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第百三十三話 たまには他力本願もいいじゃないか。





 「…………………」

 「で、あいつはそれなのに意地でも帝国に行くって言い張ってるんだよ。もう説得も無理そうだし、かと言って見捨てることも出来ないし、聖教会の後衛バックアップはもう受けられそうにないしで、困り果ててたってわけだ」


 戸惑うレオニールを無理矢理近くのカフェに連れ込んで、じっくりと話を聞かせたマグノリア。

 レオニールも、主関連の話とあって渋々ながらも付き合ってくれた。



 「正直言って、魔族なんてのが出てきたらアタシじゃどうにもならない。けど、アンタがいてくれるなら安心だ」

 「……………………」


 これまた正直に言うと、他力本願はマグノリアの信条に反する。今まで独立独歩でやってきたプライドもあるし、他人を頼るということはその結果も他人によって左右されてしまうから。

 自分の及ばないところに、不確定の要素を持ち込むのは出来る限り避けたかった。


 しかし…である。

 レオニールの強さは、この目で見て知っている。流石に高位魔族に対抗出来るかは不明だが、少なくともマグノリアよりはずっともっとマシなはず。

 自分と彼の実力差が分からないマグノリアではないし、そこで下手な意地を張ることなんて出来ないくらいの差が両者にはあった。



 「なぁ、アンタはいつまでハルトから隠れてなきゃいけないんだ?そろそろ……って、何黙りこくってんだよ」


 マグノリアが話している間、レオニールはずっと沈黙していた。

 その沈黙に、マグノリアは嫌な予感を覚える。まさか、レオニールまでハルトを実家に戻すとか言い出すのか…


 「ハルト様は、帝国とやらに行くことを望まれているのだな?」

 「あ、ああ。望んでるっつーより、誰が何と言おうと行ってやる!って感じだった」

 「…それで、ま……ご実家は、それに反対している、そして聖教会も…か」


 再び、レオニールは黙り込んだ。


 「なぁ、もしかしてアンタも、ハルトは実家に閉じ込めておくべき…とか考えてる?」

 「いや、私は、ハルト様がご自分の意志で決められたことを尊重して差し上げたい」


 とりあえず、レオニールはハルトの味方のようで安心。


 「しかし、帝国のれん…連中はまだしも、ま…ご実家がハルト様を連れ戻そうと本腰を入れてくるとなると、それを防げるかどうか自信はない」

 「え、なに、あいつの実家、そんな猛者揃い?」


 そう言えば教皇も、自分やメルセデスが束になっても叶わない…みたいなことを言っていたっけ。

 にしても、ヒポグリフを雑魚扱いしたり飛翼亜竜ワイバーンを瞬殺するレオニールでも、自信がないとかどんだけ修羅の家だよ。


 「えっと、アンタより強い奴もいたりするのか?」

 「直接に手合わせをしたことはないから正確には分からないが……少なくとも、まともにやりあって勝てないと思うのは五人ほどいる」

 「……マジかよ、えげつないなサクラーヴァ公爵家…」


 レオニールでも勝てない奴。しかも五人も。いくら剣帝の一族とはいえ、ちょっととんでもない。

 ハルトは自分の基礎能力にまるで無自覚だったが、そんな化け物連中の中で育ったのなら無理もない話だ。



 「……えーと、それでもアタシがアテに出来るのはアンタくらいなんだ。頼りにしてるぜ?」

 「……………………致し方あるまい。が、貴様の頼みを聞くわけではない。私は、ハルト様がご自分の意志で選ぶ未来を見てみたいだけだ」


 相変わらず素直じゃないレオニールだが、どうやらマグノリアに協力してくれるつもりはありそうだ。これで少しは安心である。





 心強い味方を手に入れて、マグノリアは宿へ戻る。どうせならもうレオニールもハルトの前に姿を見せたっていいじゃないかと言ったのだが、彼はそれを固辞した。

 ハルトと接触するのがマズいのか、ハルトと接触したという事実がマズいのかは、分からない。


 が、ここでレオニールにヘソを曲げられては困るので、彼の要望どおりハルトには内緒のまま。なんだか貴族の家ってのは面倒な事情とか抱えてたりするものなのだろうか。



 「おいハルト、帰ってるか?」


 快眠亭に戻ったマグノリアは真っ先にハルトと話し合いたいと思ったのだが、先に教会を出たはずの彼は部屋に戻ってきていなかった。


 部屋には、ベッドの縁に腰掛けて足をブラブラさせているクウちゃんと、旅道具の手入れをしているセドリック、セドリックの荷物を興味津々に眺めているネコ。



 「なぁ、セドリック。ハルトは…」

 「あいつならまだ戻ってないぞ。お前と一緒じゃなかったのかよ」


 荷物から顔を上げないままセドリックが答える。

 ハルトだって幼子ではないのだし、自分一人で行動することもあるだろうと呑気なのだ。

 

