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第百二十二話 偉い人が部下とか秘書のやったことなので…って言うのは例え本当だったとしても物凄くカッコ悪い。




 イライザ=ローデ。“七翼の騎士セッテアーレ”の一員。聖戦を経験したベテランの異端審問官。

 突如現れた彼女は、自らが引き連れてきた七翼の騎士セッテアーレの下部組織“暁の飛蛇エフェメリクス”と共に、瞬く間に場を収めてしまった。

 収めるというよりも…制圧した、といったほうが適切かもしれない。



 “暁の飛蛇エフェメリクス”の兵に両脇を抱えられ、シエルとパルムグレンは連行されていった。シエルはかなりの重傷で、パルムグレンの方は肉体的には問題なさそうだがまるで魂が抜けたみたいに呆けていて、二人とも抵抗する様子はなかった。



 「さて、姫巫女エリーゼさま、でしたっけ?貴女にも、色々とお話をお伺いしたいのですが…」


 イライザは、連れていかれる二人を眺めていたエリーゼにも視線を向けた。

 

 「私、ですか?」

 「ええ。貴女様は姫巫女であると同時にエシェル派の代表であらせられるのですから、今回の件について聖教会…教皇聖下に説明をする義務がありましてよ」


 きょとんと首を傾げたエリーゼと、不敵な笑みのイライザ。やけに温度差のある二人のコントラストに、マグノリアはなんだか不穏な空気を感じた。


 しかしそこに。


 「お待ちいただきたい!」


 一人の女剣士が部屋に飛び込んできて、イライザの前に立ちはだかった。

 マグノリアの知らない顔だが、灰色の法衣を纏っていることから彼女もまたエシェル派の一員なのだろう。


 「私は、ラナ=キーリー。エリーゼ様の護衛を仰せつかっている。今回の件、首謀者はパルムグレンだ。姫様は何もご存じない」


 まっすぐにイライザを見据えて断言するラナに、イライザもまた彼女をまっすぐに見つめ返した。


 「私が、いえ、教皇聖下がそれを鵜呑みにすると?」

 「噓ではない!姫様はこのような俗事とは無縁であらせられる上に、彼らのような強硬的な手法を快く思われない。彼らもそれを知っていたからこそ、姫様には何も知らせずに自分たちだけで計画を進めていたのだ」



 一体何の話やら完全に置いてけぼりを食らわされているマグノリアたちの目の前で、ラナとイライザは応酬を続ける。


 「組織の代表者が、部下の行いに一切関与していなかったというのは不自然ではないでしょうか」

 「確かに姫様はユグル・エシェルの代表の座についておられるが、それは形式的なものに過ぎない。姫様の本質は巫女であり、実務は全てパルムグレンたちが行っている」



 一体何の話やらやっぱり分からないマグノリアだが、確かに姫巫女が実務に向いていないというのは納得出来た。

 他に姫巫女の知り合いなんていないが、こんなにぽややんとした少女に宗教団体のトップは無理だろう。

 それに、エリーゼは自分たちを解放し、ハルトのもとへと案内している。それは、エシェル派の思惑とは乖離した行動だ。

 

 姫巫女が代表を務めていれば、対外的な印象は良くなる。箔もつく。そういった理由でエシェル派がエリーゼを自分たちの指導者だと標榜し、しかし与えるのは役職名だけで、実際の権限は海千山千の司教たちが握っている…というのが実態なのではないか。


 …とは思ったが、蚊帳の外っぽいマグノリアはとりあえず何も言わずに状況を見守る。



 「それで、そこまで断言する貴女は、彼らの目論見を知っていた…ということですね」

 「………………そうだ、私は、知っていた」


 イライザの、蛇を思わせるような鋭い眼差しに、ラナは顔を背けるようにして答えた。


 「そして、姫様にこの件を知られないように留意せよ、との命も受けていた。だから、私には責がある。しかし……姫様は本当に何もご存じないのだ」


 必死にエリーゼを庇おうとするラナの忠誠は見事なものだったが、イライザはそれに対し特段思うことはなさそうだった。


 「ご存じかご存じないかは、審問会にてお聞かせ願えれば結構です」

 「だから、姫様には何も語ることなど……」

 「ラナ、少し落ち着いてくださいな」


 激高して今にもイライザに掴みかかろうとしたラナを(それは最悪手だ)、呑気なエリーゼの声が引き留めた。


 「…姫様?」

 「確かに私はお飾りの指導者かもしれませんが、それでもエシェル派最高指導者、そしてユグル・エシェル代表という肩書にはそれに伴う役責があります。何も知らないからと、咎めを免れることは許されません」


