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第百二十四話 悩みって解決もしてないのに次から次へと発生したりする。




 「そういやさ、お前らいつの間にそんな仲良くなったわけ?」


 マグノリアがさっきからずっと不思議だったのが、レオニールとシャロンの執事であるウォレスの様子である。

 これからどうするか、の話し合いの中でちょいちょい言葉を交わしていた二人だが、どうにも気心が知れた間柄のように見える。

 面識はないはずなので、ここにいる間に仲良くなったと思われるのだが……


 人当たりの良さそうなウォレスはともかく、レオニールが他人と親しげに話しているという光景が、どうにも信じがたい。


 いや、親しげと言ってもやたらにこやかなわけでもなければ、口調が柔らかいわけでもない。

 ただ、他人を見下す傾向の強いレオニールにしては、ウォレスに対し一定の評価を下しているというか敬意を払っているというか。


 なんというか、仲が良い…というよりも、もっと適切な表現があるような気がする。

 そう、それは…戦友というか、互いの力を認め合った好敵手ライバルというか、性格だとか主義主張だとか思想だとかとは別次元で、相手の力を信じている……みたいな。



 「仲良く…という表現は容認しがたいが、しかしこの男の腕は確かなものだ。まさかこれほどの強者が、れ……ら、れ、老人…の中にいるとは思わなかった」

 「いえいえ、レオニール様こそお若いのに大したものです」

 「………?なに、お前ら手合わせでもしたのかよ」


 なんだかレオニールの謎の言い間違いが不自然極まりなくて気になるが、それよりも気になるのはレオニールとウォレスの遣り取り。

 

 「ええ、実は私、崖を落ちた際にお嬢様や皆さまとはぐれてしまいまして。一旦アンテスルまで向かい、それからこの近辺でお嬢様を探しておりましたところ、ここで不審者扱いされてしまいまして」


 柔和な笑みの中に恥ずかしそうな気配を滲ませて、ウォレスが白状する。

 崖から落ちた際にはぐれた、ということは、彼にはクウちゃんやハルトの力が及んでいなかったということで、則ち彼は完全に自力であの崖から生還したということで、マグノリアはその点に尋常じゃない驚きを覚えた。


 「あれは…致し方あるまい。貴殿が気配を断って近付くからだ」


 自分も散々不審者扱いを受けてたくせに他人を不審者扱いしたレオニールは、決まり悪そうな声で抗議する。

 ウォレスの方もそれについて気分を害してはいないようだ。


 「いやぁ、申し訳ございません。とは言え、あの時点ではお嬢様が保護されているのか監禁されているのか判別がつきませんでしたので、ご容赦いただけませんか?」

 「……まぁ、よかろう。私も事情を確認もせずに貴殿を敵と断定してしまったのだからな」


 おいおいマジかよレオニール。マグノリアは唖然とする。

 気難しくて気位が高くてやたら尊大なレオニールが、こんな殊勝なことを言うなんて。


 二人の間でどんな熾烈な戦いとその後の和解があったのかは知らないが、レオニールにここまで言わせるとはこの執事、只者ではない。



 …というよりも、飛翼亜竜ワイバーンでさえ瞬殺なレオニールにここまで評価されてるって、ちょっととんでもない。

 彼がいれば、護衛なんて必要なかったんじゃないか…なんて思えてきたりする。



 「ま、まぁ……執事さんがそれだけ強いなら、ここから先は任せてもいい…のかな?」

 「はい、お任せ下さい。もう旦那様には全てをお伝えしてありますし、あちらでの警備も問題ないでしょう」


 ウォレスが「旦那様」というフレーズを出したとき、シャロンの顔に罪悪感のようなものがよぎったことにマグノリアは気付いた。

 しかし家族のことに口を出すのは自分の役目ではないので、気になりつつもそれは黙殺。きっと父娘間で、想いのすれ違いだとか誤解だとかがあったのだろう。


 「お嬢様、大丈夫ですよ。旦那様は、全部分かっていらっしゃいます。お嬢様に何も言えずにいたことを、お気にされているくらいでしたから」

 「けど……私、ずっとお父様のこと誤解して………」

 「旦那様も知っていて敢えて何も言わなかったのですから、おあいこですよ」



 どうやら、フューバー父娘には話し合いが必要そうだな、とマグノリアは思ったが、それも余計なお世話っぽかったので何も言わなかった。




 ウォレスが馬車の手配をし、出発の準備も整った後も、シャロンは渋っていた。それが、ハルトと最後に言葉を交わしたいがためだと、眠るハルトを見つめるシャロンの横顔からマグノリアは読み取った。