 しかし、今のハルトを一人にしておくのは良くないとマグノリアは思った。実家の追手がかかる前に、一人で帝国に侵入しようと試みることだってありうる。


 ……いや、クウちゃんを置いてそれはないか。

 見た目は幼女だがれっきとした精霊であるクウちゃんは、表現は悪いがハルトの従僕である。彼が危険に巻き込みたくなくてマグノリアやアデリーンを置いて行ったとしても、クウちゃんだけは連れていくはずだ。

 或いは、クウちゃんだけはハルトについていくはずだ。


 しかしクウちゃんは部屋でのんびりしている。ハルトの気配が遠ざかれば、彼女のことだから慌ててそれを追うだろう。

 そうしないということは、ハルトはこの付近にいるということで。



 「……ちょっと出てくる」


 セドリックに伝えると、マグノリアは再び宿を出た。

 アテはないが、ハルトを探してじっくりと話をしたい。


 

 マグノリアは、ハルトに付き合うことを決めた。

 であれば、話さなければならないことは沢山ある。ハルトに聞きたいことも、ハルトに伝えたいことも。


 帝国と、公爵家と、下手をすると教皇庁…さらにもっと下手すると聖教会までも…の向こうを張ることになるかもしれないのだ。後になって後悔しないように、納得いくまで話し合いたい。



 「…さて、あいつ何処に行ったんだか…」

 「んに、にゃお」

 「なんだよネコ、お前もハルトを探してくれるのか?」


 気付いたらネコがマグノリアについて宿を出てきていた。彼女の問いに得意そうな顔を見せると、まるで先導するように歩き出す。


 「おい、何処行くんだよ」

 「にゃにゃ、なーお」

 「ハルトの居場所、分かるのか?」


 ネコの足取りがあまりに自信に満ちているものだから、マグノリアは思わずそれを追いかけた。


 

 リエルタは、マグノリアのホームのようなものである。街の作りは、隅々まで頭に入っている。

 ネコはそんなマグノリアに負けず劣らず地理を把握しているようで、迷うこともなくスタスタと歩き続け、通りを横切り路地に入り住宅地を抜け、開けた場所に来て足を止めた。



 「…こんなところに教会なんてあったか…?」


 街の外れ。

 廃墟だろうか、朽ちかけた建物が傾きかけた陽に影を長く引き摺っていた。割れたステンドグラスと欠けた聖円環セルクーの文様が、辛うじてそこが教会であったと示していた。


 街の中心部にある立派な教会とは違う。もう使われなくなって久しいのだろう。マグノリアも、こんなところに教会の廃墟があるだなんて知らなかった。



 完全に崩れ落ちた門を踏み越えて、ネコとマグノリアは敷地の中へ入る。

 かつては賑やかだったであろう花壇や、枯れた井戸。崩れた外壁の破片。

 侘しげな光景のはずなのに、不思議とそうは思わない穏やかな空気の場所だった。



 ネコは、聖堂の前で足を止め、マグノリアを振り返った。

 誘われるように中を覗き込んだマグノリアは、床の上で膝を抱えて丸くなっているハルトを見付けた。



 「……おいコラ馬鹿弟子。何してんだよこんなとこで」

 「…………師匠?」


 マグノリアを見上げたハルトは、迷子の仔犬のような目をしていた。



 らしくないのなら、らしくなくなるようなことがあったんじゃないか。


 アデリーンの言葉が浮かんだ。



 ――――まったく、こういうのはガラじゃないってのに。



 マグノリアはハルトの横に腰を下ろした。

 何があったのかは知らないが、どうやらこのバカ弟子は現在、絶賛不安定中なようだ。


 ここは一つ、師匠らしいことをしてみようと、やっぱりガラではないのだがそう思った。

 


 


 


 

レオニールの言う、自分が勝てないと思う五人ってのは武王のうちアスターシャを除く四人とルガイアですね。彼はアスターシャのことを直接には知りません。

他にも魔界には実力者いっぱいいますが、レオさんはその中でも武王に次ぐ実力を持ってたりするんですよ普段はあれ、ただの不審者ですけど。


あと、エルニャストがマグノリアを案内した教会ですが、旧リエルタ村で彼が司祭をやってた頃のです。彼にとっても感慨深い場所みたいですよ。

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