ説明をラーシュにもするハルト。詳しくツッコまれると説明のしようがない。

 ラーシュは、ハルトが魔王子であると知らない。皇帝は、弟にさえ告げていないのだ。

 或いは…弟だからこそ、告げていないのかもしれない。


 自分の出自に関することには慎重なハルトなので、自分からそれを明かそうというつもりは今のところなかった。

 

 「奥義?なんだか格好いいね、そういうの!ハルトは小さい頃から鍛えてたの?」

 「ううん、そんなことないよ。遊撃士になったのもつい最近だしさ」

 「え……本当に!?」


 ハルトの返事に、ラーシュは本気で驚いた。それも宜なるかな。ハルトの動きは、()()()()()を別にしても新人のものではなかった。幼い頃から鍛錬を重ね、数多くの戦場を経験してきたと言われてもおかしくないくらいに。

 

 「そっか……それはほんとに、凄いな……やっぱりあれ、英雄の血筋ってやつ?」

 「んー…どうなんだろう。そんなことよりさ」


 ハルトは話題を変える。あまり血筋がどうのと言われると説明がしづらいし、あまり面白くもない。


 「昨日の魔獣、何か分かったの?」


 魔獣については、帝国が調査することになっている。皇弟であれば、捜査状況も知っているだろう。

 …とハルトは思ったのだが、ラーシュは首を横に振った。


 「いや…今のところは、何も。今回の件、反対してる連中を片っ端から調べてるみたいなんだけどね、まだこれといって手掛かりは掴めてないんだ」

 「………けどさ、あの魔獣って…帝国で作られたもの、なんだよね?」


 ハルトの問いに、ラーシュが目を見開いて固まった。


 「それ……知ってたのか」

 「え、あ、あー……うん、まぁ、ちょっと………そういう噂?を聞いたような……」


 帝国による人造魔獣計画は、公表されていない。勿論、一部の国家上層部ではそれらしき噂がまことしやかに囁かれていたりもするが、それはよくある陰謀論と似たり寄ったりの胡散臭い噂に過ぎず、そしてそれが事実だと掴んだ聖教会も敢えて白日の下に晒そうとはしなかった。

 そんなことをしても徒に混乱を引き起こすだけだということと、帝国に対する貸しにしておくためである。


 「そうか……うん、それじゃ、誤魔化すわけにもいかないよな」


 ラーシュの表情が曇った。


 「そう、あれは……兄上たちが進めていた計画で作り出された個体の一つ…で間違いないと思う」


 その口振りに、引っかかるものを感じるハルト。


 「もしかして、お兄さんのこと疑ってる?」

 「いや、まさか!国交樹立を誰より望んだのは兄上だ、それなのに式を妨害するはずないじゃないか!」


 慌てて否定するラーシュだが、兄が完全に無関係だと信じている…わけでもなさそうだった。


 「ただ……兄上の周りには、自分たちのことしか考えないハイエナのような連中も多いから……」


 果たしてラーシュは、自分の周りも()()である可能性に思い至っているだろうか、彼の表情からは分からない。


 「その、なんて言うか……ほら、うちの国って魔神教を国教にしてるじゃない?」

 「へ?……え、あ、あーーー、魔…神……………ああ魔王崇拝ってやつ?」

 

 初耳な宗教名が出てきて思いっきり戸惑うハルト。なるほど帝国では、魔王ちちを崇める教えのことをそう称しているのか。なんだか安直というか捻りもへったくれもないネーミングだが、それはまぁいいだろう。

 それはいいのだが……何故だかラーシュの口振りは、まるでそれを歓迎していないかのようだ。


 「うん、そうそれ。魔王崇拝。……けどさぁ、僕はそれ、どうなのかなーって思うんだよね」

 こんなことを話してもいいのだろうか、という逡巡は見られたものの、ラーシュは率直だった。

 「だって、世界を作ったのは創世神なのに、そうじゃなくて魔王を信仰するのっておかしくないかな」


 魔王の血と引く(と言われている)帝国皇族の一員であり、狂信的な魔王崇拝者である皇帝の弟であるラーシュが、魔王崇拝に対し、疑義を持つ。

 それは、単純に信仰の自由などという言葉では片付けられない意味合いを持っていた。



うち、両親が巨人ファンだったんですけどね、そのせいで自分も野球のことなんかよく知らない子供の頃から巨人を応援してましたわ。理由もなく。親の影響って強いですね。

なので親としては、子供が大人になったときにきちんと自分の頭で「それは本当に自分の望みなのか」って考えて判断出来るような子育てと環境づくりが大切な気がします。…って話が、宗教にも通じるんじゃ。

…ま、自分には子供いませんけどね。

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