 自分のいないうちに、二人の間に何があったのだろう。それは分からないが、なんだか穏やかじゃない気分だ。



 「さ、お嬢様。そろそろ出発いたしませんと……」

 「…………ええ、分かったわ」


 分かったと言いつつ、シャロンはベッド脇に腰を下ろしたままハルトを見つめ続けた。

 しかしいつまでもそうしていられないと諦めたのか、やがて小さく溜息をつくと立ち上がった。


 「それじゃあね、ハルト……元気で。本当に、ありがとう。……皆さんも、本当にお世話になりました」


 名残惜しそうにハルトに告げると、シャロンはマグノリアたちに向き直って深々と頭を下げた。

 貴族が平民にそのような態度を取るというのは極めて珍しいことであり、マグノリアとアデリーンは目を丸くするが、シャロンは再び頭を上げたとき、自分や相手の身分など度外視した嘘偽りない満面の笑みを作っていた。


 「またこの近くに来ることがあったら、ぜひ我が家に立ち寄ってくださいね」


 …やはり、ハルトと何かあったのだろうか。シャロンからは、最初に会った時のツンケンした気位の高さは消え去っていた。彼女が社交辞令ではなく本気でそう言っていることくらい、社交辞令そういうことに疎いマグノリアやアデリーンにだって分かる。


 最後にもう一度、並んで頭を下げて出ていったシャロンとウォレスを見送ってから、アデリーンが


 「……ねぇ、どゆこと?あのお嬢さん何があったの?なんであんなにフレンドリーになってんの?我儘お嬢様キャラじゃなかったわけ?」


 肘でマグノリアをツンツンしながら聞いてくる。が、マグノリアだって知るはずがない。


 「アタシが知るかよ………なぁルガイア、なんかあったのか?」

 「別に何もありはしない」


 肝心なことは聞いてもなかなか答えてくれないくせに、こういうことには反応が早いルガイア。


 「何もって……シャロン嬢さんの態度の変わりようは何もなかったって感じじゃないんだけど…」

 「ただあの娘がハルト様に懸想していただけだ。姫巫女とかいう小娘といい、身の程知らずが多くて困る」

 「………え、なに、姫巫女?」


 憮然としているルガイアはどうでもいいのだが、どうでもよくないフレーズが。

 それからマグノリアは、自分たちを妙な空間から解放したエシェル派の姫巫女が、ハルトの想い人であるメルセデスと瓜二つの双子であることを思い出した。


 「え……なに、ハルトあいつ、まさか姫巫女になんかしたんじゃ………」


 マイナーな派閥所属とは言え、姫巫女とはルーディア聖教会の中でも特に清浄であることを求められる…というか清浄であることが前提の存在だ。

 まさかとは思うが…思いたくないが……


 「何かした、というのであればハルト様ではなくあの小娘の方であろう」


 何かがあった、という点は否定してくれないルガイアに、ものすごーく嫌な予感。



 「まぁ……とりあえず、ハルトが起きてから問い詰めよう」

 「いいの?問い詰めていいの?後戻り出来なくなるわよ、下手すりゃ聖教会を丸ごと敵に回すわよ!?」


 アデリーンの力強くも消極的なツッコミに、やっぱそうだよなここは何も聞かなかったことにしようかな…と日和ってしまいそうなマグノリア。

 教皇は確かに自分の依頼主だし、報告義務はあるし、そうじゃなくても諸々の事情から彼には隠し事や後ろめたい気持ちは持ちたくない。道義的にも教義的にも、それは赦されない。

 …が、そういうルール規範やお約束や自分の事情を踏まえた上で、現実的で両立可能な道を探すのが優秀な社会人の振舞いなのだとその昔レナートに聞いたような気がする。

 レナートがそう言ったのはそういう意味ではなかったかもしれないが、ここは自分にも無理矢理当て嵌めておくことにしよう。うん、そうしよう。

 

 マグノリアは、またぞろ頭の痛い悩み事を自分に押し付けてくれたバカ弟子を、恨みがましく見下ろすのだった。

 

あの、レオニールの名誉のために付け加えておきますが、本気でガチ勝負すれば流石に人間のウォレスではレオさんの敵じゃありません。

ただウォレスは、単純な火力に頼らない戦い方をするタイプでして。純粋なスピードだとか剣技だとか腕力だとか、そういうのじゃなくて相手の不意を突くのが上手いんです。誰かさんを彷彿とさせますねー。


あと、だいぶフューバー家の問題は端折ってしまいました。もうめんどい。次進みたい。とりあえず父娘の不運なすれ違いとでも思ってやって下さい。

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