 潔いエリーゼの言葉が、イライザは気に入ったようだ。

 それまでの底意地の悪い笑みから一転、どこか柔らかさを感じる微笑みを浮かべた。


 「とても良い心掛けです、姫巫女。ご安心下さい、教皇聖下は全てを見通しておられます。貴女が真実を述べるのであれば、それは必ず受け入れられるでしょう」



 ……全てを見通してるのかよ教皇。

 マグノリアは今さらながら、あの抜け目のない老人に寒気を感じる。



 ラナは、未だに渋っていた。エリーゼがまるで罪人のように引き立てられていくのが我慢ならないのだ。

 しかし、当のエリーゼがニコニコと穏やかに微笑んでいるので、それ以上は何も言えなくなる。


 「それでは、姫巫女とキーリー殿には彼らと同行していただきます」


 イライザが目配せすると、数人の“暁の飛蛇エフェメリクス”がエリーゼとラナをエスコートし、部屋から連れ出した。


 部屋を出る前に一瞬、エリーゼがハルト(まだ眠っている)を見た視線にこもっていた熱にイライザは気付いたようだったが、意味深に頷いただけで何も言わなかった。




 残った“暁の飛蛇エフェメリクス”は、機械で出来た人形(故障中)を運び出そうとしている。

 それを尻目に、イライザはマグノリアたちの方に歩いてきた。



 「貴女が、マグノリア=フォールズ?」

 「あ…ああ、そうだが」


 値踏みするようでいてどこか親しげな視線を向けられ、マグノリアは戸惑う。


 「改めまして。私は、イライザ=ローデ。貴女のお父さんの、元同僚よ」


 しかしイライザがそう続けた瞬間、マグノリアからは戸惑いが消えその代わりに浮かんだのは警戒と、あとは彼女自身もよく分からない感情。


 「嫌だわ、そんな怖い顔しないで?貴女は聖下の協力者なのでしょう?仲良くやりましょうよ」


 イライザはそう言うが、そして言葉に嘘はないようだが、だからと言ってはいそうですか、と言えるほどマグノリアは父のことを割り切ることが出来ない。


 

 イライザは、表情を凍らせたマグノリアをこれ以上刺激するのは好ましくないと感じたのか、次はルガイアに…正しくはルガイアに抱きかかえられるようにして眠っているハルトに目を向けた。


 「それで……彼が、リュートの息子さん?」

 「え、あ、ああ……そうだ。ハルト=サクラーヴァ。あいつのことも、教皇に聞いていたのか」


 マグノリアとしてはこれ以上イライザと会話したくはなかったのだが、自分以外に彼女の問いに答えてくれる輩はいなさそうなので、仕方なく返答。


 「ええ、そりゃあね」


 気楽に言って、イライザはハルトの顔を覗き込む。ルガイアが僅かに眉を顰めるが、それを無視してまじまじと観察し、


 「……へぇ、確かによく似ているわ。大きくなったら彼と瓜二つになるわね」


 何故かすごく楽しそうに…楽しそうというよりは楽しみにしている、といった感じで


 「似てるのは、外見だけじゃなきゃいいんだけど。あっちの方とか…ね」


 …と、付け足した。


 それからジト目で自分を睨み付けているマグノリアに気付くと、不敵な笑みを浮かべる。


 「あら嫌だ、お子様は気にしなくてもいいのよ?」

 「………………………」


 マグノリアとて、子供ではない。イライザよりもずっと若いが、それでも成人はしているし、何も分からない初心な小娘でもない。


 …が、ここはそういうことにしておいた方がいいか、なんだか面倒臭いし。と、ツッコむのをやめたのだった。



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