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第百四十三話 子供を何歳まで異性の親と一緒に入浴させるかは地域差もあるけど結局は周囲にどれだけ変態が多いかにもよる。




 「……ただいま」

 「ただいま戻りましたー」


 マグノリアとハルト(とクウちゃんとネコ)が小屋へ帰って来たのはほとんど同時だった。

 セドリックは既に戻って来ていて、アデリーンは一日中小屋から外へは出ていなかった。



 「随分と遅かったじゃねーか」


 セドリックに言われるとまるで責められているような気になるが、彼は普通に心配して言ってくれているのである。気遣いと態度が全くそっぽを向いている。


 「………あーーー、うん、まぁ」


 疲労困憊の様子でマグノリアは長椅子にドサッと身を投げ出した。体力バカの彼女がここまで疲れを見せるのも珍しいことである。


 「随分と疲れてるみてーだな」

 「ああ…今日は5軒回ってずーーーーっと話聞いてた……ありがと」


 最後の礼は、セドリックが彼女にお茶を淹れて渡してくれたからである。


 「なによ、ただ話聞くだけじゃない。なんでそんな疲れることあるのよ」


 一人だけ働きもせずゴロゴロしていたくせに、労うことすらしてくれないアデリーン。

 マグノリアはそんな相棒を恨みがましく睨むとお茶を一口。


 「あのな、ひたすら赤の他人のどうでもいい話を聞き続けるって、想像以上に拷問だからな?そう言うならお前も明日やってみろって」

 「えー、嫌よそんなの。聞いてる間ずっと寝てていいなら行ってもいいけど」

 「それ話聞くって言わないだろ!」


 最初からアデリーンにはあまり期待していなかったマグノリアだが、ここまで潔くサボタージュを宣言されると悲しくなってくる。



 「てめーはどうだったんだよ、ハルト?」


 セドリックは、やけにさっぱりした顔のハルトとクウちゃんを見た。

 彼もまたハルトと同様に馬小屋の掃除など未経験だが、それでもハルトと違ってその仕事内容についての知識は持っている。

 正直、ハルトがそれに耐えられるとは思っていなかったのだが、ハルトは疲れた様子を見せてはいるもののあまり堪えてはいなさそう。


 「大変でしたよぉ。馬小屋ってものすっごく大きくて、今日一日じゃ全然掃除終わりませんでした。けど、馬小屋の大きさの割に馬は少なかったから、助かりました」

 「くうちゃんおてつだいした!」

 「うん、頑張ってくれたよね。おかげで二人ともドロドロになっちゃったもんね」


 顔を見合わせて笑う二人を見て、セドリックとマグノリアは怪訝な顔になる。


 「おいちょっと待て。それにしてはやけに小綺麗じゃねーか」

 「なぁハルト。お前、作業着で出掛けなかったっけ?」


 馬小屋の掃除とくれば、馬糞と飼い葉と土と砂にまみれて大変なことになっていそうだが、ハルトもクウちゃんもこざっぱりとしていて、いつの間にかハルトは朝に着て行った作業着とは違う格好をしていた。


 「汚れましたよー、もうドロドロだし臭いし。そのまま帰るわけにもいかなかったんで、先に二人でお風呂に行ってきたんです。あ、この服はミハルお爺さんに普段着を貸してもらいました」

 「ああ、そういや共同風呂を使ってもいいんだったよな。アデル、アタシらも行くか?」


 アデリーンは働いていないので入浴なんて必要ないかもしれないが、置いていくのもなんだしセドリックを誘うのも変な感じなのでマグノリアは誘ったのだが、アデリーンは気乗りしなさそうな感じだった。


 「えー、行くのは構わないけど……あんまり混んでるなら行きたくない」

 「…………お前なぁ……」


 アデリーンにとって、入浴そのものの優先順位は然程高くない。ただ、心地よい眠りのためには欠かせない儀式ということで、入るなら入るでやけに拘るところがある。

 特に、他人と肩を並べて風呂に浸かるのは嫌なのだ。


 

