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第百十六話 マウレさんとこのご兄弟は本当に仲が良いのねぇ、て話。




 〖…ラングレー殿、大丈夫ですか?〗


 立ち竦むシエルに、パルムグレンが近付いた。

 シエルは、感情のない顔と声色で答える。


 「問題ありません。消耗はありますが、まだ戦えます」

 〖いえ、そうではなくて……〗


 パルムグレンが気遣っていたのは、シエルの戦力ではなくシエルの心情だった。

 〖その…あの少年とは、親しかったのでは……〗


 シエルはパルムグレンの気遣いに、僅かに頬を綻ばせた。それはどちらかというと、自嘲めいた笑みだった。


 「いいえ、親しいというほどの付き合いはありませんでしたよ。少なくとも、障害として排除するに抵抗を感じない程度には…ね」

 〖……………〗


 パルムグレンはそれをシエルの強がりだと察した。しかし己を守るために強がっている相手に、それを否定することなど出来ず、沈黙を返すしかなかった。


 

 「そんなことより」


 シエルは、ハルトから目を逸らすと未だ残る敵に視線を向けた。

 喪失感からか完全に茫然自失となっている幼女は、捨て置いても構わないだろう。しかし……


 「仲間がやられたというのに、随分と呑気なものだな」


 ハルトが殺される様を目の前で見ていたのにも関わらず、まるで動こうともしなかった神官の男。

 彼は、シエルがハルトの背後へ回ったことも気付いていたはずだ。それなのに、何故止めようとしなかったのか。


 「お前は、ハルトの仲間…ではなかったのか?それとも、何か別の目的でも?」

 「…………エルゼイ=ラングストン、といったか」


 神官の男…ルガイアは、シエルの質問には答えなかった。代わりに、シエルに確認する。


 「その名は、聞いたことがある。二千年前の天地大戦において、地上界の最後の護り手と呼ばれた廉族れんぞくの戦士の中に、その名があったはずだ」

 「ご名答。神聖騎士団特務部隊駆逐班、エルゼイ=ラングストン。……こんな肩書、今じゃ意味をなさないが」


 ルガイアに答えるシエルからは、ハルトと接していたときのような穏やかな空気は消えていた。

 冷酷で獰猛な獣の双眸で、敵を見据える。

 その殺気は決して自分に向けられたものではないことを分かっていながら、パルムグレンは恐怖に後ずさった。

 ルガイアはまるで動じることなく、その殺気を真向から受け止めて涼しい顔をしている。


 

 「……やはり、只者ではないようだ。貴様は、ハルトの仲間ではないな。彼に近付いて、何を企む?何が目的だ?」


 ルガイアのハルトに対する態度は、明らかにマグノリアたちのものとは異なる。まるでハルトを観察するかのような、何かを見極めようとするような、冷徹な視線。それは、仲間に対するものではない。

 どこかで見たような目だと思ったら、霊装機兵の起動実験中の魔導研究者たちの目とよく似ていた。



 「…………」

 「にゃ、んにゃなーお」


 押し黙ったルガイアに、その肩に乗っかった黒猫が耳打ちするように鳴いた。それから地面に降りると、トコトコと幼女に向かって歩き出す。


 緊迫した空気には、場違いな光景だった。

 パルムグレンは、毒気を抜かれつつ流されまいとして、一つの過ちを犯した。


 〖ラングレー殿。まずはこの者たちも排除致しましょう〗


 そう言うとルガイアに向き直り、進路上にいた小さな仔猫を何の気なしに跳ねのける。

 

 「ににゃっ!」


 攻撃、などという大げさなものではなかった。ただ軽く、腕で払い除けただけ。しかし人の掌に乗ってしまいそうなくらい小さな仔猫は、それだけで跳ね飛ばされ、壁に激突して落ちた。


 その瞬間。


 「エルネスト!!」


 つい先ほどまでは能面のように無表情だったルガイアが、途端に形相を変えて慌てて仔猫へ駆け寄った。ハルトが吹っ飛ばされたときとはまるで温度が違う。

 うずくまる仔猫を見遣る視線も、心配と不安で酷く揺れている。


 「大丈夫か、怪我は……」

 「んに……にー……」


 ルガイアの呼びかけに仔猫は弱々しく答えると、身震いをしてから起き上がった。

 打ちどころが良かったのか、大した怪我はなさそうだった。


 しかし、ルガイアにとっては怪我の有無など関係ないようだ。

 仔猫の無事に安堵の溜息を漏らすと、振り返ったときにはその全身から憤怒のオーラが渦を巻き迸っていた。


 「貴様……どうやら地獄を見たいらしいな」


 押し殺した声。燃え盛る双眸。部屋に満ちる濃密な怒気。

 不可視の刃を心臓に突き立てられたかのような恐怖に駆られ、パルムグレンは防御行動に出た。


 ルガイアを殺そうと、特殊霊装を起動させる。

 しかし、彼の炎が発現したのとほぼ同時に、ルガイアもまた一つの術を構築していた。


 「【炎神紅霊滅クリムゾエクリプス】」


 同系統の属性攻撃がぶつかり合った場合、弱い方の力は強い方に引き寄せられ、呑み込まれてしまう。

 上位相当でしかないパルムグレンの炎は、ルガイアの超位術式によって生み出された劫火に吸収された。


 〖な………?〗


 超位術式という未知の領域を目の当たりにして絶句するパルムグレンだが、ルガイアは容赦しなかった。


 「愚かな廉族れんぞくが。滅びるがいい。…【氷神来フリーゼク……」

 「ににゃ、にゃー」


 しかし、氷雪系超位術式で霊装機兵を氷漬けにしようとした瞬間、すっかり回復した猫がルガイアの裾を引っ張って注意を惹いた。


 「……どうした」

 術式起動を中断し、猫のところに屈みこむルガイア。猫は、何かを伝えたがっているようだった。


 「に、にー」


 猫の視線を追ってルガイアが見たもの。

 シエルも同時に、それに気付く。



 それは……起き上がってこちらを見ている、死んだはずのハルトの姿だった。

 

死んで一話ですぐ生き返る主人公(汗)

まぁお約束なんであんまり勿体ぶるのも…ねぇ?初めてじゃないし。

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