 「大丈夫ですよ、アデルさん。もし他の人がたくさんいても、ものすごく大きいからきっと気になりません」

 「へー、そんなにデカいのか」


 対してマグノリアは、結構お風呂好きである。張り詰めた神経を休めるのにも、情報を収集するのにも、共同浴場は打ってつけなのだ。

 小さな村なので大したことはないだろうと思っていたのだが、ハルトが「ものすごく大きい」と形容するくらいなのだから、期待してもいいかもしれない。


 「はい!湯船なんてプールみたいで。クウちゃんったらはしゃいで泳いじゃって」

 「………………ん?」

 「他に人がいなかったから良かったですけど、そうじゃなかったらぶつかってたかも」

 「…………おい待て」


 なんか、今サラリととんでもないことを口にしなかったか、このバカ弟子は。


 「…え、なんですか?」

 「お前……クウちゃん泳いでたってお前………」

 「あ、やっぱりお風呂で泳ぐのはいけませんよね。ボクもあまり強く言わなかったのがいけないんですけど、次はちゃんと注意…」

 「じゃなくて、お前その場にいたってことだよな!?」


 ハルトは、マグノリアが何故険しい顔をしているのかが分からずに首を傾げる。


 「え、そりゃあそうですけど……一緒に入ったんですし」 

 「一緒に入ったのかよ!!」


 叫ぶマグノリア。それは色々とどうなんだ。そりゃ子供が小さいうちは親と一緒に風呂に入るものだし父親が娘を連れて共同浴場を利用することだってあるだろう。

 しかしクウちゃんは、精霊で実年齢なんて関係ないとかいう話はこの際置いといて、見た目は十歳前後の少女である。地域差もあるだろうが、流石にそこまで幼くもない。

 というかハルトはクウちゃんの父親ではない。さらに、ハルトと一緒に…ということは男湯なのだろう(もし女湯だったらよっぽど問題だ)。他に客はいなかったということだが、いたらどうするつもりだったんだ。



 「あの…すみません師匠、師匠が何を怒ってるのか分かんないんですけど…」


 ハルトは、怒られて反省している或いはしょげている、というよりは、なんだか理不尽な叱責を受けたみたいにややむくれて言った。

 ここで下手に自覚されてたりするよりは幾分マシではあるのだが……


 「いや、怒ってるわけじゃない!けど!そっ……そういう、アレだ、お前はいい加減お年頃の男なんだし、そういう、あの、アレ、その…………そういうことは、良くない!!」

 「………………?」


 いや、別にマグノリアは何も知らない初心な生娘でもなければカマトトぶっているわけでもない。が、人間的表現をするならば間違いなく何も知らない生娘であろうクウちゃんと、何も知らないボンボンなハルトに具体的描写は憚られたのだ。彼女の良識がそれを止めたのだ。



 「ちょっとマギー、何をそんなにムキになってんのよ」

 「まぁ、今さらだろ。こいつには俺様からもちょっと話しとくからよ」


 分かっているのかいないのか、呑気にハルトの援護に回ったのはアデリーン。セドリックは色々と察しているようだ。


 「べ、別にムキになってるわけじゃなくて、常識…つーか節度ってものをだな」

 「もう。十歳以上離れた子供に妬いてるんじゃないわよみっともない」

 「だ、だだ誰が妬いてるか!アタシはそうじゃなくて、そういうことは良くないって話をしてるんだろうが!!」


 どうやらアデリーンは、マグノリアを大いに誤解している。

 誤解しているフリで実は揶揄っているだけなのかもしれないが、どちらにせよ同じこと。


 

 「あのー、アデルさん?結局、どういうことなんですか?」


 未だに自分が何を責められているのか分かっていないハルトは、アデリーンに助けを求めた。


 「ああ、マギーはね、あんたがクウちゃんとだけ一緒にお風呂に行ったもんだから、ヤキモチ妬いてんのよ。仲間外れは嫌なんでしょ」

 「なーんだ、そうだったんですね。それじゃ師匠、明日は一緒に入りましょうよ」

 「ちっがーーーーう!そういう話をしてるんじゃない!!!」


 愚痴聞きで疲れ果てた精神を休めるためにさっさと寝たいマグノリアなのに、彼女の気苦労はそれをなかなか許してくれそうになかった。



 …無論、マグノリアがハルトの申し出を内心で嬉しく思ったりしたとか、そういうことは決してない。


 「んにゃなーお」


 何か分かった風なネコの合いの手が、ちょっぴり腹立たしかった。






 

たまに日帰り入浴施設行くんですけど、子供を何歳まで異性の風呂に入れてOKかってあれ自治体によって違うんですよねぇ。けっこう問題になったりもしてるみたいですし。

あと、あきらかにおむつが取れてない年齢の赤ちゃんとか。各家庭の考えとか事情とかもあるので難しい話ですよね。

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